第147話
「お前達、名前は!?」
「は、はい。私はメアです!」
「フォールです!」
「そうか。で、何があった?」
濃厚な魔力をわざと放散させる。それだけで周囲が感じる圧力は常人なら息も出来なくなるだろう。
『コイツがっ! ん…』
「仲が良いな?」
『誰が!』
「やっぱり。リリス、ティナ、俺の勘違いだ。放置してもいい」
「はーい!」
「分かった~!」
『…………』
放っていた魔力を散らすと俺は元の位置に戻る。と言うか改めて周囲を見ると騎士達のほぼ全員が魔力切れで座り込んでいた。
「なあティナ、そろそろ終わろうか?」
「うん。これ以上やっても無駄だと思うし!」
「だな。コイツらの担当はティナだ。自分で閉めろ!」
「分かった。じゃあ皆、疲れたでしょ。お疲れ様!」
『は、はい!』
「じゃあ行こう。リアスもそろそろ終わるだろう」
『うん!』
俺達は騎士達を放置するとその場をあとにする。この騎士達は魔力が回復するまでここで座り込み続けることになった。
ガキンッ!ガキンッ!
「あはは、まだまだ行くよ! 耐えてね!」
「ぐぅ…ぐはっ! んっ…」
「あれ? もう終わり!? 行っくよ!」
ガキンッ!ガキンッ!
「なあティナ、止めた方がいいだろうか?」
「だね。騎士が可哀想…」
「リリスは?」
「左に同意…」
「誰が行くべき?」
『リョウ(兄)』
「……。分かったよ」
正直な気持ちを言うとあの中になんて絶対に入りたくない。激しいリアスの猛攻はまるで槍の速度じゃない。
ガキンッ!
「ん?」
「もう止めろ。やりすぎだ…」
ヨルソンと殺り合った時のように魔力を剣のようにするとリアスの槍を弾く。そしてその真ん前にいた騎士は目を閉じて覚悟したような様子だった。
「むー、いいとこだったのに!」
そう言って槍を手元に戻るリアス。刃に血が付いてないことから怪我は負ってないだろうが騎士の心労は大きいだろう。
「はぁぁ。大丈夫か? リアスはああ見えて良い奴なんだ。分かってくれ…」
疲れか恐怖か、座り込んだ騎士に手を貸すと立ち上がらせる。するとパッと手を振り払うと隣に落ちた剣を即座に拾い上げる。
「逃げるな! もう1度だ!」
「えっ、いいの! じゃあ‥」
「ダメだ。リアスも熱くなりすぎるな。それにお前も己の力量をわきまえろ。お前じゃ勝てない」
「なにを!」
ドンッ!
「ぐはっ!」
「言ったろ? お前じゃ俺には勝てない。と言うことは俺と互角のリアスには勝てない…」
倒れ込む騎士を小脇に抱えると隣で見守るリアスに無言で近付く。そして空いている手をリアスに向けた。
バンッ!
「ぃった! 酷いよ!」
「酷くない。元はと言えばお前がやり過ぎたのが原因だろ?」
「むぅ~~!」
「こらっ! 抱き付くな。お前っ!」
「いいじゃないの。あー、皆今日は終わり。お疲れ様~!」
『は、はぃ…』
疲れで殺気さえ向けられない騎士達は「終わり」という言葉でその場に倒れ伏した。当のリアスは何処吹く風で嬉しそうな笑みを浮かべながら俺に抱き付いていた。
「んー、あー、取り敢えずこの騎士のメンタルケアを済ませたら帰るぞ。あっ、そうだ!」
「どうしたの?」
サンにも騎士達を任せているのを忘れていた。と言うことでサン達を放った方へ目をやると騎士が傷だらけで倒れ伏し、バイトバウンド達はその場で静かに俺達へ目を向けていた。
「戻っていいぞ。サンもおいで!」
『ガウッ!』
サン以外のバイトバウンドは魂を与えていないので俺の元まで駆け寄ると魔晶へ戻ってしまう。そしてサンだけは俺の周囲をクルクルと回ったのち、俺の足へ顔を擦り付けてくる。
「さ、そろそろコイツから事情聴取だ。まあ、圧倒的にリアスが悪いのは明白だがな!」
「むうっ!」
《雷魔法・帯電》
ビリっ
俺の手を伝い流れる電流。それは騎士の体を確実に巡りその意識を叩き起こした。
「ぃっ! 何故だ!」
そう言って睨み付ける騎士。少し仕掛けて大人しくさせようか…。
「お前が可哀想に思えたからだ。大丈夫だったか。傷は負ってないか?」
「そ、そんなもの!」
「ゴメンな。俺の責任だ…」
「ち、ちが…」
「くっ、怪我してるじゃないか。我慢するなよ」
《精霊魔法・蘇生》
わざと魔力を強めに込めた魔法を使う。すると白い光がより強く輝き魔法を解いても余韻のように残る。その様はあまりに美しい。
「…………」
よし、大人しくなった。あとは名前と今回の事の流れを聞くくらいでいいだろう。
「まあコッチが悪いのに申し訳無いんだが何があったかおしえてくれるか?」
「……。それはリアスさんに聞いた方がいいんじゃないですか?」
言葉遣いか冷静になった。それはともあれ後ろでコソコソとリアスが逃げ出そうとしていたので襟を掴んでおいた。
「そうだな。なあリアス?」
「ねえリョウ、め、目が怖いよ…」
「それはリアス次第じゃないか?」
と言うことがありながらもどうにか内容を聞き出した。なんとも下らない話だったが…。
「‥と言うことなんだ~」
「はあ、で、結局はお前が「ご褒美」という名目で騎士達を煽ったってことだな?」
「違うよ~!」
「そう思ってるのはお前だけだ。現に他の騎士達は血走った目をしてたって言ってるだろ?」
「そうだけど~」
「で、勝ち残ったのがお前だったのか?」
「はい…」
「名前、教えてくれるか?」
「レイです…」
「ごめんな、レイ。リアスは少し危険だから気を付けろよ?」
「はい…。ありがとうございます」
隣でリアスが「酷いよ!」と叫ぶが聞かない。と言うかリアスが悪いのだから仕方ないだろう。
「リアスについて困ったことがあれば言えよ。これは今回の詫びだ。じゃあな…」
《『等価錬成』》
リアスとの試合でボロボロ、いや壊されてしまった剣と鎧。俺は詫び品として同じ剣と鎧を錬成すると宿へと戻った。
「ねえリョウ兄、あの人に妙に優しくなかった?」
「なんだ、焼き餅か?」
「ち、違うよ。そんなんじゃ‥」
「妬いてるティナも可愛い!」
宿に戻ると陽も傾きリリスとリアスは2人で何やら買い物に向かった。残ってるのは俺とティナ2人だけだ。
「リョウ兄、けど真面目な意味であの人に優しくなかった?」
「まあな。少しリアスがやり過ぎていた気がしたからな…」
「まあ…。というかリアスったら羽目外しすぎだよね!」
「溜まってるなら相手してやるのにな~」
「本気で?」
「ん?」
「リョウ兄は本気で相手してくれる?」
「どうゆうことだ?」
「ティナには魔法、リアスには物理、リリスには総合。リョウ兄って自分の戦い方でティナ達と試合してくれないじゃない?」
「まあ、そうだな…」
「ティナ達は本気だよ。なのにリョウ兄は相手の土俵で戦うの?」
「………。それをすると模擬戦にならないんじゃないか?」
「だけど…」
「ならお前達が本気の俺と殺り合えるくらいまで強くなればいいだろ? 違うか?」
「………」
「この話は終わりだ。俺の本気を知りたければそれくらい強くなってみるといい!」
「分かったよ…」
俺の本気。それは自分でも分からない。全ての能力を完璧に行使し、フルパワーになった自分の能力。そして裏背による身体能力底上げもそうだ。まだ5割にも満たない力しか俺は受け入れられていない。もし完全に操れるようになれば、どうなるんだろうな…。