第146話
『はぁ、はぁ、はぁ…、何するんですか!』
「ふっ、お前達面白いな。ティナ、俺も少し観戦していていいか?」
「いいよ。皆は?」
『…………』
無邪気に問い掛けるティナ。しかしその言葉に何か返せる者はいないだろう。何故なら断れない。しかし断りたいからだ。
「まあ、勝手に見てるからいいんだけどな!」
『っ!』
「分かった。本当は手伝って欲しいんだけど…、ダメ?」
「それは騎士達が可哀想じゃないか?」
「大丈夫! ダメ、かな?」
『…………』
「んー、仕方ないな。何をすればいい?」
『ーーー!』
声にならない抗議の声が飛んでくる。しかし俺の中ではティナと騎士を天秤に掛けるとティナの方が大きい。そんなティナに頼まれたら断れないだろ?
「実戦形式の魔法の使い方を見せてあげて欲しいんだけど…、いい?」
「分かった。ならその相手は誰がする?」
「それはリリス、お願いしてもいい?」
「当然よ。ティナは?」
「騎士達に解説しなきゃ!」
「なら早速始めるか?」
「うん。じゃあ皆、聞いてた?」
『はい!』
謀らずとも模擬戦という展開になった。その結果にリリスは笑みを溢していたし、当の俺も内から溢れ出る戦意に支配されていた。
「心配はティナがするから~。よーい、始め!」
ティナが手を振り下ろした瞬間、リリスの詠唱が始まる。そして…、
「■▨■▨、火魔法・インフィニティバーン」
「くっ、加減無しかよ。水魔法・沈泉ノ水竜」
リリスの放った無限連鎖の爆発を俺の水竜が飲み込んだ。しかしそれだけでは終わらない。膨大な魔力密度の水に囲まれてもその爆発と竜はせめぎ合いを続けていた。
「んぅ…、強い…」
「流石じゃないか。けどこれは魔法だけの力じゃないんだよ。雷魔法・雷鳴弾」
お互いの魔法がせめぎ合いを続ける中、俺は魔法操作に苦戦しているリリスへ魔法を放つ。それは間一髪で気付いたリリスが体を捻るが雷の魔法であるそれはリリスの半身を余波だけで麻痺させる。
「ズルくない!?」
「ズルくない。魔法は1つずつとは決まっていない。複合魔法・封炎ノ完球」
それと共に水竜を解く。しかし炎を封じる魔法によりリリスの魔法は消され残るのは半身を麻痺させられたリリスだけだった。
「敵ならここでとどめだな?」
「だね。私はもう動けないし…」
「お前達、今ので分かったか? 魔法は技術だけじゃない。狡猾な手順や技術や手数がものをいう。魔法を同時に使えるだけで俺はいとも簡単にリリスに勝つことができた。分かったな?」
『は、はい!』
その言葉だけで満足だ。魔法は何も技術だけじゃない。始めから本気の能力で圧倒するのもいいがわざと弱いと見せ掛けカウンターを加えるのを良い一手だと思う。
「精霊魔法・状態甦生。大丈夫か? 少し魔力は多かったかもしれないが…」
「大丈夫。もう痛くもなんともないよ!」
「そうか。良かった。それにしても強くなったな~」
「ふふ、私だって頑張ってるんだから!」
「期待しているぞ!」
「うん!」
相変わらず光と蘇生の複合は強力だな。半身不随と言えるような麻痺状態を数秒掛からずに回復させてしまった。まあ、その分魔力の消費量も桁が可笑しくなっているが…。
「なあティナ、こんな感じで大丈夫か?」
「大丈夫だよ。取り敢えずは魔力操作をもっと速くしえもらわないと…」
「そうだな。なら二人一組で魔法球の撃ち合いでもすればいいんじゃないか?」
「撃ち合い?」
「そうだ。魔法の迅速な生成と限界までの魔力行使。魔力を鍛える上では打ってつけだと思うんだが?」
「いいね。分かった! 皆聞いてたよね?」
『は、はい…』
明らかに嫌そう。まあ仕方ないだろう。俺も経験済みだが限界までの魔力行使は本当に疲れるのだ。正直、2度と味わいたくない…。
「じゃあいくよ。よーい、始め!」
それと共に騎士達の地獄が始まった。目の前で繰り返される魔法の爆発。それはまるで戦場に等しい程の余波だった。
「それにしてもリョウ兄の使う雷って凄いよね~」
「雷?」
「そう言ってなかった? 雷魔法って?」
「そう言えば…。けどアレは少し難しいんだよな~」
「難しい?」
「そうだ。水属性と風で作れるんだが…。これがな~」
「ん?」
「最近、ドアノブとかに触るとバチッてなるの分かるか?」
「うん…。分かるよ」
俺がティナに話始めると隣でリリスも聞き耳をたてる。なんて説明するか困ったものだ。そもそも雷とは雲の中の粒がぶつかり合い発生した静電気が帯電し、放出されることを言う。そしてこれを作るには電気やら電荷やらクソ難しいことを説明しなくてはならなくなるから教えるのは却下。と言うことで…
「雷魔法ってのはアレを強く魔法で再現したものだ!」
「…………。教えてくれないの?」
「丸1日講義に使ってもいいのならするが?」
「………。また今度お願いするね…」
「ふっ、また今度な!」
隣では残念そうにリリスが立ち上がる。もしかしてお前はその講義を聞くつもりだったのか!
「ねえリョウ。私にはしてくれる?」
「雷、か?」
「うん。気になる!」
「ん…。なら今夜はどうだ?」
「いいよ! じゃあ今夜、約束ね!」
「分かった。寝るんじゃないぞ?」
「分かってるよ!」
その意欲にゾッとする。と言うか雷について俺が一夜掛けて講義するのか…。キツいな…。
ドカーーンッ!
「なに!」
「凄く大きかったね…」
爆発音がした方へ目を向けると大きく抉られた床と共に騎士が2人、お互いに殺気をぶつけ合いながら魔法の詠唱をしていた。
「アイツら、危ないな?」
「だね。止めなきゃ!」
「リリス、固有スキルを試すのはどうだ?」
「それって…、何のこと?」
「気付いてないのか? ギルドカードでも見てみろよ?」
不思議そうにギルドカードを取り出すリリス。確かリリスの固有スキルには面白そうなのが1つあった筈…。
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◈名前
・リリス・ハーディング
◈種族
・魔族
◈加護
・なし
◈称号
・領主息女
◈固有スキル
・『並列思考』
・『二次詠唱破棄』
・『精神支配』
◈一般スキル
・『四大魔法』
・『直剣術・斬』
・『直剣術・突』
・『直剣術・護』
・『大槍術』
・『盾術』
・『破刃』
・『衝打』
・『縮地』
◈耐性
・精神耐性ー伍
・魔法耐性ー参
・痛覚耐性ー肆
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「ホントだ…」
「その『精神支配』どこまで出来るかは分からないがあの戦闘を止めることは出来るんじゃないか?」
「かもしれない。やってみるよ! 『精神支配』」
すると騎士達の目から殺気が消えた。そしてそれと共に魔法の激戦も止まった。
「出来たじゃないか!」
「けど今の私じゃこれが限界。少し感情をズラすくらいしか…」
「まあ、慣れていけばいいだろう。な?」
「う、うん。そうね…」
「ま、何はともあれさっきの2人に少し事情を聞かなきゃな!」
「だね。一触即発の所だったもんね!」
俺達が止めなければ恐らくはあのまま魔法を放ち大変なことになっていただろう。それにさっきのは物凄い感情だったが殺気と呼ぶには軽い気もする。なんだったんだろうな結局…。まあ、それも聞いてみればいいだけのことだ。俺はリリスを連れその2人の元へと歩いていった。