第18話
「どうしたのリョウ!?」
カランカランと音が鳴り扉を開くと、そこにはリアスとティナが心配そうに待っていた。もう夜も遅く他の客は居なかった。
「少し魔物と遭遇してな、」
決して嘘じゃない。まあ、遭遇ではなく誘発だが…、
「リョウ!」
「ごめんって、」
ん、なんかいつもと違う。手はしっかりと握りしめてて、目尻には涙が溜まっていた。
「心配したんだから、、私がいればって、フラフラだって聞いて…、私、私…、」
抱き付いて泣かれても困る。本当に申し訳無く思うじゃないか。
「…、」
「私、なんて言えばいいの!悲しくって不安で心配で…、」
「本当にごめん。もう行かないからさ、ごめん。」
「リョウ…、」
やはり俺は考えが浅い。こんなに心配してくれるのを良く考えれば予想出来た筈なのに…。
こんな子を悲しませるなんて最低だな。肝に命じよう。
「ティナも、ティナも心配したんだから!ちゃんとティナが止めてたら…、」
「ティナのせいじゃない!ごめん、ごめんな。」
ヤバい。罪悪感しかない。この両手に涙の暖かさが伝わる。本当に俺って奴は…、
「私、ホントに、ホントに、」
「ティナだって、」
「二人共、それ以上に自分を責めないでくれ。今回のは俺自身自業自得だ。こんな傷だって神が罰を与えたんだ。二人のせいじゃない!」
「…、」
「…、」
「そんな顔するなって、俺が悲しくなるじゃないか!」
そんな顔されたら申し訳なさ過ぎる。ホントに、マジで。
「…、」
「…、」
「もうー!二人共、もう止めだ。上がろう上がろう。二人共眠いだろ!」
ほぼ強引に二人の手を引いてベッドに寝転ぶ。こんな時でも思い出すのは絶対に向こうの部屋へ行こうという意思だ。
「本当に今日はごめんな。朝から迷惑かけて、昼からは心配かけて…。本当はもっと早く戻ってくるつもりだったんだが。本当だぞ。けど、手間取ってしまって。ごめんな、二人共、今日は迷惑かけたな…、」
二人共俺の手の上で寝ていた。そしてか細い指でしっかりと俺の手を握りしめて。
「はぁ。二人共、寝ちゃったか……。」
まあ仕方ない。
もう月は西へ傾き始めていた。
本当に、ごめんな。
ごそごそと何かが手の上で動いた。そして静かに布団を抜け出すと、なにやら部屋の中で動き始めた。気になって薄目を開けると、部屋着から外行きの服へと着替え始めるティナだった。咄嗟に目を瞑ったが、勘づかれたか?
「リョウ兄?」
静かに俺の所へ来ると俺の顔を覗き込む。それも数秒続けると、また着替えを再開した。気配で分かるんだよな。
「リョウ兄、起きてるんなら起きてもいいよ。ティナの着替えなんて面白くもなんともないからさ、」
そんなこと言われてノコノコ起きる馬鹿があるか!昨日あれだけ心配してくれた子に、さらに覗きなんて…、俺にはそんな度胸無い…。
「寝てるみたい。リョウ兄になら覗かれてもいいのに!」
フフフと笑う声が聞こえたが、俺は何も聞こえていない。今のは空耳だ…。
「♪♪♪♪♪」
鼻歌を歌いながら部屋を出ていく。起きるなら今だな。
「ふぅ。それにしても朝から緊張した。」
朝からいらない気を使った。それに滅茶苦茶緊張したし…。ホント、寝起きにはキツかった。
けど、朝からのティナも可愛かったな。いつも完璧なティナの寝癖なんてギャップ感とか半端なかったし!
「あれ、リョウ兄起きたの?」
「あぁ。おはようティナ。」
「おはようリョウ兄。やっぱり酔ってなかったら早いんだ。」
「まあな。癖、かな?」
「そうなんだ。昨日は‥」
「止めろ。それはもう忘れよう。な、それに俺がティナの心配もよそに飛び出したんだ。絶対的に俺が悪い!」
「けど…、」
「だから止めよう?そんな悲しい顔してたら可愛い顔が台無しだぞ。」
「可愛いだなんて、」
ホントに口が軽くなったな。竜次といい勝負だぞ!
「どうだ、まだ早いが二人で歩きに行かないか?」
「散歩?」
「あぁ。昨日はほとんど宿から出てないだろ。まあ、俺のせいだけど。」
「リョウ兄、それは言わないんでしょ?」
「そうだな。じゃあ行こう。」
「うん。そう言えば、ティナの裸はどうだった?」
「っ!」
「ニシシ、それでいいんだよ!」
「ごめん、」
「言ったでしょ。リョウ兄ならいいよ!」
ティナはそう言って笑うと、先に扉を出た。そう言えばリアスが起きる前に帰らなきゃな。
気候的には日本の冬に値するのだろう。
冷たい風と、薄い氷が張った池が冬だということをしみじみと感じさせた。
「久しぶりにゆっくりとしてる気がするな。」
「そうなの?」
「あぁ。トーナメントで戦って、冒険者登録をして、酒にやられて…。」
「大変だねぇ。」
「まあな。けど好きでやってるんだから、苦じゃないさ。」
「そう。でも、もう少し休んでほしいな。」
「?」
「だって、昨日もお酒に酔っただけじゃない筈だよ。リョウ兄も疲れるんだし、」
「そうか、そうだな。少しゆっくりとするのもいいかもしれない…。」
朝早く誰もいない公園は俺とティナだけのもの。
太陽の光が照らす水上の氷はキラキラと光を反射し美しいものだ。そしてそんな風景をバックにしたティナも美しい。
「リョウ兄、こんな時が続けばいいね。」
不意に呟かれたそんな言葉。
その真意は図りかねるが、やはり前言ってたことなのかもしれない。
「そうだな……。今度また来よう。ティナも来るだろ?」
「うん。ティナはリョウ兄についてくよ!」
「ありがとう、」
凍り付いた道を踏み締める音が静かに鳴る。
鮮やかに反射した日の光が俺達と道先を照らした。
「まだ寝てるみたいだな、」
二人でゆっくりと部屋の中を覗くと、リアスはまだ寝ていた。流石に起きて誰もいないって状況は可哀想だしな。
「どうする?降りとく、それともリアスのとこにいとく?」
「そうだなあ。降りとこう。今ならボチボチと開店時間だろう。」
「分かった。じゃあ少し待ってて!」
そう言って部屋の中へ入ると小さな財布を持って出てくる。これは使い物として俺が二人にプレゼントした物だ。
「じゃあ行こ♪」
妙に機嫌の良いティナが、先頭を軽快に歩く。
下は既にカフェとして起動しており、ここの子供ことリンが接客を始めていた。
「何にする?」
「ティナは……、サンドウィッチで!」
「好きだな!」
「うん。色々あって可愛いし♪」
「そっか。じゃあ俺もサンドウィッチで!」
「合わせなくていいんだよ?」
「大丈夫だ。俺も嫌いじゃないし、」
「そう。」
そうやって注文が決まった頃、リン、が注文を聞くため歩いてくる。
「お兄ちゃん大丈夫?」
「大丈夫だよ。心配させたみたいだな、ごめんな。」
「うん、良かった。お姉ちゃんは?」
「まだ部屋にいるよ。今日は先に降りてきたんだ、」
「そっか。じゃあ今日は何する?」
「サンドウィッチ2つ。俺とこのお姉ちゃんもな。」
「分かったー。待っててね♪」
注文を確認するとチョコチョコと厨房へ戻っていった。あの子は働きに来てるのかな?
「あの子には優しい言葉遣いだね。」
「なんだ、焼きもちか?」
「そ、そんなことないもん!」
悪い笑みを浮かべながらそんな質問をしたが、見事俺に返され悪い笑みが真っ赤な赤面に変わった。
「冗談だ。小さい子に二人と同じ言葉遣いじゃ怖いだろ?」
「そうかな?」
「そうだろ?それに年下だし、」
どうやら納得しかない様子。
若干の価値観の違いか?
「そっか。まあいいっか。」
分からないも納得してくれたようで良かった。
変に考えられたらロリ○ンになるからな。