第150話
《ここなら大丈夫だろう》
《よくもまあ…こんな場所を見付けるもんだね…》
《なにを! スラム街ってのはこんなものだろ?》
《んー、そうだけど。で、どうする?》
《そうだなあ。俺は今すぐにてもコイツを拷問に掛けてやりたいんだが…》
《ダメダメ。ちゃんと目的があるでしょ!》
《そうなんだよな~。色々試してからたっぷりと…、甚振ってやる!》
《おー、怖っ…》
ガチャ……、ボギッ…
スラム街の扉は壊れていたようで取手を引っ張った瞬間、バキッという音と共に取手が外れ連動するように他の部分も壊れていった。
《まあいいか…》
中には乱雑に荒らされた家具が散らかっていて端の方には信じたくないが何者かの肉片が腐り果てていた。
《で、どうするの?》
《どんな感覚が生じるか分からないから椅子にでもくくりつける!》
小脇に抱えたゴブリンを腐り虫が蠢く椅子へ乱雑に投げつけると、アイテムボックスの中からロープを取り出しその手首、足首、そして腰回りを拘束する。そして最後に首にロープを掛け足首のロープと結び合わせる。こうすると下手に抵抗すれば首が締まる。
《凄いやり方だね…》
《ゴミに情けは不要だ!》
《ふふっ、いいじゃないか。それでこそ僕の白狩君だよ!》
《ふっ、珍しく気が合ったな!》
ギドの所業を知っている裏背の顔には憎悪が浮かんでいた。その手には魔力で作ったであろう直剣が握られている。
《ねえ白狩君。1度、殺していいかな?》
《ん、お前にしては珍しい…》
《僕と君は切り離された時点で完全リンクはしていないんだ。だから君の憎悪の感情は流れてきていたが記憶までは流れてこなかった。けど…時間と共に流れてきたよ…。僕はこんな奴が大嫌いだ!》
《ふふっ、同感だ。けどまだだ…》
《君が1番憎んでいるんじゃないかな?》
《俺は憎しみを殺すだけで終わらすなんて甘いと思う!》
《………。なら…じっくり見させてもらうよ。君の復讐とやらを!》
《任せろ!》
ゴブリンの姿で哀れにも縛り付けられたギド。その肉体は俺が極限に身体能力を落とし、その変わり五感と致死耐性、再生能力を底上げしていた。
「起きろ! 雷魔法・迸雷」
「グギャッ!」
本来のゴブリンなら5回、人間なら3回は死ぬだろう電流が奴の体を駆け巡る。それでも致死耐性が化け物級に引き上げられた奴は死ねない。苦痛に白目を剥くがその瞬間新たな痛みにより意識は覚醒させられる。
「よーく俺を見ろ。なあ知ってるか? 今ユウリは何してると思う?」
「グギャ…、ん、そ、それは…」
「分からんか? よーく考えてみな?」
「………」
キョロキョロと周囲を見回すが誰もいないと判断したのだろう。と言うことは…奴は最悪の結果にたどり着いた。
「ふっ、教えてやろう…」
「………」
無意識に手から禍々しい程の魔力が漏れ出す。そしてそれは鋭い剣の形をとり邪悪な黒い気が剣を取り巻いた。
「奴は、ユウリは死んだよ。お前ら戦争を引き起こすクズ共に殺された!」
「………」
「それだけじゃない。ユウリの心はお前達に壊された! 2度と癒やせぬ最悪の壊しかただ!」
「………」
「ふっ、ダンマリか…。お前も壊してやる!」
それと共に魔力剣を無造作に斬りつける。刃は鋭く空気を切り裂きその空気が建物の壁と共に奴の体を切り裂いた。
「グギャッ!」
「痛いか。しかしユウリの心はもっと痛かったろうな」
無惨にも引き裂かれた皮膚から汚れた汚い血が流れ出す。傷口から垂れ出た内臓は変な液を撒き散らし椅子を汚した。
「グ、グギ、ギャッ…」
「直ぐに癒える筈だ。続けるぞ」
《ねえ、僕もいいかな?》
《殺さんなら何をしてもいい!》
《あ、り、が、と…。ふふっ…》
裏背の話を聞く限りだと俺と裏背の感情はある程度リンクしている。と言うことは俺の中で燃え滾る怒りと憎しみは裏背の中でも燃えているということになる。
「な、なにをする…」
「四肢を砕くんだよ。スキルさえ使えればなんでもいいからな~」
《土魔法・鉄突槌》
魔力により作り出された鉄槌。その先には恐ろしいほどの鋭い肉叩きのような突起がついていてまるでこの為だけにあるようだ。
「や、やめ‥」
グチャッ…
気色の悪い音と共に醜い肉塊と化した足が椅子にへばりつく。あとは両腕ともう片方の足だ。まだまだ時間はある。
《起こしてあげなくっちゃ!》
《ん?》
《こうするのさ!》
その手には恐ろしいほどの鋭い刃が握られていた。そして奴の首元へ刃を持っていくと背中に沿って刃を下ろしていく。
《ふっ…》
《行くよ!》
ベリッ…
背中の皮が一気に剥がれ落ちた。それと共に奴の目は見開かれ、醜い顔が痛みによりさらに醜く歪んだ。
「や、止めてくへ…」
「嫌だ。お前の心が壊れるまで続ける!」
グチャッ…
続けてもう片方の足を潰す。するとやはり椅子に肉片がへばりつく。汚いな…。
「や、止め…」
「うるさいぞ。これでも咥えてな!」
足を潰すとやはり潰しきれないものが下に落ちる。そしてそれは原型を留めている物が多かった。まあなので、猿轡にはもってこいだろう。
「んー、んー!」
「旨いか? 自分の足は!」
「んー、んー!」
「んっ!? このままじゃ失血死してしまうじゃないか。危ない危ない。堕炎魔法・暗黒炎」
傷口へ灯った真っ黒な暗黒色の炎は渦汚い血に濡れた傷口を焦がす。肉の焦げた不快な臭いが俺達の鼻を突き抜ける。
「あ、あちゅ、あち、あ…」
「ふっ、名演技だな」
「っ!」
グチャッ、グチャッ!
今度は勢いをつけて吹き飛ばす。奴の両腕は床へ転がり傷口からはドバドバと穢れた汚い血が溢れ出す。
「タフだなあ。氷魔法・氷結」
傷口を氷が包む。それは脇腹の方まで広がり奴の体は奇妙にも氷と炎が共存していた。
「さあ、あとは毒物でも投与しようか?」
「グチャッ、な、なんじぇもしゅるから…ちゃ、ちゃすけちぇ…」
「無理な相談なんじゃないか? 幼いユウリがそう言った時、お前は助けたか?」
「………」
「ふっ、お前は嬉々として嗤っていただろうな。その顔を想像するだけで反吐が出る!」
「…………」
「なあお前、霊体って知ってるか?」
「ひゃい?」
「魔物の中で物理は一切無効。魔力による攻撃でしかダメージを与えられず見えもしない…」
「に、にゃにを言っちぇいりゅ…」
「お前に憎悪を抱くのは、俺だけじゃないということだ!」
「ぬ、なにを‥」
その言葉が終わる前に奴の体には大穴が空いた。そしてその体は燃えながら凍りつく。
「やるなあ裏背。魔法まで使いこなしているじゃないか!」
《ふふっ、良い実験台じゃないか!》
そんなことを言うが絶対に目的は違う。その目には強い憎悪が宿り溢れ出す殺気は裏背が見えない奴でさえ顔を引き攣らせる程だ。
「や、やめちゃくれ~」
《君にそんな、資格はないよ!》
それと共に奴の体は輪切りになり再び再生される。そしてそれが数回、何度も微塵切りになった奴の目には既に魂なんて残っていなかった。
「生きてるか。雷魔法・痛覚」
脳に直接痛覚を与える魔法。それは真剣なんたらかんたらではなく、単に神経を引き千切るだけ。
「グギャーーーーッ!」
「ふっ、ふはははは! 復讐とは楽しいものだな! お前の悲鳴、涙、全てが俺を潤す!」
グサッ…
「グギャーーーーーッ!」
いつの間にか、俺の思考は暗く真っ暗な人間の黒い部分に呑み込まれていた。