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種族絶戦 ◈◈◈人の過ち◈◈◈  作者: すけ介
不穏な兆し
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第166話

「まったく~、リョウ兄ったらやりすぎ!」

「ごめんごめん。その感覚は俺には分からないからさ~」

「それを理解しようとするのが優しさだと思う…」

どうやらティナにはリアスの感覚が理解できるようで、脱力したリアスに肩を貸すと焚き火の近くへ座らせる。

「そう言えばティナはみ‥」

「ダメ! ダメだからね!」

「………。それは催促か?」

「ち、違うよ……、やっ!」

真っ赤になって後退ったティナは足元の石に躓き尻餅をついてしまう。そんなお茶目な姿に俺の宜しくない考えは消え失せた。

「はぁ…。怪我してないか?」

「う、うん…」

手を差し伸べ助け起こしたティナはまだうつ向きながら俺を警戒していた。焚き火の近くへ連れ座らせると、俺の後ろについてきていたリリスに視線を送る。

「ヨルソン、フォール、ユウ、ついてこい。解体するぞ!」

『はい!』

血塗れになると考えられる解体にこれだけ男性陣がいるなか、女性陣を駆り出すわけにはいかない。獲物をそれぞれに抱えさせると池の側へ移動する。本当は手負いのユウを力仕事である解体に駆り出すのは少し心苦しいのだが女性陣の中に残す方が酷だろう。

「えーと、内訳的には狼型が5匹、猪型が6匹、えーとこれは…」

「鳥と猿の間ですね!」

「そう、だな。それじゃあ血抜きしていくぞ~」

『はい!』

群れだったのか鳥と猿の間の魔物は無数にあった。それも1匹は小さいので処理が面倒だ。

「ユウは鳥猿を頼む。ヨルソンとフォールは2人で狼を頼む!」

『誰がコイツと!』

「仲良いじゃないか。ユウ、ここはコイツらに任せよう」

「は、はい」

鳥猿の半分をユウに持たせその他は俺が持って水辺へ移動する。そしてその場で鳥猿はユウに渡し、俺自身は猪達をサッサッと斬り付け血抜きを開始する。

「魔法が使えないって、不便だな…」

普段なら魔法で土の棒でも作ってそこに吊るすのだが、今回はわざわざ自分の手で移動させなければならない。

「それにしても6匹か…。面倒だな…」

それぞれの足首をきり落とし残っている血を全て流させる。もう面倒になったので首の周辺を切り裂くと胸から腹にかけて切り裂き、内臓や肋骨を露出させる。

「やるか…」

流石に大太刀ではやりにくいので、もしもの為にも腰にさしていた短剣を使う。手始めに左右対象に存在する肋骨を開けると、柄頭でその根本を砕く。業者の人に言えば「バカ者!」と怒られそうだが自分達で食べるんだからいいだろう。

「意外に普通の動物と変わらないんだな…」

今までは面倒なのでササッとぶつ切りにするだけだったんだが、流石に今日はそういうわけにはいかない。と言うことで肋骨を砕いた中にある臓物達を掻き出していく。

「うっ…。エグ…」

向こうの世界でも何度も猪は解体したがそれに比べこの猪は臓物系が()()()。そう、大きい。魔物なので体格自体大きいのだが臓物はそれを含めても大きかった。

「どうすればいいんだよ…」

もうすこし少なく済むかとも思っていたのだが臓物系、所謂捨てる物が予想以上に多かった。俺の背丈くらいにまで積み上がった臓物の山からは変な汁が滲み出ていた。

「最悪だ…」

焚き火の火をもらい燃やしていく。臓物と言うことで油分も多いのか滅茶苦茶に燃え上がっていった。

「はぁぁ。妙に疲れた…」

バチバチと隣で炎が燃え上がるなか、水面を眺めると飛び散った血が俺の顔を汚していた。慣れすぎて気が付かなかった…。

「んっ!」

「ふふ、ビックリした?」

振り向くと座っている俺の目線に合わせたリリスがイタズラな笑みを浮かべている。一応隣を開けるとチョコンとその場へ腰を下ろした。

「何しに来たんだ? 面白くも何ともないぞ?」

「いいじゃないのよ。どうせもう終わったんでしょ?」

「まあな。慣れてることだしな…」

木々へ吊らされた猪達の腹は真っ二つに割られていて、今となれば血の一滴も落ちない。

「じゃ、じゃあ、私と歩かない?」

「急な誘いだな。行くか?」

「う、うん!」

体のあちこちに血がついていて魔物がよってくるのはほぼ確実だろう。そんな中、見えにくい密林の隣をリリスを連れて歩くのは少し怖いのだがまあ、油断しなければいいだろう。

「サン、ついてくるなよ?」

「ガウッ…」

静かに俺の足元からついてくるサンに釘を指しておくと、俺はリリスを連れて歩き始める。俺が目を覚ましたのは丁度昼頃だったらしく少し時間のたった今は、太陽が半分程地平線に沈んでいた。

「久しぶりだな…。2人で歩くなんて…」

「そうね…」

リリスにしては単調な返しを不思議に思い隣を見ると、少し顔を赤くしながらポケットに入れた手を出したり戻したりと迷っているようだった。

「……。行くぞ」

「リョウっ!」

ポケットから手を出したところを無理矢理掴むとギュッと握り締めた。いつもは剣をふるい魔法を放つその手があまりに小さく感じる。

「前から言ってたが本当に先伸ばしになっているな~」

「私はいつでもいいよ。さっきも言ったけど、私達はいつでも一緒でしょ?」

「そうだな。未来永劫、離れたくないし離れるなんて許さない!」

「ふふ、私は喜んでいいの?」

「どうだろうな~」

隣で笑みを浮かべるリリスへ目を向けると、煌々とした夕日がキラッと銀髪に輝いた。

「なに?」

「いや、綺麗だなって…」

色白のリリスには夕焼けの真っ赤な光がとんでもなく似合っていた。元々赤色は似合うリリスだが夕焼けと言う雰囲気もありその美しさは言葉で形容するなんて不可能だった。

「誉めても何もでてこないよ?」

「何も望んでない。ただ1つ欲しいのは、お前との時間だ」

「やっ!」

改めて自分の発言がキザになってると思う。何が自分をそうさせているのかは分からない。2度目だから破滅してもいいという捨て身の意思なのか、それとも既に白狩遼じゃないのか…。

「俺が回復したら、今度こそ2人っきりで遊びに行こうな!」

「うん。楽しみ!」

向こうで俺はこんな言葉をはけただろうか。キザの極みというようなセリフで、しかもデートに誘うなんてな…。俺は無邪気に笑みを浮かべるリリスの手を引くとゆっくりと歩みを進めた。


「お、か、え、り。抜け駆けかな?」

「リョウ、助けてくれない?」

「ゴメンな。俺も捕まっちまってる…」

「ねえリアス、目が怖いよ…」

「抜け駆けはダメなんじゃない?」

「リョウ兄も、リリスだけズルくない?」

『………』

帰ってきた俺達2人を待っていたのは俺達が心配で周囲を探し回ってくれたリアス達2人による叱責だった。顔は笑っているのだが目は笑っていないその姿に俺は口を開けない。

「まあいいっか。ティナ、いいよね?」

「うん。仕方ないね…」

意外に早く終わったことを不思議におもい2人の目を見ると俺とは目を合わせてくれない。と言うか、目は明後日の方向を向いていた。

「なあリリス、もしかして…」

「かもしれないね…」

猪の死体干しの前で集まっている俺達なのだが、いつの間にかユウはレイとイチャついていて、メアとフォールは喧嘩、その間をヨルソンが取り持つと言うそれぞれがそれぞれの時間をバラバラな場所で過ごしていた。

「お前ら、もしかしてリリスと同じクチだったのか?」

『っ!』

「はぁぁ。何が抜け駆けはズルいだよ!」

俺は2人同時にデコピンを喰らわせるとそのまま俺の隣へ座らせた。

「皆で来ても、相手してやるのに…」

聞こえないように呟く俺は暫くの間、落ちていく夕日を眺めていた。

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