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種族絶戦 ◈◈◈人の過ち◈◈◈  作者: すけ介
不穏な兆し
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第177話

「ウオオオオオオオ!」

「まるでゾンビだな?」

思いっきり殴りかかってくる魔物。その拳には魔物のような力強さはなく、かといって達人のように洗練されてもいない。

「ウオオオオオオオ!」

「それにしても数が多いな…」

ティナは5匹と言っていたがその数は凡そ20匹。痛みが無いのか腕等の四肢が吹き飛んている個体もチラホラと見掛ける。

「ウオオオオオオオ!」

「おっと…。魔物の割には力も弱いな」

放たれた拳を受け止め力一杯握り締める。バキバキという音と共に砕かれた拳。それでも痛みを感じない魔物はもう片方の手で俺を殴り付ける。

「ウオオッ! ウオオッ! ウオオッ!」

「調子にのるなよ。雑魚が!」

未だ調子にのって拳を降り続ける魔物の腕を掴むとその眉間へ銃口を向ける。

バンッ!

風穴の空いた魔物は一瞬動かなくなった。が、少しすると再び動き出す。それと共に再び動き出す周囲の魔物も俺へとその拳を振り上げる。

『ウオオオオオオオ!』

「調子にのるなよ。『絶炎ノ武具』」

その瞬間、範囲内の全ての物質が焼失した。勢いをつける鮮やかな炎は俺の体を守るように取り巻く。

「ウオオオオオオオ!」

「名付けて絶剣・炎裂。感謝しろ、初の御披露目だ!」

炎がある程度散ると最小限の鎧が俺を包み、1メートル程の細身の美しい直剣がその美麗なる姿を現した。

「ウオオオオオオオ!」

「うるさい!」

柄を掴み横薙ぎに一閃。全てを切り裂く炎の刃は魔物達を腹の部分から真っ二つにした。

「ウオォォォ……」

「死に損ないが。闇魔法‥」

剣を振り上げ、無様にも上半身だけで這い回る魔物を見下ろす。実に、憐れだ。

「救済ノ柱!」

音もなく降り立つ闇柱。それは死に損ない達を無情にも切り裂き滅し跡形もなく消し去った。残るは術者である俺だけ。周囲には何の生命も残ってはいなかった。

「リョウ兄!」

そんな声に呼ばれ振り向くとはるか遠くで手を振る存在に気が付く。随分離れていたようだ。ここからではギリギリその存在に気が付ける程だった。

「随分と実力が上がってるな…」

絶炎の武具達を解除し、いつの間にか俺を取り巻く邪気も解除した。抉れた地面は広範囲に及び、遠く離れている筈のティナの少し手前までは消失しきっている。

「リョウ兄、もしかしてさっきのは?」

「俺だ。斬り殺すのが面倒だったから消滅しえもらったんだ」

「けどそれって…魔晶が採れないんじゃ?」

「大丈夫! 俺達の指定された量はもう集まったろ?」

「そうだけど…」

「なら行くぞ。サチが心配だ!」

「う、うん!」

来るときは風魔法を器用に駆使し飛んできたティナ。しかし帰りは俺の翼により飛ばされるので問題無い。バサッバサッと風を切る翼は俺とティナ、2人を運んでいくのだった。


「だ、大丈夫でしたか!?」

「大丈夫だ。心配性だな~」

「だ、だって私のせいじゃないですか…!」

そう言って泣き出してしまうサチ。優しすぎるサチには自分のせいで誰かが傷付くのが辛くて仕方ないんだろう。

「お前は悪くない。最善を尽くしても望む結果ご得られないこともよくある。お前はベストを尽くしたと思う!」

「ぐすんっ…、ぐすんっ…。リョウさ~ん!」

泣きじゃくるサチを懐に抱き静かに背をさする。俺の為に泣いてくれた者に寄り添ってやるのは人としての道理だと思うから…。

「もう泣くなよ。お前は悪くないんだ」

「ぐすんっ…ぐすんっ…」

「泣き虫が…。折角の可愛い顔が台無しじゃないか!」

「っ!」

涙を拭きポンポンと頭を撫でると、俺は地へ突き刺した大太刀を鞘へ納め近くの岩へ腰を下ろす。

「サチ、混乱してるだろうが頼み事をしていいか?」

「は、はい!」

「最近少し頭が痛いんだ。薬草は分かるだろ? 採ってきてくれるか?」

「はい!」

俺の言葉に素直にうなずいたサチはキョロキョロと辺りを見回すと走り出す。そしてそれと同時に俺の方へと歩いてくるティナの目は冷たい。

「ロリコン…」

「誤解だ!」

「十分すぎる証拠がある!」

「いや、だから…」

「言い訳なんていい!」

「………」

背に手を回して顔を埋めるティナの表情は計り知れない。そんなティナを抱きしめようか躊躇っていると…

「サチは抱き締められたのにティナはダメなんだね…」

「…………」

そう言って離れていくティナ。冷静な装いを保つその姿に俺は久し振りに胸の中が切なくなった。

「ティナよりサチの方が賢いし可愛いもんね。いいよ…。ティナなんていらな‥」

「バカ言うなよ!」

目の前で顔を伏せるティナを抱き締め言い放つ。呆気にとられたような表情のティナの目を見つめながら話し始めた。俺は無性にその手を離したくなかった。

「………」

「お前は俺のことが嫌いか?」

「ち、違うよ!」

「俺はお前が拒むのなら手離すことも覚悟だ。けど出来るなら、俺から離れていかないでくれ…」

いくら自制しようとしても言葉で言い表してからはもうどうしようもなかった。抱き締めティナに表情を見られないことを良いことに俺の目は涙が溢れていた。

「リョウ兄…」

情けなく俺は震えていた。ティナを含め皆に偉そうに接していた俺だが依存していたのは俺の方だったようだ。

「ゴメン。お前の意見も尊重せずに…」

「ティナが本当にリョウ兄を嫌いになると思ってるの?」

気が付くとティナの顔がすぐ近くに来ていた。小さな唇が触れて喪失感に染まった心を暖かい気持ちが満たしていった。

「ティナ…」

「そんな顔しないでよ。ティナが相手じゃ、イヤ?」

「っ!」

「ティナこそゴメンね。リョウ兄がそんなに想ってくれてるなんて知らないで…」

「………」

少し顔を赤くしながら呟くティナ。うつ向きながらも俺の方を見るティナはなんとも俺をいつもの調子に導いてくれた。

「そんなこと、あるはずないだろ? 俺にはお前達しか残ってないんだ。俺から、離れないでくれ…」

「んぅ…」

確かめるように重ねられた口付け。深く長い時間だったがそれは刹那にも感じられるような短さで、その中には性愛的な感情は含まれずただただ親愛の念が強く伝わってくるのみだった。

ガサガサ…

「ティナ、本当空気を壊すようで悪いんだが離れようか?」

「………うん」

顔を真っ赤にしたティナは静かに離れると小さくなって近くの岩へ腰を下ろす。何故ならコソコソと草村の中かは覗く物がいるから。

「サチ、出てきてもいいぞ」

「………」

驚いたような表情をしたが諦めたのか立ち上がると無言で出てくる。そして俺の方へ歩いてくると俺の言った薬草を手渡しでくれた。

「ありがとな…」

笑みを浮かべ頭に手を持っていこうとしたが、その前にサチは深々と頭を下げる。

「ごめんなさい。私、もっとタイミングを考えるべきだったのに…。ごめんなさい!」

謝り倒すサチ。その勢いにティナも驚いてピクリと眉を動かすが必死のサチはそんなこと気付く余地もなかった。

「子供なのに気を使わなくていいんだ。子供らしく振る舞えばいいんだぞ?」

「…………」

「ティナ、そろそろ戻っていいだろうか?」

「いいんじゃない? もう20匹仕留めたんでしょ?」

「その筈だ。帰ったら3人でまた遊んでればいいだろ?」

「そうだけ。サチはそれでいい?」

「っ…はい!」

「なら決定だ。闇魔法‥」

ボワッと魔力が広がり足元を渦巻く。もしもの時の為、2人をしっかり抱える。

「行くぞ。影移動」

呆気ないくらい跡形もなく消え去る体。あとに残るのは俺から滴った返り血だけだった。

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