第149話
カランっ…
机の上のグラス。芳ばしい香りを漂わせる肴達。夜も深くなり周囲には誰1人として存在しなかった。
「始めるか?」
「ごめん、リョウ。私、眠くなっちゃった…」
まあ、分かっていたことだ。座っていても目がトロんとしていて眠そうなのはよーく分かる。
「なら寝ればいいだろ?」
「寝落ちだけはヤだ…」
「………。運んでいってやろうか?」
「ヤだ…」
「はっ?」
「そっち行ってもいい?」
「あ、あぁ。大丈夫だけど…」
その返事にニコっと笑った。そして反対側の席から俺の隣まで移動してくる。
「私妬いちゃったよ…。リアスもティナも嬉しそうだった…」
「………」
「別に催促じゃないからね…」
そう言いながらもチラチラと視線を向けてくる。酒のせいかその目は少し虚ろで頬は紅潮していた。
「そんな姿を見せといて俺に手出しするなと?」
驚いたように目を開くリリスを抱き締めるとそのまま懐に抱き締める。そして…
《闇魔法・影移動…》
闇に包まれると共に俺達の体は跡形もなくその場から消え去った。
「ここは?」
「部屋の中だ…」
ここは正真正銘俺の部屋。最近は片方しか使っていなかったが初めから2つの部屋を予約していたのだ。それは単にコイツらが俺の部屋に押し掛けていただけだった…。
「襲う?」
「そんな酷いことはしない…」
部屋を照らすのはユラユラと揺れる1つの小さな蝋燭だけだった。お互いの顔を確認するのでさえ難しく全ては暗闇の中だ。
「ちょっ、リョウ!?」
「何もしない。久し振りにゆっくりした時間が欲しい…」
闇の中、リリスを押し倒しベッドの上へ横になった。とは言え何もする気はない。本当にゆっくりしたかった…。
「私は違うよ」
「ん?」
「私はもっとリョウと…」
暗闇の中、位置が変わった。そして柔らかいのが俺の唇へ触れた。
「リリス…」
「私はもっと触れていたい。ごめん、身勝手だよね…」
赤くなっているもののその顔は少し悲しげだった。離れていこうとする手を掴むとその体を引き付けた。
「お前が触れていたいって言うのならずっと一緒にいてやる。それが俺の信念であり責務なんだ!」
抱き締めた体から伝わる鼓動がその存在を深く俺に知らしめる。それと共に俺の中へ温かい気持ちが芽生える。
「それは虚言? それとも‥」
「当然、本心だ!」
さっきは先手を打たれたが今度は負けない。一瞬だけ視線を合わせるとキスを交わした。
「リョウ~」
「可愛い顔するじゃないか!」
焦点の定まらない目に紅潮した顔。思わず心を掴まれるようなドキドキとした感覚が俺の胸を締め付ける。
「私、ドキドキするよ…」
「俺もだ。夜風にでも当たろう…」
鍵により施錠された窓を開けると冷たい風が部屋の中へ勢いよく吹き込んでくる。浮わついた心を引き締めるが如く俺の心を凍り付かせたようだった。
「少し落ち着いた…」
「………。そろそろ寝ろ。もう、夜も更けた…」
「リョウは?」
「俺はやることがある。ゴメンな。最近、一緒にいてやれない…」
「……いいよ。それに昼間はずっと一緒でしょ!」
「ふっ、そうだな!」
笑みを浮かべるリリスを片目に俺は部屋を出ていく。その後、静かな泣き声が聞こえた…。
《よかったの? 可哀想じゃない?》
《今日のでよく分かった。俺より強い者がまだまだいるんだ。せめて自分の能力くらい行使できなければ…。その為には…仕方ない…》
《ふふっ、無情だね~》
《時にはな…》
俺にも強い奴が目の前に現れた。それは俺達に危害を加えられる者が現れたということ。そしてそれが単なる憲兵の団長で探せば同格はいくらでもいるということ。俺は強くならなきゃならない。その為に…
《スキルを改変する》
《いいの? 使ったことないんじゃない?》
《『魔ノ賢者』を使えばなんとか!》
《そっか…。いいんじゃない。取り敢えずは確認しなきゃダメだと思うけど…》
《わかっている》
久し振りに取り出すギルドカード。それは前出した時と変わりは無い。
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◈名前
・リョウ(白狩遼)
◈種族
・堕天人
◈加護
・女神の加護『大』
◈称号
・堕ノ者
◈固有スキル
・『生魂支配』
・『等価錬成』
・『永久炉』
・『奪者ノ頂点』
・『絶炎ノ矛』
・『魔ノ賢者』
・『能力工学』
・『雷鳴ノ瞬撃』
◈一般スキル
・『上位魔法』
・『精霊魔法(微全)』
・『四大魔法』
・『言語理解』
・『パッシブ(身体強化、肉体再生)』
・『戦技(全)』
・『武器術(全)』
・『状態変化(水系・霊系・炎系)』
・『刀技・斬』
・『居合い』
・『明鏡止水』
・『暗視』
・『消音』
・『毒鎧』
・『硬化』
・『吸血』
・『無月覚醒』
・『鮮血覚醒』
・『粘水』
・『鋭鱗操作』
・『強酸』
・『破壊者』
・『空腹』
・『食欲』
・『嗅覚』
◈耐性
・痛覚耐性ー漆
・諸毒耐性ー伍
・火炎耐性ー伍
・麻痺耐性ー肆
・幻覚耐性ー肆
・魔法耐性ー陸
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《相変わらずの化け物ぶりだね~》
《お前が言うのか!》
《んー、酷くない?》
誰かさん達が飲み散らかした酒瓶を片付けるとなんとか確保できた椅子へ座り余った酒を傾け始めた。
《取り敢えず何からすればいいんだ?》
《まずは『能力工学』について調べてみたら?》
《そう、だな。『魔ノ賢者』》
自分のスキルながら恐ろしいものだ。なんとこのスキルは能力を分解、合成、鑑定できるらしい。それは他の人に対しても同義らしいのだ。
《さあ、スキルの内容が分かったということで早速始めていきましょう!》
《おい、待て待て。取り敢えず何かで試してたらだ!》
《試す? 何で?》
《…………》
周囲を見回しても流石に誰もいない。まあ、深夜なので人がいないのは当然か…。
《ねえ、リアスちゃんなんてどうかな~、ひぃ!》
《殺されたいのか?》
奴のリアスという言葉に俺は半分無意識で刃を奴の首へ当て魔力による無数の鎖を奴へ巻き付ける。
《冗談。冗談だってば~。本気にしないでよ、あははは…》
乾いた笑いだな。コイツでも恐怖はあるのかその顔は引き攣っていた。
《ホントに…。そうだ、いいことを思い付いた。『生魂支配』。蘇れ、死した者よ!》
限りなく人に近く無力な疑似生命の魔晶に魂を宿らせる。当然、宿らせるのは俺が持つ魂のうち、1番救いようのない奴だ。
「こ、ここは何処だ!」
この声には聞き覚えが大いにある。俺の戦友を長年苦しめ続けた悪どい男の声だ。
「久し振りだなギド。俺は忘れていないぞ?」
「た、隊長…」
「俺のスキルをなめていたようだな。お前では色々と試させてもらうぞ!」
「や、ちょ、た、隊長!」
「なんだ?」
「俺は今、これは?」
「よくもまあ、明らかに恐ろしいことを施されそうなのに聞けるよな。まあいい、教えてやろう…」
ギドには見えていないだろうがギドの回りでは裏背が不思議そうにその体を観察していた。何故ならギドの体は今、ゴブリンだから…。
「………」
「お前は俺のスキルにより転生させられた」
「て、転生!」
「そうだ。自分の体を観察してみるといい」
俺がニヤリと笑うと明らかにギドは畏怖の念が籠った目になり次に自分の体を恐る恐る視界にいれた。
「お、俺の、体…」
「お喋りはここまでだ。始めるとしよう、闇魔法・墜落意識」
魔法の発動と共にゴブリンは膝から崩れ落ちピクリとも動かなくなる。俺達は死骸のようになったソレを持って夜の闇夜に羽ばたいた。