第156話
「解決できた?」
『ティナ!』
「2人が話してる間に向こうの人達の試合も終わってるよ。今日は巡回もするんでしょ、早く行かなくちゃ!」
「そうだな。そろそろ昼頃だしコイツらを連れて飯でも行こうか!」
『やった!』
無邪気に喜ぶティナとリアス。遠くでは既に魔力行使に疲れたレイ、メイ、フォールが座り込んでいて遠くではヨルソンとユウが倒れ付していた。
「どうしたんだ、お前は?」
朝から全くもって俺に目を合わせてくれないリリス。近付いて無理矢理目を合わせると瞬く間に顔を染め上げてしまった。
「な、なんでもないよ! ホント大丈夫だから!」
「そんなわけないだろ。逃がさないからな!」
咄嗟に逃げようとするがそんなこと許さない。それに理由はおおよその見当はついていたしな。
「っ!」
「朝はゴメンな…。嫌だったろ?」
「そ、そんなことないよ…」
「正直に言ってくれて構わない。けど、俺を避けないでくれ…」
「えっ…?」
「俺にはお前達しか残ってないんだ」
耳元へ顔を寄せるとその一言だけを残し離れた。俺は、何も得ていないし何も残ってもいない。
「さあ行くぞ。ユウ、お前たちもだ!」
『はい!』
そう言うと5人全員が整列し片膝をつく。そう言えば初日に来たあの5人とはあれっきり会ってないな。
「ねえリョウ、巡回って言っても何するの?」
「んー、ヨルソン、少し来てくれるか?」
「はい!」
確かに巡回って言われても何をしていいかなんの見当もつかない。と言うことでヨルソンを呼び出したわけどが…
「俺は団長に街の巡回を頼まれたんだが何をすればいいんだ?」
「はっ、我々と同じと考えた場合ですが、見回りに出向くのみと存じます。我々は主にスラム街を巡回しています!」
「そうか。今日はよく分からないからお前達5人にも付いてきて欲しいんだがいいか? 兵長達には俺から伝えておくが?」
『是非!』
「分かった。なら行こうか!」
改めて考えると大所帯だな。俺達だけでも俺、リアス、ティナ、リリス、ついでにサン。騎士で言うとヨルソン、ユウ、メア、フォール、レイで合わせると計10人にもなる。まあいいか。一応仕事だしな。俺は近くにいた兵長に「行ってくる」と親指を立てると訓練所を出ていった。
「スラム街に入る前に腹拵えでもするか。お前達、奢ってやるし行かないか?」
「い、良いのですか!?」
「当たり前だ。ここでは仕事仲間だろ?」
「は、はい!」
基本的に俺達は金を使わないのであまりに余っている。そんな中から騎士5人分の昼食を奢ったところで出費とは言えない。
「なあリリス、本当は全員自由に行ってこいって言いたいのだが流石に面倒だと思うんだが…どうすればいいと思う?」
「リョウが適当に決めて皆で入ればいいんじゃない。開放的な所なら大勢でも大丈夫でしょ?」
「そう、だな。なら行こう」
と言ってもスラム街に近いここには既に食事処なんて限られてきていた。そんな中、同じような建物が建ち並ぶ中に少し趣向の違う建物を見付ける。
カラン、カランッ、
中では大きめの丸テーブルが並べられ、壁に灯る明かりと差し込む日光が美しく交差していた。その中には数名が昼食を済ます、仲間と談笑する等して各自それぞれの時間を過ごしていた。
「各自好きなように分かれて昼食を済ますといい。会計は最後纏めて払う」
「はっ、仰せのままに!」
各自分かれて席に座る。フォールとメア、ユウとヨルソン、レイだけはやはり残ってしまうか…。
「レイ、呼んでやった方がいいだろうか?」
「ふふ、大丈夫よ。見ているといいわ!」
「ん?」
静かに何も言わず剣を背負ったレイは1番近くの席へ腰を下ろそうとする。しかしその前に肩を叩く者がいた。
「レイ、さんでしたよね?」
「はい…」
「ぼ、僕達とどうですか? 一緒に食べましょう?」
「ありがとうございます…」
ぎこちないながらも食事に誘えたユウ。もしかするとレイに気があるのかその顔は若干紅潮していた。
「ね、言ったでしょ?」
「そうみたいだな。もうパートナーができ始めているのか…」
「ふふ、そうみたいね。そうだ、リョウのパートナーは?」
「お前だ!」
自分で仕掛けて自分で恥ずかしくなるなんてまだまだだな。俺の正直な言葉に怯んだリリスへ追い討ちを掛けるように笑みを向けると近くの席へと向かった。
「さあ、リアスもティナも好きな物、注文しろよ?」
『はーい!』
「………」
「リリス、お前も遠慮するなよ!」
「っ!」
俺の隣へさりげなく座るリリス。何も言わず黙っているので顎を持ち上げ目を合わせる。それだけで真っ赤になっていく姿は実に愛らしい。
「やはりお前は面白いな!」
「もう! 意地悪…」
ジト目を向けるリリスに苦笑を返すとメニューを確認しその後リリスへと手渡しする。黙って受け取ったのはせめてもの自尊心なのか…。
「2人は決めてあるのか?」
「うん。予想通りだよ!」
「リリスは?」
「いつも通りよ…」
「ん、分かった。すいませーん、注文いいですか?」
「はーい、ただいま!」
昼時にも関わらず人の少ないこの店では特にすることもないのか窓拭き等の掃除をしていた。少し悪いかと遠慮めに言ったのだが弾けるような笑みを浮かべた店員は急いで雑巾をその場へ置くと急いで俺達の方へと駆け付ける。
「えーと、俺はこれを頼む」
「私はこれを…」
「ティナはこれを…」
「これをお願いします」
全くと言っていい程遅れることなく素早くメモしていく。まだ俺達と変わらない、もしかすると下かもしれないのによく出来た子だな。
「繰り返されていただきます。まずは‥‥、以上でお間違い御座いませんでしょうか?」
「はい!」
「それでは少々お待ちください。それと御頼みしたいことがあるのですが…よろしいですか?」
「ん、どうした?」
営業的な輝く笑みから年相応の少女の顔になる。それだけで大方は予想がつく。その相手もな…。
「御客様の御名前はリョウ様とお聞き及んでいるのですがお間違いございませんか?」
「あ、あぁ。しかしどうした?」
「は、はい。この私、卑しい身ながら騎士様をお慕いしております。ですのでどうかリョウ様から御伝えして下さりたいのです」
ホント、なんだと思ってんだよ。会って数日も経たぬ間にこんな場所まで伝わっているとは…。ヨルソン、意外に人脈が広いのか。
「そんなことか。けど……ダメだ!」
先生面をして説教をするつもりはないが俺は伝えるのに人を介しては上手く伝わらないと思う。ここは真っ直ぐに直に伝えなければならない。
「そうですよね…。私のような卑しい者が騎士様を…」
「ストップ! そういう意味じゃない!」
「?」
「お前から直で伝えなきゃ意味ないだろ。だから自分で言えって言ってるんだよ!」
「……。御冗談を…。平民が騎士様にそのようなこと言える筈ございますでしょうか?」
ふふっと乾いた笑い声を漏らす店員は頭を下げて掃除へと戻ってしまった。本当に…正直なことを言ったまでなんだがな…。
「やっちゃったね~」
「リリス…。俺、間違ってたか?」
「間違ってないよ。ただそれはヨルソンに言ってあげなきゃ!」
「そうか…。ここでは身分があるもんな…」
一瞬だが漏らした少女のような笑みは確かにヨルソンへ向ける恋情だろう。しかしそれが実らぬとは悲しい。またお節介を働くか…。