第17話
「鑑定は明日でいいか、」
これで自分の持つスキルが分かった。けれどそんな作業は明日起きてからでいいだろう。
「んっ!」
残るカクテルを一気に飲み干した。その瞬間、グラッと一瞬意識が飛び、強い眠気が俺を襲う。
「流石に、ここで、寝るわけには、」
フラフラとかそんなレベルじゃなくて歩くこと自体が難しい。そんな状態で階段を上がり自分の部屋へたどり着いた。
バタンッ、
扉を閉めた時に気付いた。俺の部屋では二人が寝ていたことに…、
「無理だ、」
部屋を出ようとドアノブに手をかけたが、もう意識が持たん。二人が寝ているが仕方ない。倒れこむようにベッドへ入ると意識は途切れた。
「ん、、」
小鳥の鳴き声と強い朝日に起こされ体を起こす。
「痛っ、」
頭がズキンと痛む。アルコール摂取の副作用だと笑っていたが、まさか自分が経験するとは…、
「あっ、リョウ兄起きたんだ、」
扉が開いて二人分の朝食を持ったティナが入ってくる。どうやら寝過ごしたようだな。
「あぁ。おはようティナ」
「うん、おはよう。どうしたの、リョウ兄が寝過ごすなんて…、」
「昨日、友人みたいな感じの人と話してたんだ。その時に酒を少しな、」
「あー、、それで酔っちゃったと、」
「そう。度数50%は越えてたからな、」
「強っ!」
「そうなんだよな。すまん、迷惑をかけた。」
立ち上がろうとベッドから出ると頭に激痛が走り痺れるような感覚が残った。
「ちょっと!無理しちゃダメだよ!」
「ごめん、」
「いいよ。これ、朝ごはん持ってきたから一緒に食べよ!」
「あぁ。リアスは?」
「リンちゃんと散歩。」
「リンちゃん?」
「ここで働いてる女の子。懐かれちゃって朝から散歩に行ってるんだ、」
「そうか、俺はどれくらい寝てた?」
「ずいぶんと。中々起きなくて、ティナもリアスも心配してたんだよ、」
「迷惑かけたな。もう大丈夫だ。」
「だから無理しちゃダメって!」
立ち上がろうとする俺を静止すると、俺を抑える。
「大丈夫だって、」
「もう!」
「分かったよ、分かったからそんな顔は止めろ。折角可愛いのに台無しだろ。」
「もうもう!」
「分かった、分かったって!」
それにしてもどうするか。酒のせいで動けないなんて最悪だ。いや待てよ。これはスキル確認のいいチャンスなんじゃ…、
「リョウ兄はおとなしくしてて。ティナも朝ごはんまだなんだよ、」
「そうだったのか、ごめんな。」
「いいよ。早く食べよう、」
朝食は黒パンのサンドウィッチで、中の具としては卵、ハム、トマトのド定番だ。
「これはここの物か?」
「そうだよ。リンちゃんにお兄ちゃんはって聞かれてまだ寝てるって答えたらこれ持っていってあげてって言われて…、」
「そうか。また礼を言わなきゃな、」
「そうだね。リンちゃん心配してたよ、」
「はぁ。」
俺は決して酒には弱くなかった。と言うことは昨日のは滅茶苦茶強かったんだな。
「どうぞ。いくら悔やんでも仕方ないでしょ!」
「そうだな。暗い気持ちは決してちゃおう!」
「そうそう。それでいいよ!」
「ふぅ。美味しかった、」
「ホント!ティナも意外と好きなんだ、サンドウィッチ!」
そう言って微笑んだティナの口元にはサンドウィッチに挟んであったソースが…、
仕方ないなっ♪
「ん、リョウ兄!?」
口元へ付いたソースを指で拭き取るとそのソースを舐めとった。するとティナは顔を真っ赤に染め上げた。
「面白い、」
「リョウ兄、ティナをからかって面白いの!」
「あぁ面白い。可愛いし!」
「もう!」
酒が残ってるのかな、いつもの自分じゃ有り得ない発言や行動ばっかりだ。桜咲や竜次がいたらドン引きだな。
「けどまあ、ヤバイな…、」
「どうしたの?」
「酔いが残ってる。」
「そう、どうする。ティナ、出といた方がいい?」
「大丈夫だ。あと少しすれば治るだろう。」
そう言えば昨日のスキル覧に『鑑定』と言うものがあった。そしてご立派に各スキルの鑑定結果も添えて…、
「ちっ!」
「どうしたの?」
妙にイライラしてくる。あの佇まい、あの口調、このご丁寧な文字。くそっ!
「ティナ、少し出てくる!」
「えっ、大丈夫なの!?」
「あぁ。足も大丈夫だ。」
「えっ、ちょっと。」
宿の窓をガラッと開けると、外へ飛び出す。そして城壁の外へと走っていった。
「ふぅ、、ここらでいいか、」
少し意識がぼやける。走ったせいか…、
「魔晶…、」
持っている魔晶を全て取り出すと全て疑似生命へと姿を変えさせる。
「お前達、俺と模擬戦だ!」
その命令は確実に執行され炎鳥の爪が俺の顔を薄く掠めた。
「やるなぁぁ!」
そんな威嚇の声にも怯まず蛇や鳥や狼や、様々は獣が俺を襲う。
「おりゃっ!」
緋色に輝く両刃剣が疑似生命達を襲う。たまには普段使わん武器もいいものだ。短剣では斬れない者を鋭く重い刃が容易く切り裂いた。
「シャァァァ!」
炎を纏う蛇は俺を締め付け鋭い牙を突き刺そうと首元へ向ける。
「植物魔法・蔦縛」
「シャァ!?」
「はい、終了。けど、両刃剣は使いにくい!」
大きく扱いの難しい両刃剣は間をすり抜ける蛇には通じず、巻き付かれてしまった。
「じゃあ次はこれだぁ!」
またしても緋色に輝く大きな大太刀。血を浴びて輝いている。
「ブモォォォォ!」
「おりゃ!」
ブシュゥ!
血飛沫が俺の服を真っ赤に染めあげた。
撥ね飛ばされた首が地面を転がり魔力として消滅した。
「なあなあ、まだまだやろうぜ!」
そういえば魔力で作った疑似生命にも血はあるようだな。そしたら人でも…、流石に止めよう。
「ガオォォォォ!」
「おっとっと、」
咄嗟に危険を感じ避けると、目の前を炎色の穴虎が通り過ぎた。
「ガオォォォ!」
「危ねえな!」
炎が渦巻く体へ緋色の刃を振り下ろす。しかしそんな攻撃は土の壁に遮られ、その中から現れた穴虎に俺は深めの爪撃を喰らわされた。
「ぐっ、」
流石に危ない。強い爪撃は俺の顔を深く切り裂き、肌を深く抉った。
「微回復。」
傷が右半面で良かった。鉄製の眼帯は俺の眼を守り、傷を肌だけに止めた。
「やりやがったな!」
向かってくる穴虎に落ち着いて焦点を定めると、太刀を腰深くがっしりと構えた。
「はっ!」
居合切り。魔力と他諸々のスキルで無理矢理行う技だけれど、威力は十分で穴虎を真っ二つにすることは容易かった。
「まだまだ来い。この荒ぶる気持ちをどうか!」
炎矢が一斉に俺の肩へ命中。患部は炎に焼かれ黒く焦がされる。
「こんなもの!」
痛み、不思議な程に感じられない。それどころか闘争心が掻き立てられる気さえする!
「はあっ!」
一度短剣を手放すとやはり他の武器の方が使いやすい。これからはこの大太刀でもいいな。
「まだまだ!」
疑似生命は倒されても俺と無意識に繋がる魔力の糸で無限に復活する。この荒ぶる気持ちが収まるまで…、あと少し付き合ってくれ。
「ぐはっ!」
穴虎の突進に酸っぱいものが込み上げてきた。魔力もまだまだ残っている。ついでに体力も底をついたわけじゃない。けれどこれ以上戦うのは無理だ。精神的に、、疲れた。
「ありがとう。お前達、疲れたろ、もう戻れ。」
そう言うと疑似生命は俺の近くへ集まり魔力の粒子と化し消えた。俺の回りには魔晶が大量に散乱する。
「疲れた。少しはいい薬だったな、」
魔晶を回収し、トボトボと宿へ戻った。疑似生命達は俺の魔力で回復するが、俺の体は回復しない。二人に心配をかけないよう表面の傷は治したが、内臓への若干のダメージや、骨へのヒビ等は時間がかかるだろう。そして顔に付いた爪の跡も…、どうやって説明するかな…。