第154話
「私の右目、普段は黒いけど魔力を流すと青く輝く。所謂忌み子なんだ!」
「…………」
「さあどうしますか? 忌み子になんて触れらないですよね!?」
まるで狂気に染まった目を見ていると痛々しく感じる。単なる模擬戦なのだが本物の戦場のような重い雰囲気を感じた。
「…………」
「どうしたんですか? さっきまでは積極的に斬り込んできたのに?」
そう言った瞬間、もの凄いスピードで迫ってくると剣を振り上げた。そしてそれと共に右目が青く輝くと防御に移った刃が逸らされた。
「ぐっ…。危ないな…」
「一気に弱々しくなりましたね。やはり忌み子は怖いですか?」
何故隠していた右目を使ったのか分からない。しかし、俺はそれを信用だと受け止めたかった。
「お前がそう思うならそうなのだろう。『火炎剣』」
刃を包む炎は俺の手まで包み込む。しかしそれによるダメージはない。むしろ炎が手甲のように俺の手を覆っていた。
「強がりは止してくださいよ!」
ガキンッ!
純鉄で作られた剣と俺の大太刀がぶつかり合う。大きな金属音は耳を壊すと思われた。
「強がりではない。全てはお前の受け止め方だ!」
刃を鞘へ納めると、深く鞘を納め刃を一気に解き放つ。流石にそのスピード、威力には耐えられなかったらしくレイは遠くへと吹き飛ばされる。
ドンッ!
「ぐはっ!」
「これは模擬戦だ。殺しはしない」
吹き飛んでいくレイを追い掛けるとその勢いのまま柄頭で鳩尾を打つ。
「うぐっ…」
「もう止めておけ。その右目も隠さなきゃ他の人間に見られるぞ」
「………」
無言で魔力を解いたのだろう。右目の輝きは消え失せ元の黒眼へと戻った。
「さあ、メ‥」
「リョウさん!」
俺が続けようとすると横からユウが勢いよく近付いてくると俺の胸ぐらを掴み手を振りかざす。
「ふっ、どうした?」
「貴方も、貴方も忌み子を罵るのですか!」
「………」
どうやらコイツは大丈夫な人間らしい。やはり魔族なだけあり人間に比べては差別感も少ないのだろうか。
「黙っていないで答えてくださいよ!」
その目は軽く血走っているが優しさに満ちていた。それは疑う余地もなくレイの為なんだろうな。しかし俺にとってそんなことはどっちでもいい。ユウの手を振り払うとその足を蹴り払った。
「お前に返答を返す義理はない。しかし1つだけ教えてやろう」
右目の眼帯を外した。その下には美しく紅色に輝く魔眼。それを見た彼らの様子は言うまでもなく硬直していた。
「リョウ、さん…」
「レイ、お前だけじゃない。同じ忌み子であるお前に親近感は湧けど嫌いはしない。分かったな?」
「は、はい…」
まだ俺の右目に見いっているレイにそう言い聞かすと俺は再び眼帯を着け直した。この行為が吉とでるか凶とでるかは分からない。しかしレイの孤立感を解消してやるにはこれが1番だろう。
「さあ始めるぞメア。待たせて悪かったな」
「は、はい!」
「ユウ、審判を頼む」
「は、はい…。ではよーい、始め!」
あまり長引かせると忌み子という言葉が強調されてしまうだろう。俺は手早く話を切り上げると無理矢理ながら模擬戦を開始する。
「■▨■▨■▨■▨■▨、水魔法・高圧水」
「土魔法・土壁。ん、強いな」
適当に魔法を受け止めようと壁を作ったのだが1枚くらいなら容易く貫かれてしまった。咄嗟に避けたがもし当たっていたなら只では済まなかっただろう。
「■▨■▨■▨■▨、水魔法・水神舞」
メアの手の中に生成された水剣。それは綺麗に日光を反射して施された各所の装飾は実に美しい。魔法とは創造力というのでメアのセンスは良いんだろうな。
「それでなにが‥」
言いかけた瞬間、俺の頭の横を水弾が通りすぎた。それは例の水剣から放たれたようでそれを構えるメアの口角は不気味につり上がっていた。
「分かりましたか。魔法とはリョウさんが使うようなものだけではないのですよ!」
俺も使えないことはない。現にエリスとやり合った時は炎の鎖刃を作っていたからな。
「ほーう。なら俺も本気でやってみようじゃないか。闇魔法・断絶空間」
重力により異次元と化した空間が俺の目の前を覆った。飛んできた水弾はその空間に吸い込まれるように消えていく。
「なんですかその魔法は!」
「闇魔法ってやつだ。四代属性でもやってやろう。火魔法・精霊召喚」
床へ手を翳すとその場所を中心に広い魔法陣のような物が描かれ中から恐竜のような真っ赤な生き物が姿を現す。違うのはその目と口からさ炎が吹き出していることだ。
「サ、サラマンダー!」
「頑張るといい。自分とは違う魔法にどう対処する?」
正直言うと色々と過剰演出だった。本当は魔法陣も必要ないしわざわざ恐竜のような姿にする必要もなかった。しかし…
「うわっ! ちょっと…!」
魔物に追われているようで少なからず恐怖心を煽れるだろう。いくら慣れている騎士とはいえ炎に包まれた化物は恐ろしいだろう。
「サラマンダー、来い!」
「な、なに!?」
俺の手へと戻ってきたサラマンダー。それは俺の手に収まるよう大きさを変えていて小さくなれば可愛いものだった。
「まだやるか。あー、そうだ、あとこんなこともできるぞ!」
サラマンダーの尻尾が俺の手に巻き付くと共に俺の手をサラマンダーが包んでいく。そして結果、俺の手には顎の形のような手甲が形作られた。
「す、凄い…」
「精霊を作ったりするとやり易いんだ。そもそも始めから汎用性は高いからな。まあ、作るのも難しいけどな!」
「………」
「まあいい。お前の実力も分かった。一応聞くがまだやるか?」
「いえ…」
「分かった。なら俺達は終わったんだが…」
少し離れた方を見るとまだヨルソンとフォールは剣を打ち合っていた。本当に…面倒臭いな。
「ヨルソンさん達はまだ終わってないですね…」
「そうだな。お前達、何か聞きたいことはあるか?」
そう言うと全員が言いたいであろう視線を向ける。そしてその中で端から言うようにしたらしく、ユウが始めに手を上げた。
「はい! 身体能力強化とはどうするんでしょうか?」
「そうだな…。魔力は込めるだけで体の能力を向上させる。だから血管に沿うように魔力を流せばいい。分かるか?」
「や、やって、みます…」
絶対分かっていない。まあ、これについてはゆっくり話すとして次は…
「はい! 精霊を召喚するとはどうすれば?」
「魔法書の中に書いてあった筈だ。出来れば本物を知ることが1番なんだが本物の精霊なんてかなりの手練れしか召喚できないだろう。だからまあ、暫くは俺のサラマンダーをベースにしてみればいいだろう!」
「は、はい!」
「で、次だが?」
レイに視線を向けるとなんとも複雑な表情をしていた。言葉で表しづらいようなその表情は実に難しい。
「リョウさん、失礼をお詫びいたします!」
そっちか~。
まあいい。と言うか何故かコイツはほっとけないな…。
「ん、堅苦しいことはいい。単にお前は不安だったのだろう。違うか?」
「…………」
「忌み子ってことは忌み嫌われながら生きてきたのだろ? そうなるのは当然のことだ」
「…………」
「まあこんな御託を並べるよりももっと分かりやすく話してやろう。忌み子はお前だけじゃないんだ。それに、お前のことを人として見てくれる仲間がいるだろう?」
「は、はい!」
顔を上げたレイ。目を輝かせるその姿は俺の言葉を理解してくれたようだった。
「さあさあ、あとはゆっくり観戦するとしよう」
『はい!』
俺達は長い長い石段へ腰掛けると試合に夢中な2人を遠い目で観戦していた。