第145話
「ふははっ! やるじゃないか!」
「ぐぅ…。強いです…」
俺から漏れる魔力や殺気が周囲の騎士を近付けない程の濃度に達している。しかし目の前で俺と打ち合っているヨルソン。少し俺がなめて掛かっていたのかもしれない。
「俺の魔力って、無限なんだよな~」
手の中に集まった魔力が太刀のような形をとる。鋭く研ぎ澄まされた刃は剣と打ち合えば逆に勝りそうな勢いだった。
「す、凄い…。けれど負けませんよ!」
ガキンッ!
武器と魔力がぶつかり合う。大きく響き渡る金属音が訓練所の中を駆け巡り俺達を観戦する周囲の騎士がビクッと震えた。
「お前だけやたら強いよな~」
「リリスさんに追い付きたいので!」
「ふっ、リリスを嫁にでもやろうか?」
「いえ、リリスさんは良き目標というだけです!」
「それは助かる。俺もお前がそんなことを言えば殺さなきゃならなかったよ」
「…………」
大真面目に放った言葉。その言葉に込められた真面目さを感じ取ったヨルソンは冷や汗を流すと1度距離をとった。
「そろそろ終わろうか。リリスの所がそろそろ終わるだろう…」
太刀を形作る魔力の濃度を上げる。そして全身を包む魔力、体に染み渡る魔力の濃度を上げると…、
グサッ!
「ぐ、ぐはっ…」
「俺の身体能力を見誤っていたようだな…。精霊魔法・蘇生」
倒れ込むヨルソンを支えると、蘇生を掛けてから床へ寝かせる。そして遠くで観戦する騎士達に鋭い視線を向けるとその場を立ち去った。今の試合でもうあの騎士達の闘志は散ったからな…。
「リョウ!」
「そっちは終わったか?」
「う、うん。ねえ聞いてリョウ!」
「どうした?」
慌てるリリスを宥めながらその原因であろうリリスが相手をしていた班へと向かう。そこでは数多くの騎士が疲れからか座り込んでいてその内2人は何故か大きな傷を負って倒れ込んでいた。
「この2人なんだけど…」
「仕方ないな~」
《複合精霊魔法・浄傷癒光》
負傷中の騎士達の傷に真っ白な光が集まると瞬く間に傷は元通りに戻る。少し複雑な魔法だが蘇生よりも効力も能力も上だ。何故なら状態異常も含め雑菌からウイルスまで全て元通りにしてくれる。
『ありがとうございます!』
「お前達は練度が高いようだな。リリスの影響か?」
「はい! 自分達をここまでにしてくれたのは紛れもなくリリスさんっス!」
「ふふ…」
後ろで嬉しそうにリリスが笑った。素直に言った言葉なのだろう。他の騎士もその通りだ、と頷いていた。
「で、そっちのが今回の用か?」
「う、うん。けどどうして分かったの?」
「魔力が1人だけ異質に多いから」
「凄いね…」
魔力はその者の保有量によって微量に放出される。これは人間の体から熱が発せられるのと同じで魔力も漏れ出すからだ。そしてその者だけは他と比べて2倍近い量を誇っていた。
「初めまして! 僕はユウ・シミズです。よろしくお願いします!」
「ほーう。貴族か?」
「違います。祖父がこの性を名乗っていたようで…」
「そうか。と言うことはお前は違うんだな」
「違う、とは?」
「分かった。で、リリスが俺に言いたいことはコイツがアレだってことか?」
「うん…。けど違うかったみたい…」
「……。そう、だな…」
「ん?」
シュラの件で分かったが転生者の子供、いわゆる子孫に当たる人物は死んでも行きかえるんだろう。ただし記憶を無くして…。と言うことはコイツの親も何処かでいまだ生きているのだろう。と言うことをコイツの前で言うのは少し酷だ。俺は少し離れた所までリリスを連れ移動すると耳元へ口をよせる。
「アイツの祖父は転生者だ。リリスの見当もあながち間違いじゃない。ただ、何も聞いてないらしいから何も言うなよ?」
「分かってるよ。秘密にしてるなら話す必要はない、でしょ?」
「そうだ。分かったな?」
「うん!」
そんな感じで話しているといつの間にかリアス達の方も終盤になってきた。と言ってもリアスの方はまだまだ白熱していたが…。
「さあ、お前達は一旦体を休めろ。リリス、行くぞ」
「うん! 皆、お疲れさま!」
『押忍!』
リリスがそう言った瞬間、音速を越えるスピードで立ち上がった騎士達は一斉に礼をすると自分の得物を回収して、建物の中へ戻っていった。
「あの転生者の孫、ここの騎士の中じゃ断トツで魔力量が多いんじゃないか?」
「そうだね。それに質もいい!」
「質か…。それも転生者の血が関係しているんだろうか?」
「分かんない。けどティナとかリアスも魔力の質は悪くないよ!」
「アイツらの出生は分からないからな。2人が親を探すのなら探してやっても良いかもしれない…」
俺の親達は最低だった。昔から悪い夫婦仲。その内母親は何処かへ逃げて、酒浸りになっていた父親は飲酒運転の最中に事故で死んだ。俺に唯一目を向けてくれたのは祖母だけでその祖母でさえ忙しく俺と一緒にいた時間なんて皆無に等しかった。
ドカーーッ!
「何!」
「ティナの所だろう。どうせ不発なんじゃないか?」
「そうかな…。今のは強かったけど?」
「そうか? なら少し急ごう」
魔法戦なんだし普通だと思うんだが…。まあいい。もしものことがあれば大変なので魔法と思われる大きな津波や炎柱が上がった方に俺達は向かった。
「ティナ…、やるね…」
「俺達なんて可愛いものだったな…」
そこにはデコボコの床に水溜まりができ、その上に炎が燃え盛る変な光景が広がっていた。そしてその中に立つのはティナ1人で他の騎士達は体に大きな傷を負いながら倒れ込んでいた。
「リョウ兄~!」
「ホント何をしてたんだか…」
《複合精霊魔法・甦癒聖光》
面倒なので訓練所ごと全員の傷を回復させる。光の届いたティナ担当の騎士は勿論、俺達他3人の担当の所も回復した。当然、サンの所も…。
「で、何があった?」
「えーと、属性球の同時生成をさせてたら連鎖爆発しちゃって…」
「あー、そういうことか。じゃあティナに俺から課題をやろう!」
「課題?」
「ここの床を完璧に修繕するんだ!」
「しゅ、修繕!」
「そうだ。ティナの魔力量ならできるだろ?」
「う、うん…」
本当はかなりキツいと思う。出来ないことはないだろうがギリギリまで使いきることになるだろうな~。
「そうだ。1度目は俺が元通りにしてやるから2回目以降は自分でやれよ!」
《風魔法・浮遊、土魔法・壊物元帰》
命に関わるような傷が瞬く間に治ったこともありなかなか動かない騎士達を床の修繕に巻き込まれないように強制的に浮かせると砕け散った床を元通りに修繕させる。
「あらがとう…」
「あと、ソイツらにやらせるなら属性球は5個にしておけ。それで安定したなら8個。最後に10個できれば上出来だな」
「わ、分かった…」
周囲の騎士からは恨みがましい視線を向けられる。するとその中から1人、気の強そうな人が俺の方へ一直線に向かってきた。
「ねえ! アンタっ! 偉そうに言ってるけど何が出来るっての! 無茶ぶりもいいとこよ!」
まさか口答えしてくるとは思わなかった。それにしても…
「お前、魔力量が多いな。お前ならいずれ20時個も夢じゃないかもな!」
「ふっ、ほら皆見て! この人、自分が出来ないからって話を逸らしたよ! そうでしょ? えっ! 悔しかったら見せてみなさいよ!」
気の強そうという見解は間違っていなかったようだ。まあいい。そこまで言われて引き下がるわけにはいかんよな?
「言うじゃないか。見せてやろう、火魔法・炎球群」
指先を天に掲げると赤い小さな球体が無数に作り出されるとそれが一斉に10センチを越える炎球へと姿を変えた。
『………』
「これでも何か? あ、そうだ。威力も見たいだろう。お前達、受け止めろよ!」
俺はそう言うと手を振り下ろした。