第172話
「なに、鍛冶屋なの?」
「そうだ。知り合いの娘なんだが…」
「なに?」
「少し訳ありでな…」
武器が乱雑に置かれた店構え。そんな明らかに質の悪そうな所なのだが質は家宝級に値する。
「おっ、リョウか! 今日は大勢だな?」
「はい。連れです」
「そうか、そうか。入ると良い。お嬢さん達も上がってくれ」
『お邪魔します!』
親父さんに招かれ扉を開けるとそこには前回来た時の2倍近い量の武器が飾られていた。その中には明らかに趣味で作ったなというような装飾華美のモノもある。
「茶でも淹れよう。シュラもそろそろ帰ってくるだろうからな!」
そう言ってキッチンの方へと歩いていく親父さん。そしてその姿が消えると隣のリリスが俺へ視線を向けた。
「お願いするよ」
「分かった。シュラってのは言っていた知り合いの娘だ。で、さっきのはシュラの親父さんだ」
「そっか…。で、言ってた訳ありってのはどういう意味?」
「ユウリと同じクチだ」
「転生してるってこと?」
「そうだ。その代わり、記憶を失っている」
「じゃたリョウのことは覚えてないの?」
「あぁ。まあ、何度かここに来ているから知り合いだがな…」
「…………」
明らかに疑いの視線を向けるリリスから目を逸らすと逸らした先のリアスでさえ俺に疑いの視線を向けていた。
「待たせたな。で、どうして来たんだ?」
全員へ茶を配りながら問い掛けてくるのだがそれは純粋な興味なのか疑いがあるのか…。
「少し依頼を受けましてね。その内容がシュラに関係しているので会いに来たんですよ」
「そうか。で、その依頼とは?」
「俺達にも守秘義務ってのは存在するのですが?」
「………」
「………」
「分かった。詮索はしないでおこう」
「礼を言う」
退いてくれて良かった。クリスが隠しているのなら俺からはバラしてはならない。あくまでも第3者である俺が家族の問題に首を突っ込むべきじゃない。
「まあ、それはそうと武器の手入れはしているのか? どうやらお嬢さんらの武器も俺の武器らしいが?」
「いえ、最近は連戦で出来ていません」
「そうか。なら今手入れしておいてやろう。貸してみな!」
「はい。リアス達はどうする?」
「私も御願いします」
「私も!」
「ティナも、御願いします」
「よし、きた! 待ってな!」
そう言うと俺達の武器を受け取り扉に手を掛けた。そう言えば頼もうとしていたことがあったんだった…。
「親父さん、1つ欲しい武器があるんですがいいですか?」
「ん、なんだ? まだ必要なのか?」
「はい。実は短剣を2本、欲しいんです」
「んー、それくらいなら用意できるが日緋色金か?」
「はい。御願いします」
「仕方ないな。あと今回も金はいらんぞ!」
「は、はい…」
そう言って今度こそ作業場へと移動した親父さん。いつの間にか用意されていた茶菓子は机の真ん中へ置かれていた。
「リョウ、もしかして日緋色金をタダでくれたのってあの人?」
「そうだ。親父さんも転生者だからな…。化物級のスキルを持っている」
「だから日緋色金なんて使えるんだね…」
ふと壁に掛かる武器を見ると日緋色に輝いているモノもあればエメラルドグリーン、スカイブルーのような変わった色もある。そしてその中で一際目を引いたのが…
「ほう…。深紅の刀か…」
壁の天井付近に飾られていたのは照明により濃く深く輝く深紅の刀。長さ的には俺の大太刀よりも短いが太刀というには長すぎる。その刀には何か心を惹き付ける何かがあった。
「流石ね、リョウ」
声のした方を振り向くと短く切り揃えられた橙色の髪を揺らすシュラ。綺麗な橙色の瞳には喜びが浮かんでいた。
「どういうことだ? この刀に何かあるのか?」
「それは少し特殊な鉱石で作ってるんだよ。魔晶も込めるとかなんとか……、錬金術も足してるからね!」
「錬金術、親父さんってそこまで手を伸ばしたのか?」
「違うよ。錬金術を使うのはあたし。だからこれは父さんとあたしの合作だね!」
そう言って照れ笑いをするシュラ。そして空いている席に座ると回りを見回した。
「シュラにも紹介しよう。俺の旅仲間、いや、既に家族だな。えーと、端から‥」
「リアスです!」
「ティナです!」
「リリスです!」
「ガウッ!」
「っていう感じだ。因みに‥」
「ユウリです…」
そう言いながら現れるユウリ。サンの隣へ立ち尽くすと短剣を鞘に納めた。
「皆さん、よろしくお願いします」
「こちらこそ。シュラさん」
表面だけの自己紹介が済んだ。と言うか身から出た錆とはいえ俺の女性運って複雑だな…。
「そう言えばシュラ、錬金術って何が出来るんだ?」
「えーと、魔法みたいなモノなんだけど基本的には等価錬成だよ。まあ、他にも色々とあるけどね。まあ、全てに本則があって複雑になる程難しくなってくるっていうのは共通。まだあたしには複雑なモノは出来ないよ…」
「じゃあ今は例えば何が出来るんだ?」
「物に魔晶でスキルを付与したり?」
「出来るのか!?」
「うん。やってみよっか?」
「あ、あぁ。頼む!」
是非知りたい。武器に不満を持つ訳じゃないが自分で自分専用の武器を作るのも夢があっていいじゃないか。
「じゃあこの魔晶、含まれているのはリーフボアの魔晶だから弱い風属性だね」
どこかで見た物だと思ったがリーフボアの物だったのか。シュラは躊躇なく机に魔法陣を書くとその上へ適当に取った直剣と魔晶を置いた。
「これだけでいいのか?」
「うん。凄い人は魔法陣を使わない人もいるけどあたしはまだまだ素人だから…。じゃあ、いくよ!」
魔力が集まり魔法陣の線に沿って流れていく。そしてそれは最終的に魔法陣の中央へ集まると鋭い光を放つ。
「んぅ…」
目を開けるとさっきまであった魔晶は消えていた。その代わり、直剣の刀身は淡い緑色に変わっていた。
「出来たよ。リリスさん、少し振ってみてくれませんか?」
「振るだけでいいの?」
「はい」
何を言うのか、と思ったがシュラのことだし何かあるのだろう。直剣を受け取ったリリスは綺麗な構えを取ると上段から鋭く斬り下ろした。
「す、凄い…」
「ん、どうしたんだ?」
傍から見ていると特に変わった様子は無い。ブォッと風を斬る音は確かに大きかったが普通に直剣を斬り下ろすのとなんら変わりの無いように思える。
「凄いよ、これ。凄く軽い!」
「軽い……。そうか、風の補助か!?」
「正解。魔晶を使ってどんな効果を付与するかは術者がある程度制御できるからね。あたしが今回付与したのは空気抵抗を削減するスキル。これを風刃にすることもできるけど、それだと弱い魔晶だから威力も下がっちゃうんだよね」
「なら強い魔晶ならいいのか?」
「強い魔晶…。あたしが扱えたら良いけどね~」
「これはどうだ?」
そう言って取り出したのはここ連日殺し合いを続けた狼の魔晶。B-はあろうかというその魔物の魔晶は深い黒色をしていた。
「もしかしてこの魔力…、シャドーガルム?」
「そう、なのか? 魔物の名前は知らないんだ」
「じゃあ今度からはあたしの所に鑑定しに来てよ。あたしが買い取ってあげる!」
「いいのか? ならそうさせてもらうよ。あと、この魔晶はシュラにやろうと思っているんだが受け取ってくれるか?」
「えっ、いいの?」
「あぁ。今回の依頼で大量に手に入ったからな!」
シュラの話を聞く分にはこの高ランクの魔晶は使い道が多いらしい。深い黒色をした魔晶、シュラ曰くシャドーガルムの魔晶は今俺の手中に計8つある。俺はそれだけの強力な魔晶の行方を考えながら紅茶を飲んだ。