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種族絶戦 ◈◈◈人の過ち◈◈◈  作者: すけ介
不穏な兆し
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第183話

「どうだった、リリス?」

「上手くいったよ! ありがと、ティナ!」

宿に戻ると早速ティナとリリスが恐らくは夕陽のことについて拳を付き合わせていた。

「リリスとのデートどうだった~」

「またお前とは違う所に行ってきたよ」

「どこどこ?」

「夕陽、かな?」

「いいな~。綺麗だもんね夕陽~」

既に酒が入っているのか眠そうに受け答えするリアス。その隣では緊張気味に例の奴隷が行儀よく座っていた。

「お前、緊張してるのか?」

「椅子になんて座らせてもらったことありません…」

なんともやりにくい。サンの頭を静かに撫でるユウリは遠目で俺達を眺めていた。

「そうか。まあ、リラックスしてくれ。ユウリ、今日はコイツを頼めるか?」

「ん。お前が言うならなんでも聞こう」

「ガウッ!」

「と言うことでお前…そう言えば名前を聞いてなかったな。お前、名前は?」

その頃にはティナやリリスも席につき俺達の会話に耳を傾けている。そして奴隷はボサボサに伸びきった髪を後ろへ回した。

「はい。私はレジェネータです。よろしくおねがいします!」

「よろしくな、レジェネータ。早速事情を聞きたい、なんて言わない。明日からは自由にしてくれて構わない」

「っ!」

「宿代は出してやる。金もある程度やるよ。お前はもう奴隷じゃない!」

「っ!」

犬のような大きな首輪を丁寧に外し、それを跡形もなく燃やしてしまう。因縁の品は残すものじゃない。

「明日は俺の連れと町でも回ってくると良い。リアス、リリス、頼めるか?」

『当たり前!』

「と言うことだ。今日の所は、皆おやすみ~」

俺はそれだけ言うと階段を登る。ホントに女性の率が多いな…。俺って色好だろうか…。

「ガウッ!」

「ん、ついてきたのか?」

扉を閉めようとするとその扉の隙間へフサフサの毛に覆われた足が挟まってしまう。慌てて開けると自分の足を庇いながらもサンが嬉しそうに尻尾を振っていた。

「ガウッ、ガウッ!」

「最近構ってやれてなかったな…。来い!」

「ガウッ!」

甘えたい欲望に耐えるように姿勢を低くしていたサンは俺の言葉を受けると思いっきり飛び付いてくる。顔を擦り付けるサンを優しく抱き留めると、目を細め嬉しそうに鳴いた。

「そう言えばお前に渡したいものがあるんだ!」

「ガウッ?」

「約束の品だ。受け取ってくれ」

「ガウッ!」

キルがしたようにサンの頭を抱き締めたまま、己の中のスキルを意識する。これは生物としての原初的な技能なのか自然に意識したスキルは移動させることができた。

「………」

「ガゥゥ…」

「受け入れろ。拒むなよ!」

「ガ、ガゥ…」

キルの時は白い魔力だったのだが俺が譲渡しようとすると黒い魔力が渦巻いた。例の通り体を強張らせるサンだったが優しく背を撫でながら宥めてやると落ち着いた。

「大丈夫か?」

「ガゥゥ…」

グッタリとしたサンは俺の膝へ顎を乗せだらしなく脱力していた。俺は問題なかったのだが普通は体力を削るのか…。いや、人から魔物だからか…?

「なあサン、『人化』、使えるか?」

「ガウッ!」

まあ、当たり前だがサンに譲渡したのはこないだ作ったばかりの『人化』だった。正直どうなるのか楽しみだ!

「っ……」

明らかに異常な魔力の放流を感じる。体を構成する魔力が多いのか不必要な分の魔力は放たれるようだな。そしてそんな状況に俺は何が来るのかと生唾を飲んだ。

「こんばんは、お父さん!」

魔力が一際多く放たれるとのと共に視界が防がれる。そしてそれを越えた先には低身の少女が赤い毛皮の服を纏い立っていた。

「サン、か?」

「うん。約束守ってくれたんだね!」

そうやって笑みを浮かべる少女の眼は限りなく黒に近い赤色をしていた。赤髪の中に時々混じる黒髪は少し珍しい感じが否めない。

「それにしてもお前、雌だったんだな?」 

「そこっ!? と言うか知らなかったの!?」

「あ、まあな。俺は肉体構成には手なんて加えてないし…」

「それはそうだけど…」

俺の隣へ座って不貞腐れたように足をブラつかせるサン。と言うか喋り方が限りなくティナに似てるな…。やはり子供は周囲の影響を受けるのか?

「あとサン…」

「なに?」

「御願いだからティナが来るだろうからその時はそのスキルは解いていてくれよ?」

「分かった~。けどどうして?」

「ティナが妬くから!」

「分かった~」

感情により反応する尻尾は椅子の背もたれの間の隙間から垂れてユラユラと揺れていた。そしていつの間にか作り出した炎を手に乗せながら遊んでいた。

「地味に凄いことするな…」

「えへへ、お父さんに誉められちゃった~」

「いや普通に…。あとどうして俺がお父さんなんだ?」

「サンを作ったのはお父さんでしょ?」

「確かに…」

そう考えたら俺がお父さんで間違いではないのか。上機嫌に笑みを浮かべたサンはさっきよりも大きな炎で綺麗な薔薇を作り出していた。

「………」

「芸術的だ…。サン、狼の時はできないのか?」

「うーんとね~、手があるから出来る~のかな。狼の時じゃ簡単な魔法しか…」

「そうか…」

実に勿体無い。ここまで器用な魔力操作が可能にも関わらず元の姿になると単純なモノしか使えないなんて…。

「け、けど、頑張るから! 頑張るからね!」

「っ! 期待、してるぞ!」

俺の素っ気ない言葉に不安になったのか椅子から飛び出しすがりつくサン。その必死さに思わず笑ってしまった。

「頑張るからね!」

「もう良いって。もう分かったよ」

「だって……」

「俺は仲間を無下にはしない。お前も立派な俺の仲間だろ?」

優しく抱き締め小さく囁いた。エリやサチと同じくらいの背のサンを抱き締めると全身が手に収る。

「お父さん…。お母さん達の気持ちが分かったよ…」

「もしかしてリアス達のことか?」

「それ以外に誰がいるのさ!」

まあ、それりゃそうか。と言うか俺の回りにはアイツら以外、性別を除外しても誰もいないからな。

「それにしてもサン、狼の時でも俺達の言葉は理解しているのか?」

「うん。会話ができる方が楽しいけどね~」

そう言って前髪をイジッて遊ぶサン。子供のような仕草、そして現に子供なのにサンはしっかりしていると思う。やはり獣同様に魔物も成熟が早いんだろうか…。

「なあサン、折角人に変化できたんだしやりたいこととかないのか?」

「サンは、お父さんと言葉を交わせるだけで嬉しいよ! それに時間もないしね!」

チラッと扉の方へ視線を向けるサン。俺は何も感じない。しかしサンは意味ありげにウインクする。

「ん?」

「お父さん、また明日ね!」

意味深なウインクを残し、遊んでいた炎を消し去ったサンは影の中へと消えた。恐らくは誰かに部屋に行ったんだろう…。そして数秒後、その意味が分かった。

コンコン、

「どうぞ」

「こんばんは、リョウ兄!」

入ってきたのは白いネグリジェを纏うティナ。翡翠色の髪が艶やかに舞うその姿はあまりにも美しい。

「気合い入ってんな~」

「そう? キモい?」

「全然! 逆に綺麗だと思う」

「っ!」

驚いたような表情をしたところて、腰に手をまわし抱き寄せる。細身の体が懐の中へ収まると、見上げる形になるティナが俺を見つめた。

「っ……」

「んぅっ…」

流れるような動作で交わされる口付け。淡く紅潮した顔には汗が浮かんでいた。

「可愛い!」

「ふやぁぁ…。ぁぁ…」

トロけた表情を浮かべるその姿はなんというか、妙に色っぽい。そしてそんなティナへもう再び顔を近付けるとその日はその流れのまま眠ってしまった。

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