第135話
『……』
「全滅か…」
目の前で剣を振りかざした騎士の鳩尾を打ち、ガクンと倒れた体を床に寝かせる。訓練所の床に立つ者は俺を除きリリス達だけだった。
「リョウが強すぎて私達の出番が無くなっちゃったよ!」
「ゴメンごめん。けどもう少し強い相手の方がいいんじゃないか?」
「そうだけど~」
「またコイツらを鍛え上げてから試合すればいだろ?」
「ん~~~。分かったよ!」
先頭で不満そうな顔をしたリアスだったが説得するとすぐに納得して笑みを浮かべた。簡単に説き伏せられるのは良いのだが、その素直さも合わさって誰かに騙させないかと心配にもなる。
「リョウ殿、派手に付き合ってくださったようですね」
「兵長殿。一先ずは俺の実力を見せ付けなければなりませんから。どうです。勝負しますか?」
「遠慮しておきましょう…」
「そうですか。では1つ頼み事をしたいのですが?」
「なんでしょうか?」
「俺に、ここの監督を任せてもらってもよろしいですか?」
「えっ……」
「どうしたのです?」
「是非こちらからお願いしようと思っておりましたのでつい…」
「そうですか。では兵長殿から説明して下さいますか?」
「はい。御心配なく!」
そう言うと兵長は手早く伸びている騎士達を叩き起こす。
「兵長酷いですよ…」
ポカ~ン…
そんな言葉に冷徹な笑みを浮かべた兵長は持っている矛の柄で頭を叩くと無理矢理立ち上がらせる。そんな調子で全員を起こすと俺達の前へ整列させた。
「あーあー、お前達! この方は臨時で指南役として下さった方だ。お前達に秘密にしていたのは実力を見たかったとのことだ!」
『っ!』
「リョウ殿、リョウ殿からもどうぞ」
流石1つの兵達を束ねる兵長だな。戦闘後の精神が荒ぶった騎士達を瞬く間に静めると俺に場所を譲った。
「あー、御紹介に預かった冒険者のリョウだ。素人と侮って掛かった者にはそれ相応の対応をしたのは知っての通りだろう。それを踏まえよろしく頼む!」
『はい!』
俺はそう言うと再び兵長に場所を譲りリリス達がいる石柱近くのベンチへ腰掛ける。
「勝手に決めちゃって~」
「面白そうだからいいじゃないか。報酬もキッチリ絞るしよ!」
「分かったよ。私も一緒に来ていいよね!?」
「勿論だ」
「わ、私は!」
「リリスの依頼だろ?」
リリスとリアスが前へ出て俺に聞いてくる。当然2人が来たいっていうのに拒むつもりは毛頭無い。しかしその後ろで入り方を探るティナには少し配慮してやって欲しいものだ。
「………っ!」
チラ、チラ、と俺の方へ視線を向けるティナ。わざと目を会わせるとビクッと肩を震わせる。
「ティナも、来るだろ?」
「え、あ、うん!」
笑みを浮かべ目を輝かせたティナは2人の間をスッとすり抜けるとちゃかり俺の隣を占領した。
「ティナも少し手伝ってくれるか?」
「勿論!」
「ありがとな。ティナには騎士のうち、魔法特化の者達の指導に当たってもらいたい」
「分かった!」
「私達は!?」
「リリスは両用できる騎士の指導、リアスは接近戦特化の人達を頼めるか?」
「いいよ~」
「分かった!」
「俺は対多戦を教える。因みに休憩時間ならお前達の相手もしてやるよ!」
「いいの!?」
「あぁ。折角の広い訓練所なんだし使わなきゃ勿体無いだろ!?」
「だね!」
俺達の会話を聞いていたのか兵長の話が終わり休憩していた騎士達はそこを去っていった。それと入れ替わりに近付いてくる騎士達も少なからず見受けられた。
「リョウさん、ですよね?」
「そうだが、どうした?」
集まってきたのは計5人。内訳は十代の少年少女が2人ずつとダンディーな男性が1人。全員が1メートル弱の直剣を背負っていた。
「我々に修行をつけてもらえないでしょうか?」
「んー、まあいいか。とは言え俺は全員に向かって修行をつけなきゃならない。個人で修行をつけてやるのはそれが終わってからになるのだがいいのか?」
「はい。我々はいつでも!」
「そうか。ならば受けよう」
「ありがとうございます」
そう言って離れていく騎士達。今度『鑑定』と『隠蔽』のスキルが欲しいな~。
「ねえリョウ兄。あの人達は強い?」
「正直弱い。低ランク冒険者並みの力はあるだろうが騎士としては弱いだろうな~」
「そっか。じゃあやりがいないね!」
「リアスか…」
興味深そうに騎士達についていってたリアスだったがいつの間にか俺とティナの間に入ってくるとピョコッと姿を現した。
「やっぱり私達の相手になるのはリョウくらいのものだよ!」
「お前達2人はどうなんだ?」
「へっ…」
「えっ…」
「リアスVSリリスとか面白いんじゃないか?」
「確かに!」
「やってみる!?」
「やろう!」
と言うことで盛り上がる2人。それを見ていた兵長はコッソリと俺の隣に来ると左右を確認した後、耳打ちしてきた。
「あの方の実力はどれくらいなのでしょうか?」
「リリスと同じくらいだ!」
「………。止めさせてはくれませんか?」
「ダメだ!」
「はい……」
そう言って引き下がる兵長。リリス1人でも本気ならばここの騎士10人は軽く相手に出来る。そんなレベルの2人がぶつかればただじゃ済まないと判断したのだろう。
「2人共、全力で行けよ!」
『うん!』
「っ!」
2人の気合いの入った声が響く。槍を手に取ったリアスと直剣を構えるリリス。2人が訓練所の真ん中で対峙すると周囲の騎士達は自然に端の方へと退いた。
「それじゃあ準備はいいか?」
『うん!』
「分かった。なら行くぞ。よーい……、始め!」
2人の試合はさっきの乱闘に比べ緊迫した戦いになった。試合が始まったにも関わらず2人は全く動かない。動けばその時点で負けが確定するから。
「動かないね…」
「だな…」
「始まらないよ…」
「少し手を加えるか!」
胸元から黒金に輝く拳銃を取り出す。火薬製のデザートイーグルでは避けるしか逃れる手段はない。
バンッ、バンッ!
「リョウ兄!」
「動いたろ?」
俺が2人に向けて発砲したことから2人は慌てて避ける。しかしそれが試合の合図となった。
ガキンッ!ガキンッ!ガキンッ!
「早いね…」
「だな。けど2人共魔力の操作がおろそかだな~」
「確かに!」
2人のスピードもパワーも通常状態として考えれば十分だろう。しかし戦闘となると別だ。魔力を体に巡らせ身体能力を底上げするのは戦闘面では大事な1面になる。それをおろそかにするのは戦士としては未熟なのだと思う。
「2人共~、これで勝ったら今度2人っきりで遊びに行こうな!」
ガキンッ!
明らかに剣撃の圧力が上がった。隣では妙に不満そうな顔をしたティナが俺にもたれ掛かっていた。
「………」
「どうした?」
「ティナは連れてってくれないの?」
「ふっ、ティナには今約束してやるよ。また2っきりで遊びに行こう!」
「っ! ありがと!」
パッと笑顔を咲かせたティナ。ポンポンと頭を撫でるとエヘヘと笑みを浮かべて俺に抱き付いた。
「なあティナ、転生者について何か知っていることってないか?」
「急にどうしたの?」
「少し気になることがあってな…」
もたれ掛かるティナを見てて思った。転生者の娘であるシュラが別人となって転生していた。と言うことは転生者は少なからず真理規模で何かが違うのだろう。これからそれによって皆に迷惑なんて掛けたくなかった。
「大丈夫だよ!」
「ん?」
「不安そうな顔をしてたから。ティナ達のことは大丈夫だよ!」
「ふふっ、ありがとな!」
俺ってそこまで分かりやすいのかな。もたれ掛かるティナを抱き寄せながらふとそんなことを思った。