第163話
「とんでもない惨状だな…」
「リリス、大丈夫かな…?」
密集する森林地帯を抜けるとそこには数多くの狼人、コボルトの死体が転がっていた。その中には格別大きな個体も混ざっていたりしたが全てが同じように横たわっていた。
「リョウ、俺は何をすればいい?」
「私にも指示を!」
「取り敢えずは殲滅だ。リリスが見当たらないってことは深追いしているのだろうからな!」
『了解!』
リアスは長めの槍。ユウリは2本の短剣。2人が飛び出した瞬間、周囲にいたコボルト達は一瞬の内に絶命していた。
《裏背、スキルは使えるか?》
《大丈夫だよ。けど、ダメージは計り知れないよ?》
《わかっている!》
動かない俺は雑魚と判断したのか醜い犬のような口からヨダレを垂らしたコボルトが手に持つ槍を放ってくる。
「●●●●●!」
「俺をナめすぎだ」
槍の穂先を踏みつけ大太刀の刃で醜い毛皮をなぞる。そして目に恐怖の色が宿ったのを確認すると勢いよく首を刎ねた。
『●●●●●●●●●●!』
首が地面へ落ちるのと同時に一斉に襲い掛かってくる。スキルなんて使いたくないんだけど…。
「●●●●!」
「死ね!」
前から槍を振り下ろす奴には足蹴りの後刃を浴びせ、愚かにも俺に素手で殴り掛かってきた奴には柄頭で頭蓋骨を砕く。そして遠くから高みの見物をしている奴には死んだコボルトの槍を投擲してやった。
『●●●●●●●●!』
「キリがないな…。魔法が使えればいいんだが…」
隣から槍を突きだしてくる奴の腕を砕きながら考える。俺の身体能力は確かに化物じみているが永遠に続く訳じゃない。しかしこのコボルトの量はまるで戦争だ。
「糞っ垂れが!」
襲い掛かってくる奴は斬り殺し、逃げる者は追い掛けて殴り殺す。本当はこの群れにボスであるケルベロスがいる筈なのだが当の化物は既に俺が殺していた。
「●●●●●●!」
すると死骸を掻き分け一際大きいコボルトが出てくる。その手には他のコボルトよりも太さも長さも段違いの槍が握られている。
「コボルトリーダーってところか?」
「●●●●●●●●●●!」
威嚇するように咆哮をあげるコボルトリーダー。それと共に他のコボルトは下がっていき俺が逃げられないように遠回しに俺達を囲む。
「俺と勝負したいのか? 受けてたつぞ?」
「●●●●●●●●●●●!」
速さは申し分無い。男なら皆が憧れるようなムキムキな体をしたコボルトリーダーはハヤブサのような素早い動きで走ってくるとその勢いのまま槍を突き出す。流石に俺もまともに受けては危ないな…。
ドカーーーンッ!
「危ねぇ…。凄い力だな…」
パッシブ以外使えない今の俺では攻撃を避けるのがやっとだ。攻撃は見えるしそれを避けるだけの余裕もある。しかしその間に攻撃出来る程の時間がない。
「●●●●●●●●!」
俺が攻撃もせずに逃げたことに俺を格下と見たのかコボルトリーダーは槍をグルングルンと回しパーフォーマンスまで始めた。
「くそっ、何かないのか…」
無理をすれば魔法を使うこともスキルを使うことも出来る。その代わりまた寝込む可能性もあるし激痛で意識を失う可能性もある。
「●●●●●●●●●●!」
また突っ込んでくるコボルトリーダー。避けてはジリ貧なので股を潜り抜けると後ろから大太刀を斬り下ろす。すると鋭く背中の毛皮は切り裂かれたが…
「ダメージは無い、か…」
ニタニタと笑みを浮かべるコボルトリーダーは槍をグルングルンと回し俺を威嚇する。俺1人じゃ勝てないな…。
《苦戦しているようだね!》
《まあな…。スキルを全く行使できないから…》
《刀技は使えるんじゃない?》
《刀技?》
《あれは魔力を使わないからね。その代わり、集中が必要だけど…》
《礼を言うぞ、裏背!》
スキルを使えなくても刀技が使えるならいい。刀技の中には魔法のような効力もあるし逆に魔法でも出来ないことも数多くあった。
「●●●●●●●●●!」
「負けてばかりいられない。
刀技・飛刃斬」
大太刀を振り下ろすと飛んでいった斬撃が走ってくるコボルトリーダーの槍を斬り飛ばしながら右肘から下を切り落とした。
「●●●●●●●●●●●●!」
「お前の初めての悲鳴、心地いいぞ!」
「●●●●●●●!」
激昂して飛び上がったコボルトリーダー。そのまま斬り飛ばされた槍を振り上げると力いっぱい振り下ろしてきた。
「スキルはやはり強い。刀技・返威陣」
構えた大太刀に槍が触れた瞬間、俺は大太刀を斬り上げる。それと共に勢いは全てコボルトリーダーへ斬撃として返された。
「●●、●●●●…」
「俺もお前には殺されるかと思ったよ。じゃあな…」
斬り上げた斬撃は深くコボルトリーダーの左半身を抉り、顔までもしっかりと切り裂かれているた。
ブシュゥ…
落ちた首を一瞬だけ見ると死体を回収し周囲を見回す。そこには同胞の中でも強者が倒されたことに恐れを抱いた恰好の獲物達な突っ立っていた。
「ふぅぅ。刀技・半円斬」
キラッと刃が煌めくと共に抜き放たれた刃からは鋭く大きな斬撃が飛び俺を囲むコボルト達の半数を斬り殺した。
「リリス、待ってろ!」
少しだけだったが尋常じゃないほどの汗をかいた。刀技1発に掛ける集中力は裏背の言う通り想像を絶していた。と言うことで大太刀を鞘に納めた俺は納めたままの大太刀を持ち一部だけ開いた包囲網を突破した。
「本当にキリがない…」
「●……●●●…」
瀕死のダメージを負いながらも俺の足にしがみつくコボルトを斬り殺し血を払う。既に殺した数は100に達するかとも思え、その中で上位種も数多くいた。
「リリス~! リリス~!」
呼んでも返事はない。と言うか一緒に来ていたリアスやユウリまで返事のない始末だ。死んでないだろうな?
「もういい。少し使わせてもらう。『王者ノ眼』」
物凄い頭痛と引き換えに俺の頭の中にはこの戦場の中にある様々な事柄の情報が入ってくる。しかしそれもほんの僅か。頭痛により集中力が散漫になっている今はスキルを満足に維持することも出来なかった。
「まあいい。場所は分かった。刀技・閃斬」
横薙ぎに振るうと共にコボルト達の体が上下に真っ二つに割れた。そしてその向こう側には槍でコボルトを蹂躙するリアス。
「あっ、リョウ!」
「俺から離れるな。当初の目的を忘れたのか?」
「ごめーん!」
「行くぞ。ついてこい!」
そして数分後、コボルトを問答無用に切り捨てていった先には目で追うのがやっとのようなスピードでコボルトを殺し続けるユウリ。
「リョウ…」
「当初の目的を忘れるな。行くぞ!」
「はっ、仰せのままに!」
この2人は俺と同時に群れの中に突っ込んできているから無事なのは予想がついた。しかしリリスだけは未知数だ。御願いだから重症なんて負ってくれるな…。
ガキンッ!
「邪魔だ! 刀技・居合斬り」
人混み、否、コボルト混みの中から槍を放ってきたコボルトを抜き放つ勢いのまま斬り殺す。そしてその先には今にも倒れそうなリリスが余裕そうなコボルトとせめぎ合いをしていた。
「●●●●●●●●●!」
「私は死ねない!」
剣の向きを変え槍の勢いをズラすと隙の出来た腹へ剣を突き刺す。その姿はあまりに痛々しい…。
「●●●●●●●●●!」
「やっ!」
流石のリリスでも傷だらけの状態じゃ反応も鈍る。リリスを抱き締めながら転がり込んだ俺は大太刀を抜き放ち襲い掛かった3匹のコボルトを斬り殺した。
「ふぅぅ…」
血塗れになった大太刀。同じように血で化粧された俺は乱れた髪をかき上げ、振り返った。