第152話
《スッキリした!》
《だね。死骸は燃やしたし大丈夫だよね!》
《あぁ。ホントはもっと続けたかったんだがな…》
俺がアイツを甚振って、リアス達に手が回らないなんて最悪だ。それにいくら甚振ってもユウリ自身が生き返るわけでもその心が癒えるわけでもない。
《まあ、良いじゃないか。早く戻ってリアス達とイチャつきたいんでしょ!》
《思考共有か…》
《僕と君は時間さえあれば完全にリンクするからね~》
《そう、か。まあいい、行こう》
スラム街を出た頃には既に陽も頭をのぞかせ、チラチラと民家の中は明かりが灯り始めていた。
《そう言えば君のスキルはやらなくて良かったの?》
《んー…、今夜にでもやってみるさ…》
《そっか…。ねえ、冗談抜きでリアス達のスキルは改変しないの?》
《ん!?》
《スキルを改変させれば大抵は強くなるのに…》
《アイツらが望むならやってやる…闇魔法・影移動》
俺は一言だけ、そう呟くと影の中へと体をとかした。
《なあ、リリスの隣にいたら、驚くかな?
《ふふっ、面白いことを考えるじゃないか。いいんじゃない!》
《人の温かさが恋しいんだよ!》
《じゃあ僕は消えるね~》
宿に戻った俺を迎えたのはヒシヒシと体を貫く寒さだった。まだ下には誰も降りてきていない。俺は奴のスキルの『忍足』を使いながら廊下、階段を移動し部屋の扉を開けた。
「ゴメンな…。リリス…」
リリスはシーツを抱き締めるようにして眠っている。目尻に涙の跡があり昨日泣いてたことは歴然だった。
「ん、ぅ…」
「まだ起きなくていい。こんな姿、見せられないからな…」
パチンッ、
指を鳴らし服をチェンジさせる。そして手や顔についた血を拭き取った。
「ぅ……ぅゃ…」
リリスの隣へ横になる。すると感覚でいち早く気付いたのかリリスは薄目を開けた。
「ふっ、まだ寝ていれば良い」
一瞬目が合ったが笑みを浮かべ抱き締めると安心したように再び眠りについた。
「スゥ…、スゥ…、スゥ……」
俺の手の中で静かに寝息をたてるリリス。あまりに無垢なその寝顔に俺は改めて責任を感じる。
「お前達だけは死なせない…」
手の中、伝わるこの鼓動を止めてらならない。共鳴するように感じる己の鼓動は時と比例するように大きくなっているように感じた。
「スゥ…スゥ…スゥ……」
「俺も眠い。少し寝る…」
魔力の大量行使のせいか一晩寝てないせいか…瞼が重い。いつの間にか俺をギュッと抱き締めていたリリスに笑みを浮かべると俺も少しの間、目を閉じた。
んぅ…。朝なのに温かい。
いつもなら寒くって布団から出たくないのに今日は何故か温かくてずっとこのままでいられる。
「んぅ?」
目を開けると何も見えない。その代わり、分かったことがあった。そう。私は昨日、1人でベッドに入った筈なのに誰かいる…。と言うか答えは1つ…。それが分かった瞬間、私の体温は一気に上昇した。
「スゥ…スゥ…スゥ…」
気持ち良さそうな寝息が聞こえる。もしかしたら昨日寝てないのかも…。と言うか私はどうすれば…。
「ねぇ、リョウ、寝てるの?」
「スゥ…スゥ…スゥ…」
あー、完全に寝てる。と言うかどうして私のベッドに…。嬉しいけどビックリしちゃう…。
「ね、ねえリョウ?」
「…………」
冷静に考えると恥ずかしい。だって今の状況って客観的に見ると私をリョウが抱き締めながら寝てるってことでしょ。そんなの、そんなの…!
「………」
かといって起こしちゃうのは可哀想。折角寝てるのに…。けどけど、このままじゃ私が恥ずかしすぎる!
「誰か…」
当然、誰もいない。リアスは当然だし、ティナは昨日酔ってたからまだまだ時間が掛かると思う。
「スゥ…スゥ…スゥ…」
結局はリョウが起きてくれないとどうにもならない。リョウって恥ずかしくないのかな?
「でもリョウ、何をしてたの?」
私に用事があるって言って出ていったけど何があったんだろ。それにこのトゲトゲした魔力は尋常じゃないくらい怖い。
「ん?」
リョウの真っ黒の髪の隙間から見える日緋色の大太刀が紅い血に濡れていた。ホントに、何をしてたんだろ…。
「ぅ…ん…」
「起きたの?」
「んぅ、リリスか…。おはよう~」
「お、おはよう…」
私の肩を抱き締めていたリョウからすれば私の目線ははるか下にある。私が見上げるとリョウはニッコリと笑い掛けてくる。私の心はそれだけでドキドキと大きく鼓動を始めた。
「んぅ…少しこのまま…」
そう言うと再び目を閉じて私を抱き締めた。今度はリョウが起きてるのが分かってるからより恥ずかしい。ホントに…、朝から嬉しいけど酷いよ…。
「ね、ねえリョウ…そろそろ…」
「んぅ…。そう、だな。朝からゴメン…」
離れていくリョウの手が少しだけ寂しい。もっと触れていたかったのに…。
「ちょっとビックリしちゃった…」
「ゴメンな。勝手に入ったりなんてして…」
「だ、大丈夫! 私は気にしてないから…」
その言葉は嘘じゃない。私はリョウが寝てる間に襲ってきても許せるつもりだし、布団に入るくらいなんてなんともない。それにリョウのことだし理由もあると思うから…。
「お前、昨日泣いてたろ?」
「えっ……」
急に真面目な表情を浮かべたリョウは私の方を片目だけで見ると大太刀を携帯した。そして私の方へ振りかえると目線がピッタリと交差する。
「無理するなよ…」
それだけ言うと部屋を出ていった。残されたのはそんな言葉に固まった私1人だけだったけど、暫くすると窓の隙間から吹き付ける風が私を目覚めさせてくれる。
「どういう意味よ…」
私は無理なてしてない。昨日はリョウが離れていくのに悲しくて、久し振りにリョウと2人っきりだったのに…、無性に悲しくなっただけ…。
「勘違いしないでよね…」
リョウに対する複雑な思いを吐き捨てるように呟くと私は服を着替え始めた。
《良かったのかな?》
《何がだ?》
《リリスちゃん、困惑してたよ?》
《分かってる。俺も眠くて頭が回ってないんだ…》
意外に昨日のスキル行使は疲れた。あのパネルを維持するだけで魔力、タップするだけでも魔力、そして決定する時にはより大量の魔力が必要。もう俺の頭の中は疲れによってズキズキと痛みが走っていた。
《大丈夫? 君の感情は伝わっても感覚までは伝わらないからね》
《そうか…。正直頭が滅茶苦茶痛い。どうしてなんだ?》
《筋肉痛みたいなものだよ。まあ、引き千切られるのは脳細胞だから痛みは筋肉痛なんかとは比べ物にならないけどね!》
《んぅ……。と言うことはこれはただひたすら耐えろと?》
《と言うことだね。頑張れ!》
まあ分かっていた答えだが改めて断言されるとキツい。それにこれから俺はこの痛みを頻繁に味わうことになると分かっているから余計にキツい。
《なあ、これってどうにか軽減できたないのか?》
ズキズキと痛む頭。まるで脳を掻き回されるようなその痛みは魔力を行使しようとすればその分だけ強くなっていった。
《君の体がその永久の魔力に適応すれば痛みは消えるよ。きっと無いだろうけどね!》
《………。それら断言か?》
《違うよ。けど無理だと思う…》
《そうか…》
ホントに辛くなるな。ここ十数日で俺の魔力耐性は大きく飛躍しただろう。しかしまだだ。こんなレベルで痛みを感じていてはこれ以上の成長は望めない。
《君、何を考えているの?》
《ん?》
《凄く悲しい顔をしてたよ…》
頬をパチンッと叩いて意識を奮いたたせる。痛みなんて考えてられないな。俺はできる限りのことをするまでだ!