第155話
「はぁぁ。結局魔力を使いすぎて俺との模擬戦はできんのな?」
『………』
「何の為にやってんだよ…」
ほぼ互角の相手と試合を始めると誰かが止めない限り永久に終わらない。そして誰も止めなかったのが今の現状だ。ヨルソンとフォールは2人で相討ちのようになり魔力は底をついていた。
「まあいい。お前達には魔刃を身に付けてもらう!」
「魔刃?」
「そうだ。魔力にやり刃を覆う技術だ。分かったらやってみろ!」
と言うことでほぼ丸投げで出した課題。しかし流石騎士の中でも優秀な奴等だ。魔刃とは言えなくても形はまあまあ出来ている。因みに魔刃とは魔力による刃のことだ。
「これで、良いんですか?」
1番始めに話し掛けてきたのはヨルソン。その刃に施されたのは確かに魔刃だった。しかし魔力を込める量が多すぎて無駄に覇気を放っていた。
「まあ、大丈夫なんだがもう少し魔力を抑えてみようか。お前は他と比べて魔力が多いからな…」
「そうですか…」
ションボリとするヨルソン。これがリアスやティナ、リリスならその場で抱き締めてるんだろうが…。
「僕も出来ました…」
今度はユウ。直剣に纏わせられたのは確かに魔刃。それもしっかりと洗練された綺麗な魔刃でリリスらが使うのと大差なかった。
「上出来だ。流石だなユウ!」
「はい…」
既に5人中2人は魔刃を習得。けれど逆にそれ以外の3人は難しいだろう。よく出来てフォールくらいだ…。
「なあユウ、ヨルソンと試合でもすればどうだ?」
「試合ですか?」
「そうだ。魔刃を使った試合はまた違った感覚だぞ?」
「そうですか…。では…」
「ヨルソンもいいよな?」
「はっ、我が君!」
「なら始めるがいい。よーい、始め!」
と言うことで半分独断で始めさせた。俺の後ろの方では残り3人、フォール、レイ、メアが魔刃に苦戦していた。
ガキンッ!
「ユウさん、僕が勝ちますよ!」
「ヨルソンさん、僕も負けられません…」
2人共以外に闘志剥き出しだな。殺気という名の威圧感は2人の間で激しくぶつかって周囲へと弾けとぶ。
「みんな見込みあるじゃない!」
周囲を見回すと風が吹き抜けるのと共にリアス、ティナ、リリスが俺の周囲へ腰掛けていた。相変わらずリリスはそのまま…。
「そうだな。まあ、全員がそれぞれ違う特徴を持ってるけどな…」
「だね。レイなんて私担当でしょ?」
「ならティナはメアだね!」
「私はヨルソンとユウ?」
「そうなるだろうな。と言ってもコイツらには何も指導しなくていい。単なるメンタルケアだけしてやってくれればいいよ!」
「分かった。強くなったら私と模擬戦ね!」
「ちょっと待て!」
「なによ!」
不満そうに頬を膨らませるリアス。とは言え考えてくれ。昨日のレイみたいな惨状が再び再来するということなんだぞ。
「模擬戦の相手は俺がしてやる。だから騎士達には止めてやってくれ!」
「んー、分かったよ! なら今からね!」
「はっ………」
「だから今からやるよ。ティナ、審判お願いね~」
「は、はーい」
ティナに見捨てられた。俺の手をしっかり掴んで歩いていくリアス。ティナの後ろからはリリスが控えめに手を振っていた。
「ねえリョウ、私、本気で良い!?」
「言わなくてもそのつもりだろ? 俺も正真正銘、俺のやりかたでいくぞ!」
「いいよ。リョウの本気なんて是非味わってみたい!」
日緋色に輝く槍を手にしているリアス。その刃には魔力が渦巻きヨルソンの数倍の威圧感を感じる。
「それじゃあ2人共、いい? よーい、始め!」
ガキンッ!ガキンッ!
振りかざされた刃を受け止めた瞬間、石突きの方で攻撃を喰らう。防御の圧力を使ったいい一手だとは思うが常時魔力壁を維持している俺には効かない。
「ははは、やっぱりリョウだけだよ!」
「………。お前、ホント模擬戦になると変わるよな。火炎魔法・乱竜ノ牙」
指先でクルッと円を描くとその中から炎の竜が召喚され俺の周囲を飛びまわる。これらも精霊の一種、だと思う。
ガキンッ!
「それが本気?」
「んなわけないだろ!」
大太刀を受け止めたリアスは獣人由来の身体能力で無理矢理姿勢を変えると俺を蹴り飛ばす。しかしその後ろからは炎の竜が分裂し、既に10匹を越えてリアスに襲いかかる。
「きゃ、ちょっと!」
ガキンッ!
「敵はソイツらだけじゃないぞ?」
炎の竜に囲まれたリアスはその対処に苦戦して俺の攻撃への反応が遅かった。と言うことでリアスは姿勢を崩し倒れ込んでしまう。
「ふふ、なら私も本気で行くよ『獣化』」
「なら俺も少し本気でいこう『鮮血覚醒』」
天高く掲げた右手を深く切り裂く。ドバドバと吹き出す血が俺を頭から濡らしていく。
「相変わらずのスキルだね…」
「見た目が変わるのはお互い様だろう?」
このスキルによって呼び起こされた高揚感。そしてそれと共に溢れ出す濃厚な殺気は黒い魔力という形で体現した。
「行くよ!」
ガキンッ!
振り下ろされた槍を受け止めた。しかしその威力はあまりに弱々しく感じる。スキルと魔力を合わせたこの状態ならリアスの力さえも耐えられるということか…。
「はっ!」
ドンッ!
動きが速くなった。鞘で鋭くリアスを打つとそれに続けて手首を斬りつける。それと共に吹き出す血がまた俺の力を底上げしてくれる。
「ぅ…。強い…」
「…………」
ドンッ!
槍を再び拾ったのを確認するとつま先で蹴りあげる。そしてそれを追い掛けると納刀した状態で切り上げる。流石にこの姿勢で真剣を使うと斬り殺してしまう。
「リョ、リョウ…」
「………。まだやるか?」
「もういい…」
そう言うと槍の刃に布を巻きリリスの方へと歩いていった。俺はその場に立ち尽くしたまま空を見上げていた。
《このスキル、分解しようかな…》
《どうして? 折角強いスキルなのに?》
《正気を失ってしまう…》
スキルを使うと血の量にもよるが高揚感に支配され正気を失ってしまう。まだ裏背に任せるのならいいのだが正気を失った自分が何をしでかすか分からない。
《一応、謝っといたら?》
《そうするよ。あとこのスキルは封印だな…》
裏背のアドバイス通り何も言わずリアスに近付く。すると俺を見た後、手を隠すようにして俺からも視線を逸らした。
「…………」
「…………」
無言で見下ろす。変化はなし。俺はその場へ片膝をつくとその隠した手をソッと前に出させる。
「ゴメン…」
《精霊魔法・蘇生》
それだけ伝えると丁寧にゆっくりと傷を治していく。周囲の騎士でさえ横目でチラチラと此方を見ている。
「…………」
「…………」
傷を完全に回復させると立ち上がる。なんとも気まずいな。
「私こそ、ゴメン…」
「………」
目が潤んでいた。その手はワナワナと震えている。
「ん!?」
静かにしかし力強く抱き締める。ただしそれは恋人としての甘い雰囲気ではなく家族としての温かい雰囲気だった。
「ゴメンな。お前の気持ち、理解できてなかったよ」
「………。私こそゴメン。私が、私が頼んだのに…」
これについては俺が悪い。軽く正気を失っていたとはいえリアスを身体的にも精神的にも傷付けてしまった。
「俺こそゴメンな。自分の力さえ制御しきれてないんだ…。お前を、傷付けてしまった…」
考え直してみるとリアスを蹴り上げたのも鞘で打ったのも普段の俺じゃやらないことだろう。何故なら今の俺には治せないから…。
「試合じゃ、ありがちだよ!」
いつものリアスに戻った。ホントその度量の広さには感服するよ。