第142話
「なんだったの?」
「知り合いの親戚なんだと。前にソイツを助けたから礼を言われたんだ」
「そう、なんだ…」
きっと信じていない。けれどそれでも詮索してこないのは俺からすれば助かる限りだ。
「じゃあ今からどうするの? まだまだ時間はあるけど?」
「コイツらに個人戦を叩き込む!」
「オッケー!」
「分かった!」
「うん!」
どこか楽しそうな俺達に周囲の騎士の顔からは血の気が引いていく。まあいい。少しの間、遊び相手になってもらうぞ!
「よし、これから模擬戦を始める。取り敢えず各部隊、5班に分かれてくれるか?」
『はい!』
そう言った騎士の行動は早い。俺達の相手をするのは憂鬱なのだろうがこれもいざ訓練となると違うんだろう。
「よし、えーと、3人共、それぞれが1人ずつ適当についてくれ!」
『うん!』
「よし、これで大丈夫か?」
見回すとそれぞれが得物を片手に対峙している。準備完了だな。
「リョウさん?」
「ん、どうした?」
「我々の班はどうすれば…?」
「あー、そうだったな」
アイテムポーチからバイトハウンドの魔晶を5つほど取り出す。そしてそれらには俺自ら通常の5倍程の魔力を使い発動させた。
「ガウッ!ガウッ!」
「ガウーッ!」
「コイツらは俺の魔法だ。サンもつけるから取り敢えず頑張れ!」
「は、はぁ…?」
「あと、コイツらは殺しても構わん!」
「い、いいのですか!?」
「大丈夫だ。魔法なんだぞ?」
「あ、そうでしたね…」
そう言うと騎士達は安心したのか得物を構え臨戦態勢をとった。とは言え、ここの騎士達にコイツらを倒せる筈はないけどな。
「行くぞ。よーーい、始め!」
『うおぉぉぉぉーーーー!』
そんな鬨の声と共に試合の火蓋は切っておとされた。その様は本物の戦に匹敵する迫力を持っていた。
「ほら来いよ」
ガキンッ!
「くそっ、どうして当たらねぇんだよ!」
「遅いからじゃないか?」
空振りに怒りを露にする騎士へ足蹴りを喰らわせる。しかし次々に斬りかかってくる騎士達は尽きない。
『うおぉぉぉぉーーー!』
「声だけだよな?」
《聖炎魔法・神ノ焦光》
周囲の騎士達を蹴り飛ばすと俺は剣を突き上げる。それと共に俺の剣は美しい光に輝きその光は四方八方へ伸びた。
「な、なんだこれ!」
「ま、魔法だ! リョウさんの、ま、魔法だあ!」
輝く光は鎧や刃、鏡を反射し訓練所の中を飛び交う。その光に触れる者、神の怒りの如し火傷を負った。
「ぐぎゃぁー」
「ぅええー」
秒を刻むごとに屈折する光はより複雑になり数もより多くなる。そんな光線を逃げ切れるわけもなく騎士達は体に少なからず酷い火傷を負った。
「対個戦に対応する術を身に付けてろよ!?」
「こ、こんなのどうすれば?」
「前衛と後衛をしっかりと定めた上、後衛は前衛の防御を完全サポートするればいいんじゃないか?」
「し、しかし…」
「騎士の練度はすなわち騎士団の練度になる。頑張れよ?」
「は、はい…」
「じゃあ続きを行うぞ。次はもっとらしく戦ってやるから冷静に対応しろよ?」
『………』
俺がそう言って騎士達を見回すと全員が面白いほど俺と目を合わせない。全く…。やる気がないんだろうか。
「はぁ…。訓練は問答無用で始める。用意しろ!」
《複合精霊魔法・甦癒聖光》
剣の刀身が光り輝くと光の届いた、すなわちこの訓練所内の全ての騎士の傷が回復した。元々光魔法とは癒しや光速、浄化を操る魔法だ。そんな魔法と蘇生魔法はジャストマッチということだ。
「そろそろ準備できたか? 取り敢えずは陣形でも組めよ!?」
『は、はい!』
俺の言葉に慌ただしく移動し始める騎士達。そして数秒も経たぬ内に組まれた陣形は俺を中心にした円のような陣形で前衛には大きな盾を構えた重装甲の騎士達。後衛には杖を持った魔法職が構えるという、まあ打倒な陣形だった。
「まあいい。来いよ」
『うぉぉぉぉー!』
《闇魔法・高重力×3倍》
盾組の隙間から槍を突き出す騎士達だが3倍になった重力、すなわち3~4キロである槍が約12キロになったのだ。当然そんなものを通常と同じ感覚で扱える筈もなく槍は床に刃を落とすことになる。
「甘いな。少し加減してやる。風魔法・圧吹」
俺の手から吹き荒れる風が目の前の騎士達を盾職を含め訓練所の端まで吹き飛ばした。普通は魔法職が魔法を相殺、もしくは盾職が耐えるべきなのだがこれも練度が窺えるな。
「はあっ!」
「声を出しての不意討ちなんてバカじゃないのか?」
突き出された槍の柄を掴むとそのままボキッと折って投げて返す。すると折れた刃は鎧を貫いて深々と肩に刺さった。
「お前達、俺1人にこんなに苦戦してたら他の冒険者なんてどうなるんだ?」
『………』
俺を恨みがましく睨む騎士達の目には悔しさは宿れど憎しみは宿っていなかった。ここで憎しみを向ける者はこれ以上強くなれない。
「よし、分かった。俺は魔法を使わないから掛かってきな!」
「よ、良いのですか?」
「大丈夫だ。見とけよ!」
ドンッ!
力をある程度込めて床を殴り付けると俺を中心に3メートルはバキバキにヒビが入ってしまった。その余波は近くにいた騎士がバランスを崩すほどだった。
「………」
「こんなものだ。これでも、心配か?」
『滅相もございません!』
「そうか。なら始めるぞ!」
その声と共に戦闘が始まった。素手で相手するに少々数が多いが負けることはないだろう。そしてやはり…、
「■▨■▨■▨■▨■▨■▨■▨■▨、
火魔法・鋭炎弾」
シュッと風を切り裂きながら進む炎弾。流石騎士と言ったところか魔法の腕は悪くない。しかしそれも俺の魔力結界によって阻まれることになった。
「魔法を使わないのなら我々でも!」
「難しいだろうな…」
振り下ろされた剣を右にスッと躱すと左足で腹に膝蹴りを喰らわせる。ぐはっ、と目を見開いた騎士の襟を掴むと俺に剣を振りかざしていたもう片方の騎士に投げ付けた。
「俺は何も魔法だけじゃない。元々は短剣1本で戦っていたからな!」
軽くランニング気分で目の前の騎士の目の前まで走っていくとその勢いそのままに拳を喰らわせる。当然防ごうと剣の腹を向け防御しようとしたが俺の拳に剣は砕けてしまった。
「凄い…」
誰が呟いたのかその声は不思議と俺まで届く。俺の魔力の刃と剣や槍がぶつかる度に大きな金属音のようなものをたてるなか、何故だろうな。
バキンッ! ガキンッ!
「頑張れ。まだまだ時間はあるぞ~」
俺の放った魔弾が騎士の鎧を砕いた。相手が男ならいいのだが中には女性騎士もして俺の信念としては少し複雑な気分だ。
「はあっ! 今日こそは!」
「確かヨルソンだったか?」
「はい! 我が君、尋常に手合わせ願います!」
「いいだろう。来い!」
咄嗟に支配下に置けた魔力を一気に放出させる。それと共に周囲にいた騎士は遠くまで吹き飛ばされて残ったのはヨルソンただ1人だった。
「はあっ!」
「やるじゃない!」
今日のヨルソンの武器は双剣だった。とは言え片方は補助のようで長さが右手に構える剣の半分程しかない。
ガキンッ!
「まさか武器無しで止められるなんて…」
「魔力は時に刃になる!」
両手に高密度高質量の魔力を纏いながらヨルソンの剣と打ち合う。その度に大きな金属音が響いた。
「くっ、強いです…」
「まだまだ行くぞ!」
俺は軽く舌舐めずりをすると魔力が渦巻く右手を振り上げた。