第174話
バタンッ…
「おっ、お前は起きていたのか」
「ん、俺はお前の従…。違う、友達…。出来るだけ一緒にいたいから」
「嬉しいことを言ってくれるな。もう酔いは抜けてるのか?」
「ん。長引かせない…」
そう言って立ち上がるユウリだが一瞬フラついて俺にパッと視線を向けた。
「長引かせない、じゃねえんだよ。リアスを起こしてから行くからそこで待ってろ」
「ん…」
再び立ち上がろうとするユウリを押し留め言い聞かす。そして未だ布団の上で幸せそうに寝息をたてるリアスの横へ座る。
「すぅ…すぅ…すぅ…」
ホント気持ち良さそうに寝ている。水でも吹っ掛けてやろうかな…。
「まあいいや。起きろリアス!」
「んぅぅ。まだ~」
「もう朝だぞ。さもないと…」
ギュッと俺の足に当たっていた尻尾を掴む。アニメのようにブルッと震えたリアスはとてつもないスピードでベッドから飛び降りる。
「リョウ~! 本当にこの起こし方だけは止めてよ~」
「ならもっと頑張って起きてこい。正直俺から言わせてみれば無防備過ぎんだよ!」
「リョウは酷いことしないもーん」
「どんな信用だよ…。それよりも今日は依頼を片付けに行くから早く降りてこい」
「え、依頼、一緒に? えへへ、やった!」
「皆いるのは分かってるよな?」
「分かってるよ~、先降りてて! 直ぐに行くから!」
急にやる気を出したリアス。このままでは服まで着替え始めそうなので俺はユウリを連れ部屋の外に出る。
「昨日はありがと…。運んでくれたらしいな…」
「あんな場所に寝かせられないだろ?」
「…………」
うつ向くユウリを一瞥。そこで一旦気持ちを切り替えると皆が集まる席へ歩いていく。
「あっ、リョウ兄! リアスは?」
「起こしたからすぐに来るだろう。それよりも優司は?」
「リョウがリアスを起こしに言ったから自分も起こしに行こうって…」
「そうか。まあ、直ぐに来るだろう」
その場へ腰を下ろしユウリへも席を設ける。そうでもしなければ座らない…。
「リョウさん。その方は?」
「俺の戦友のユウリだ。そう言えばユウリとは会ったことないもんな」
「はい。よろしくお願いします、ユウリさん」
「ん…」
やはり人見知りがあるのか顔を伏せるユウリ。サチでも人見知りがあったがそれ以上だな…。
「お前達は何か注文したのか?」
「まだだよ。リョウ兄がいないのに頼むわけないじゃない!」
「そ、そうか…。なら各自適当に頼むといい。キルさんも奢りますよ」
「いいのですか? それではお言葉に甘えさせてもらいますね」
柔らかい笑みを浮かべるキル。いつの間にか降りてきていたエリの頭を撫でながら微笑むその姿はどう見ても高ランク冒険者には見えなかった。
「さぁ。で、結局優司達はどうするんだ?」
「僕達も御一緒します!」
「そうこなくっちゃな。行こうか、サチ?」
「はい!」
あれから暫くすると優司が藍夏を連れて下に降りてきた。そしてすぐ後にリアスが降りてきたので全員で朝食を食べ、今に至ると云うところだ。
「ねえリョウ、皆で行くって言ってもそんな都合のいい依頼なんてあるの?」
「それは‥」
「大丈夫ですよ。普通は何日も掛ける依頼がありますから!」
「そうなの? じゃあいいけど…」
例の通り内門をくぐり中へ入ると鮮やかな町並みが目に入る。ここからは種族を問わず様々な者達が共存しているのに1歩門を出れば差別される…。おかしな世界だ…。
「久し振りです…」
「私達もよ。最近はずっと騎士団の方に行ってたからね~」
「私達は毎日来てますよ! 依頼はバラバラですけど…」
最後にボソッと呟いた言葉。それを聞くことが出来たのは聴覚の上がっている俺とリアスくらいだろう。
「そう言えばユウリの冒険者登録はまだだったんだよな?」
「ん…」
「と言うことだ。先にユウリの冒険者登録してくるからリアス達は優司と一緒に依頼でも選んでてくれるか?」
「うん。強いのでもいいよね?」
「当たり前だ!」
好戦的な笑みを浮かべるリアスを背に俺はユウリを連れ受付へと向かう。そう言えば事前投資もしていたな…。
「ようこそおいでくだ……、あっ、リョウさんじゃないですか!」
「覚えていて下さったんですね」
「貴方がリョウさんだって優司君が教えてくれたんですよ。今日は何をしにギルドへ?」
「コイツの冒険者登録を済ませたくてな。頼めるか?」
「勿論です。ではこの石盤に手を翳してくださいね」
「ん…」
前は鑑定出来なかったが今は即座に鑑定できた。恐らくはスキルが強くなったからなんだろうな。
「それでは、少々お待ちください」
そう言って奥へ石盤を持って入っていく受付嬢。隣のユウリは他人なら分からないだろうが少し機嫌が良いのが分かる。
「楽しみか?」
「便利な物が手にはいる」
顔を上げ受付の中の方を眺めるユウリ。なんともその隠してる感が…。
「お待たせしました。御名前はユウリ様でお間違い御座いませんでしょうか?」
「ん…」
「再発行には1000Gとなります。お気をつけください」
「ん…」
深々と頭を下げるユウリはカードを受け取ると先にリアス達の方へと戻っていった。受付嬢は俺に「行ってあげて下さい」とでも言うように微笑を浮かべた。
「リアス、決まったか?」
「優司が選んでくれたよ!」
「優司、どんなのを選んだんだ?」
「これです!」
そう言って見せてきたのは魔物の討伐依頼だった。それも魔物の指定は無くただただ数が多いだけだった。
「なあ優司…。流石に合計討伐数100匹はキツくないか?」
「5組に分かれれば余裕じゃないですか?」
「まあ、それはそうなんだが…。危険じゃないか?」
「その為の人選じゃないですか!」
そう言いながら笑う優司。若さのせいか少し迂闊ともとれるな…。
「なら人選は俺が行う。分かったな?」
「はい。けどリョウさんは心配し過ぎですよ!」
優司の感覚に合わせていると色々とずれてくるな…。と言うか人選はどうしようか…。まあ、適当でいいか!
「えーと、なら5組に分かれようと思うが大丈夫か?」
『はい!』
「じゃあ取り敢えずはリアスとリリス。そしてサンとユウリ。次に優司と藍夏で、キルとエリ。これで大丈夫か?」
「リョウ兄、ティナは?」
「お前は俺とだ!」
「やった!」
本当は今日はだらだらと過ごそうかと思っていたのだが、良きも悪くもサチが来てくれたおかげで外へ出ることになった。と言うことで俺がサチの面倒をみるのは当然。それにティナがいてくれればサチからしてもやり易いだろう。
「どうする、ここで散るか?」
「そうですね。競いがいがありますもんね!」
「あぁ。ならスタートだ!」
俺の言葉に次々とギルドを出ていく優司達。最後にリアス&リリスのコンビが出たのを確認すると俺は後ろを振り向いた。
「サチ、勝手に決めてしまったが大丈夫か?」
「はい! いい機会です!」
「そう言ってもらえるとありがたい。ティナも大丈夫だったか?」
「ティナはリョウ兄と一緒に回れるだけで嬉しいよ!」
「ありがとな!」
そろそろ周囲の視線が痛い。恨みも混ざった嫌悪の視線はさっきからチクチクと肌をさすようだった。と言うことで逃げるようにギルドを出た。
「リョウさん。お邪魔したみたいですね…」
「サチ、それは勘違いというものだぞ。行くぞ!」
《闇魔法・影移動》
己の影に呑まれた俺達は音もなく消え去った。もうその場所には人がいた痕跡など微塵も感じられなかった。