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種族絶戦 ◈◈◈人の過ち◈◈◈  作者: すけ介
不穏な兆し
171/619

第171話

「はぁ、はぁ、はぁ…。ここは?」

昼にも関わらず光の届かない密林の中は不思議な程の爽やかな風が吹き抜けていた。不安定な状態で移動したので全員が同じ場所に飛ばされたか不安だったがどうやら全員、いるようだな。

「シアミドル付近の森林だ。それよりもレイは大丈夫か?」

「は、はい。無事です」

ユウの方へ視線を向けると心配そうにレイの髪を払っていた。熱で苦しそうに喘ぐその姿はとても痛々しかった。

「急いでやらないとな。皆、急ぐぞ!」

『はい!』

返事をききとどけるとサンを先頭に歩き始めた。


「リョウさん、生きてらっしゃったんですね」

「俺達に命令したのはクリスさんでしょ?」

訓練所へ戻ると騒がしく動き回る騎士達。もしかして面倒事が増えたのか…。

「すみませんが客室で待機していてください。私もすぐに向かいますので…」

「はい。それでは…」

ヨルソン達とはここで解散。少し寂しい感じもするがリアス達4人を連れ建物の中へと入っていく。因みにサンはずっと俺の隣を独占している。

バタンッ…

「レイ…、大丈夫かな?」

「ユウがどうにかするだろう。アイツらは仲良いからな!」

「そうだね~。ユウはレイに夢中でしょ?」

「そうらしいな。お互い両想いらしいしな~」

意外に1番早く成立するのはユウのところかもしれない。メアとフォールはまだコンビみたいな感覚だしヨルソンの所はほぼ無感心だ。

「ねえリョウ、騎士の間で何かあったみたいじゃない?」

「そうだな。俺達がいないから、正確にはヨルソン達がいないから片付かなかったんだろう。一応精鋭らしいからな!」

「精鋭か~。なら私が騎士になったら将軍かな?」

「お前には無理だな!」

「どうしてよ!」

「お前をそんな危険な所に送り出さないから!」

「過保護じゃない?」

「お前をそんな所に送り出せると思うか?」

「じゃあ私がリョウを1人で戦わせる気持ち分かる?」

「…………」

本気な顔でそんなことを言われては言い返せないじゃないか。言い返そうとした言葉を飲み込み目を閉じた。

「だから1人で行くなんて言わないで…。今回のことも、ね?」

「分かったよ。本当に‥」

「リアスさんはお優しいのですね」

いつの間にか現れたクリスはそう言ってソファーに腰掛ける。その後ろから現れるメイド達がそれぞれの前に紅茶を置いていく。

「クリスさん、ノックも無いんですか?」

「ここは私の所有施設ですよ。またリョウさん達の方こそ公共の場所ではするべきではないのでは?」

流石団長と言うところか口が上手い。その澄ました顔が妙にイラッときたが拳を握り締めるだけで抑える。今ならコイツを殺すことも容易いだろうがヨルソンやユウを敵に回したくはないから…。

「ふぅぅ。クリスさん、で、何があったんですか?」

「依頼を承諾して下さるのですか? リョウさんには5日の休暇を与えられるのですが?」

「そうなんですか?」

「はい。ランクSの討伐依頼でしたので私の特権を行使できます。ヨルソン達にも同様に休暇を与えました」

「俺達は騎士団ではないにも関わらずですか?」

「依頼中は騎士団の一員ですよ」

「そうですか…。しかし何があったのかは教えてもらえませんか?」

「…………」

リアス達に気付かれないよう視線を向けるクリス。人払いか…。

「皆、少し出ていてくれるか?」

「分かったよ…」

やけに素直に出ていく。そして最後に俺の隣を通ったリリスは意味深な視線を俺に向ける。

「さぁ。話してくれるか?」

「はい。実は誘拐事件が多発しているのです」

本当に態度が豹変するな。人間にとって恩人とは大きなものだな。

「誘拐ですか? 件数はどれくらいなんだ?」

「昨日で計21件です。今日でまた増えるかもしれません」

「多いな。犯人に見当は?」

「恐らくはスラム街の闇業者でしょう。個人的にはその裏にも大きな存在が隠れていると見ています」

「裏の存在、単なる誘拐事件なのにか?」

「数と範囲が以上なのです。それも亜人に限られています」

「それは魔族以外と言うことか?」

「そうなりますね。私自身、スキルで種族を変えているのですが娘はここでは亜人です…」

「シュラは俺が守りますよ。知り合いとしてね!」

「ありがとう、ございます…」

「それはそうと、1つ相談したいことがあるのですが良いですか?」

「なんでしょう?」

「俺を騎士として起用してもらいたいのです。少し権力が必要でしてね」

「………。それなりの手柄がなければ登り詰めることは出来ませんよ?」

「ケルベロス討伐ではどうです?」

「………。分かりました。では今この時、貴方を騎士団将軍に任命します。これでいいですか?」

「はい。因みに将軍とは?」

「低級貴族並みの権力を持つ騎士団の精鋭を率いる者です。リョウさんには依頼通り報酬を払わせてもらいますが依頼中には将軍としての報酬はありません」

「分かりました。それと交渉はここまでにしましょう」

「そうですね。恩人と堅苦しい話ばかりでは失礼ですね」

「いえいえ、それはそうとシュラとは会うのですか?」

「いえ、私を見ては思い出させてしまうかもしれませんので…」

「そうですか。ではどうやって俺のことを掴んだんです?」

「手の者を客として送り込んでいます。しかしそれも、毎回変えますのであまり良い話は聞けないんですが…」

乾いた笑みを浮かべるがその目はあまりに悲しそうだった。俺も少しの間、会ってないな…。

「それでは俺が向かいましょうか?」

「良いのですか? 貴方も今は娘を避けているのでは?」

「そうですが守るならば同じことですよ。違う形でも近付く必要がありますからね…」

「そうですか。それでは御願いします」

「慎んでお受け致します!」

ポンポンとサンの頭を撫で立ち上がらせる。そして1つだけ視線を向けると俺はサンを連れて部屋を出ていった。


「また知り合いの話?」

「そうだ。今からソイツに会いに行くぞ」

「仕方ないな~。どうせ女の子なんでしょ?」

「よく分かったな。どうしてだ?」

「ふん! リョウは皆に優しいでしょ!」

そう言って先に訓練所を出ていくリアス。その尻尾はピンッと逆立っていた。

「リョウ兄、その子も連れていくの?」

「まあな。けど、それはまた今度だ。アイツは戦闘能力はないからな…」

「戦闘能力があれば連れていくの?」

「…………」

「分かってるよ。リョウ兄は断らないからね!」

始めから分かっていたように言葉を吐き捨てた。反対側ではリリスが複雑そうな顔をして、2人に俺の隣を取られたサンは不機嫌に俺の前を歩いている。

「そう言えばユウリは?」

「あー、そう言えばどこ行ったんだろ?」

「ここだ…」

「うわっ!」

俺の影から出てきたユウリは当然のような顔をして俺の隣に現れる。ちょっと待て…。と言うことはさっきの会話も聞かれていたのか?

「大丈夫だ。ちゃんと出ていっていた」

「そ、そうか…」

俺の表情から読心したのかそう言うユウリを2人は訝しげに目を向ける。それを意にも介さないユウリは静かに俺の隣を歩く。

「それよりリョウ、行きたいところがあるんだが、行ってもいいか?」

「行きたいところ? 目的が済んだら自由だが…、何処に行きたいんだ?」

「冒険者ギルドだ。ステータスが分からないからな…」

「そうか、そうだな。なら終わったら行こうか」

恐らく終わらないがな。俺の返答にうなずくユウリに、心の中で謝りながら俺は先を急いだ。

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