第175話
「いつもの森の中だね!」
「あぁ。サチも来たことあるよな?」
「はい。魔力操作を試したところですよね?」
「そうだ。まあ、その時みたいな開けた場所じゃないしいつ魔物が襲ってくるか分からない。こんなふうにな!」
振り向かず鞘を後ろへ突き出す。すると何かを殴った感覚があり、振り向くと眼球を潰された狼がビクッビクッと震えていた。
「す、凄い…」
「基本的に生き物の体からは魔力が漏れている。それを敏感に感じることが出来れば上出来だ。まあ応用で距離や形を感じられれば最高だな!」
「が、頑張ります!」
意気込むサチを見ているといつかの優司達みたいだ。温かい笑みを浮かべるティナはグッチョ、と親指を立てていた。
「まあ、今回は俺とティナがサポートするし、今日のところは連戦に慣れてくれればいい」
「はい!」
と言って始まる魔物討伐。
いつもなら魔力を放出して自分以外の魔力に触れれば感知するというような方法なのだが、サチに普通の方法を説明したのでその方法は使えない。
「見付けた。数は3匹。取り敢えずはサチに頼みたいんだが出来るか?」
「はい!」
「ならティナ。サチを連れてきてくれるか?」
「いいよ。リョウは囲みに行くの?」
「まあな。逃げられれば意味無くなるだろ?」
「うん…」
少し広めに囲ってその中で殺し回るって方法もありだろう。2人から少し離れた位置に移動した俺は足元へ魔力を集める。
「少し疲れるんだろうな。土魔法‥」
足元の魔力は一点に集中させられ、足元は魔力のせいで風圧が生まれていた。
「円塀突」
地面をおもいっきり殴り付ける。それにより弾けとんだ魔力は円形に広がっていき結果、円を描くように土塀が作られる。
「この中に魔物は………13匹か…」
7匹足りない。俺は翼で5メートル程の土塀を越え、1番近い魔物を探す。
「お前達、仕留めてこい!」
大量に余っているレッサーガルムの魔晶を放つ。1匹でそれぞれを仕留められる程の実力を持っているのだが念のため1匹の魔物に2匹のレッサーガルムを遣わせた。
「それにしても広いよな~」
高い位置から森林を見渡すと地平線の果てまで緑が埋め尽くしている。もしもこんな所ではぐれたりなんてしたら見付けられない…。
「ガルッ、ガルッ!」
「お前達早いな。もう仕留めてきたのか?」
俺の眼下には既に放った14匹の魔物、全てが集合していた。そしてその足元には言った通りの魔物が転がっていた。
「ガルッ、ガルッ!」
「ありがとな。もう戻っていいぞ!」
俺の言葉に14匹の魔物は魔晶へと戻る。仕留めてきた魔物、魔晶を回収すると俺はシズシズと土塀の中へと戻っていった。
「リょさん、いつの間に仕留めてきたんですか?」
「この土塀の中にいない分だ。サチ、まずは出来るだけ1人で斬ってこい!」
「はい!」
俺の言葉に駆け出すサチ。心配そうにその後ろを見送るティナは少しソワソワした様子だ…。
「本当にいいの? 危なくない?」
「冒険者として鍛えるならそれくらいさせなければならない。それに俺はコイツらから魔晶を採らなきゃ…」
《土魔法・創具》
土の棒が生成され、その上に立つ俺達を天高く持ち上げる。そして俺達の立つ面は円のような形に広がっていった。
「凄いね…。魔力量が違うのかな?」
「そうだな。最低でもティナの1000倍はある!」
「はい?」
「俺の魔力は無限なんだ。言ってなかったか?」
「言ってたように言ってないような……忘れちゃった!」
「はぁぁ。まあどっちでもいい。それよりティナ、お前にも課題だ!」
「課題?」
「そうだ。まずはこの魔物の魔晶を手を触れずに摘出できるか?」
「えっ…」
「いくぞ!」
ごく少量の魔力で細い細い刃を作る。腹の毛皮を切り裂き止まった心臓から伸びる血管を魔力の糸で縛る。そして心臓の壁を刃で切り裂いた。
「………」
「見えるか?」
「うん。少し気持ち悪い…」
「仕方のないことだ。まあ、取り敢えずこうやって魔晶を取り出すんだ。出来るだけ臓器を傷付けないようにな!」
「う、うん…」
そうやって魔晶摘出に取り掛かるティナ。さっきまではいつもの甘えたな表情をしていたが1度、魔力行使を始めると真剣な顔付きへと変わる。
「俺もやっていこうか…」
俺の処理したモノを抜くと残り6つ。これくらいならティナでも出来るだろう。俺は貯まりに貯まった魔晶達を取り出すと疑似生命を刻んでいった。
「くぅぅ。疲れた~」
「お疲れ様。こっち来る?」
「あぁ。流石だな」
「ふふ、ティナだって頑張ってるんだから!」
俺が魔晶に疑似生命を刻み始めると少しして処理が終わったティナ。御丁寧に魔晶についた血を洗い日当たりのいい所へ並べたティナは俺の使った魔法と同じモノを使って石のテーブル、イス、日傘を作り出していた。
「それにしても装飾まで施すなんて、凄いじゃないか!」
「えへへ、褒められちゃった!」
石造りとはいえフローリングのように全く凹凸の無いテーブルは精工と言わざるおえない。それに加え金色の筋で作りられた華のような装飾はティナのセンスの良さだった。
「そう言えばティナ、前にコイツらの作り方を知りたいとか言ってなかったか?」
手の中に現れた真っ赤な魔晶は魔力を流すと鮮やかな炎の翼を羽ばたかせる炎鳥と化し、俺の周囲を飛び回る。
「言ってたよ。けどティナはやっぱりいいや! ティナには植物の友達がいるから!」
そう言って耳を澄ますティナ。そう言えばティナの固有スキルの中に森の声を聞くようなスキルがあったな…。
「素朴な疑問なんだが植物に声ってあるのか?」
「うん。スキルで聞いてるから本当の声かは分からないけどちゃんとした声として聞こえてくるよ?」
「そうか…。俺には共鳴系列のスキルは無いからな~」
「そうなの? 意外に持ってる人多いんだけどな~」
「んー、もしかしたら合成したかもしれない」
「合成?」
「スキルでスキルを加工出来るんだよ。便利だぞ?」
「えー、いいなー。それって自由に作れるの?」
「無理だ。元々あるスキルからじゃなきゃ派生させられないんだよな~」
「あー、やっぱり欠点はあるんだ…」
「まあな。けど、譲渡を使えば自由の幅は広がるぞ?」
「そっか~。それって他人のスキルも加工したり出来る?」
「勿論だ!」
「じゃあ今度頼んでもいい?」
「今じゃなくていいのか?」
「滅茶苦茶な量の魔力を使うんでしょ?」
「よく分かったな!?」
「スキルが反則的だから~」
「…………」
相変わらずサラッと酷いことを言われた気がする。地上では希にドカンっという音と共に砂煙が上がっていた。
「リョウ兄はティナのスキル知ってるよね?」
「植物を操るのと森の声を聞くんだろ?」
「うん。あと増えたのもあるんだよ!」
「そうなのか?」
「うん。地味だけど『魔力強化』って言ってね、魔力を色々な意味で強化するの!」
「色々って…どういうことだ?」
「例えば~」
「ん?」
普通に魔力球を作るティナ。それは本当に単なる魔力球で密度も質量も普通だった。
「『魔力強化』」
「っ!」
スキル発動と共に魔力球の体積は5倍近くにまで膨れ上がる。それは虚仮威しではなく本当に質量も上がっていた。
「これがティナの新しいスキル。これを使って試合したいんだけどいい?」
「初めからそれが目的かよ!」
「まあね。いい?」
「ふっ、勿論だ!」
俺は大太刀を拳銃に持ち帰るとその銃口をティナに向けた。