第14話
久しぶりに落ち着いた朝。本当に落ち着いている。朝の日差しが部屋を照らす。
「おはよう」
「早いな、」
「ティナより早いリョウ兄には言われたくないな、」
「そうか。普通に早い気がするけどな、」
「そうかなぁ。エルフは自然と一番近いから…、」
「そう言うことか…。」
「ふゃぁ、」
「リアス、起きたみたいだね。」
「あぁ。寝起きは良くなさそうだが…、」
「おはよう、リョウ。」
眠気眼のまま起き上がると、クイーっと伸びをして再び布団に入る。
「こらっ!もう朝だぞ、」
「えー、!もう少しだけ!」
「ダメだ。今すぐ起きろ、」
「んーー!」
思いっきり布団を引っ剥がすと、起き上がらせる。
「あー、リョウヒドい!」
「なにが酷いだ!早く起きろ、」
「仕方ないなー!」
「まったく…。俺は出とくし、二人共早く降りてこいよ。」
「分かった~。」
「オッケー。」
はぁ。ヤバい。
今度からは絶対に別の部屋にしよう。
「おれ、お兄さん。お姉さん達は?」
「もう少しで来るよ。」
この子はこの宿の子供で、チョコチョコと歩き回ってるのを見かける。
「分かったー。お兄さんは何する?」
ちゃんとこんな子供でも仕事をこなす。
俺に注文を聞くのだ。
「そうだなあ。取り敢えずは珈琲、もしくは紅茶はあるかな?」
「両方あるよ!」
「じゃあ珈琲と何かオススメのスイーツを頼むよ。」
「分かった。待っててね!」
本当にあんな子供の頑張る姿は微笑ましく感じる。こんな感性はオッサンになってからだと良く思われがちだが、意外とほんわかするんだよな。
「鍛冶屋の方へは行かない方がいいな。」
今でも申し訳無く思っているが、シュラには黙って出てきてしまった。だから何とも会えば気まずくなるのは必然だろう。
「親父さんだけにでも会うか。」
決定。今夜、親父さんの所へでも行って話してみよう。そしてそうこうしていると、珈琲とスイーツが運ばれてきた。
「持ってきたよ。合わせて480Gだよ!」
「分かった。これでいいか?」
「うん。ゆっくりしていってね!」
「あぁ。」
珈琲を一口。若干苦いが薄いな。アメリカンか…。
次にオススメを一口。これはチーズケーキ。一度だけお小遣いをはたいて食べたんだが、本当に美味しいと思った。
「これも旨いな、」
机の上にある無料のクッキーを数枚。なんだかポカポカするな。
「ふぅ。」
異世界のイメージである荒々しい宿じゃない。
静かな風が窓を揺らし、お菓子の甘い香りが部屋の中を舞う。ここは食事処というよりはカフェという感覚だな。
「オシャレだなぁ。」
白い壁に茶色の椅子と机。窓の外に見える陽の光が美しく輝いている。
「美味しい、」
久しぶりのチーズケーキ。意外と好きかもしれない。
「あー、ズルい!」
「リョウ兄!」
二人が来たようだ。それも飢えた猛獣状態で…、
「分かった分かった。二人にもやるから、座れよ」
「分かったよ!」
「あーん、」
「仕方ないな、」
一口。ティナの口へチーズケーキを運ぶ。
「美味しい♪」
「あー、私も!」
「分かったから、ほらっ、」
リアスへも。
「美味しい。リョウがくれたから、」
「本当になんなんだよ、朝から恥ずかしい真似を…、」
「リョウったら、何を恥ずかしがってるの?」
「……、」
「リョウ兄?」
こいつら遊んでやがる。正直滅茶苦茶ウザい。そしてそんな所へ…、
「お兄さん、お姉さん達来たんだね」
最悪だ。タイミングが悪過ぎる。これじゃあ怒ることも出来ない。
「そうだよ。朝から働いて偉いね、」
「うん。ありがとうお姉さん。お姉さんは何がいい?」
「じゃあ、リョウと同じものを!」
「じゃあティナも、」
「分かった。お姉さん達、待っててね」
手を振って去っていくと、二人はニヤリと笑う。しかし笑ったのは俺もだ。
「なあ、リアス。こっちにこいよ?」
「えー、どうしたの?」
ノコノコと近付いてくる。蛇は獲物を待つものだ。
「おりゃっ!」
「きゃっ!な、何?」
「仕返しだ。朝から本当に元気だな。取り敢えず注文が来るまではこのままだ。」
「えー!!!」
今の状況を具体的に説明しよう。
今リアスは俺の片腕に抱き寄せられ、俺にベッタリとくっついている状況だ。その為、確かに俺も恥ずかしいが、リアスだって相当だ。
「ちょ、ちょっとリョウ、外だよ?」
「いいじゃないか、リアス。」
「え、えーと…。ティ、ティナ~!!」
「ティナは知~らない。」
「リアス、大好きだ!」
「え、何、急に。えー!!」
ヤバい。さっきのクッキーにはアルコールが入っていたのか、ほろ酔い気分だ。気持ちもいい。
「リアス、リアスはどうだ?」
「え、私。えーと、えーと、?」
周囲の目なんて気にしない。今自分の手の中にいる可愛い奴と話してられるなら。
ノックアウト。
その言葉が正しい。ずっとさっきみたいな状況が続き、アルコールが抜けた頃にはリアスのライフはゼロだった。
「ティナ、」
「ふんっ!」
ティナも俺が構わなかったせいで膨れてしまった。どうやら不味い状況だ。けど取り敢えず、
「旨い、」
例のクッキーを食べた。そしてまたあのポカポカ感が戻ってきた。今だ!
「なあティナ。なんでそんなに怒るんだよ?」
「だってだって、リアスにばっかり。ティナなんて、」
「バカだな。リアスだけじゃない、ティナだって俺の大事な大事な人だ。」
「だって、ティナには全然、、」
「勘違いだよ。俺がティナを放っておく分けないだろ。俺の愛しのティナ。」
「え、愛しのって…、」
「ティナは何が欲しい。俺はティナ自身が欲しい!」
「リョ、リョウ兄ったら!」
ノックアウト。
本日二人目。アルコールの力は凄いな。ペラペラと何でも言える気がする。
「あれれ、お姉さん達どうしたの?これ持ってきのに…、」
「二人共、少し疲れてるだけだよ。心配しなくていいよ」
「分かった。ここに置いとくから、お姉さん達も早く良くなってね!」
「らしいぞ、二人共!」
ビクッ!
俺の言葉に連動するように体を震わせると、意識がはっきりしてきたようだ。
「リョウが悪いんだから!」
「そうだよ、リョウ兄のせいだよ!」
「なんのことかな。二人共、大丈夫か?」
「分かってるくせに!」
「ひどい~!!」
「仕返しだよ。けど、嘘じゃないからな。」
『えっ!』
「ほら、折角運んできてくれたんだ。食べないと勿体無いぞ。」
「その逃げ方はズルいよ!」
「じゃあ俺は部屋に戻って準備してくる。」
「リョウ兄、恐るべし。」
「よし、これとこれとこれと。あとはこれだな。」
鞄の中に入っていた沢山の予備の短剣をアイテムボックスへしまう。そしてそれと同時に大量の魔晶に印刻を施しながら直していった。
「二人は荷物とかあるのかな?」
三人中、男が何も持たず女二人が荷物を持つなんて絵面的に最悪だ。
「手紙、?」
それはいつの間にか俺の鞄のスミにわざと入れられていたそして、その封はしっかりとされていた。
ー親愛なるリョウ様へーーー
貴方はきっと私の前からいなくなることでしょう。初めから分かっていた。私の為じゃない誰かの為に動いていたのを知っているから。
けど、一つだけお願いを聞いて欲しい。
どうか、私の前からいなくなっても、友達として現れて欲しい。私もそれ以上は関わらないから。
お願い。
ーーーーーーーーーーーーー
全て見透かされていたようだ。
俺はその手紙を読む間、胸に空いた穴を感じた。