第128話
「おっ、やっと帰ってきた!」
なんとかティナに許してもらって他愛のない雑談を交わしていると見知った魔力が近寄ってきた。
「ただいま、リョウ。ティナも帰ってたんだね!」
「先飲んじゃってるよ~」
「早いね…。リアス、私達も!」
「だね~。すみません、樽3‥」
「待て!」
「何よ!?」
止めてよかった。また泥酔して運ばなきゃならない羽目になりそうだった…。
「また酔い潰れるぞ。俺が付き合ってやる!」
「んー、仕方ないな~。今日は静かに飲もっか~」
「ティナ達はいつも静かなんだけど…」
「そんな言わずにさ~、ティナも飲も~」
酒が好きなクセに酒に弱い。運ばれてきたカクテルを飲んだ瞬間、フラフラと倒れ込むようにもたれ掛かってくる。
「リアス早すぎ!」
「リリス~!」
「酔いやがった。覚めさせてやる!」
酔って甘えてくる姿は限り無く可愛いのだがウザくないかと言われればそうじゃない。アイテムボックスから大量常備の解酔剤を飲ます。
「ふにゃ…。おはよ~」
「おはよ~、じゃない。こんな濃い酒を一気に飲むなんて…」
「んー、分かっよ~」
「さあ、2人を迎えに行って帰るぞ!」
「ん、優司さん達のこと?」
「そうだ。ちょっと用事があるからな!」
少し離れた彼らの方へ視線を向けると2人が酒を飲みながら笑いあっている。正直、あの中に割って入るのは心苦しいのだが仕方ない…。
「あれ、リョウさん?」
「そろそろ帰るぞ。お前達にも用があるんだ…」
「は、はい…」
俺は5人を引き連れるとギルドを出る。長いコートの端が風にはためいた。
「さぁ、久し振りの集合だな!」
「ですね。僕も嬉しいです!」
「だな。とはいえ、1つだけ気になることがあるんだが?」
「なんですか?」
「その人は?」
大勢掛けのテーブル手前に座るのは俺、リアス、ティナ、リリス。逆側に座るのは優司、藍夏、エリ、そして男が1人。金髪に眼帯をした男だった。
「あ、紹介します。僕の冒険者仲間のキル・スチナさんです。僕よりも圧倒的に強いですけど…」
「そうか…。で、何故その彼が?」
「いえ、エリちゃんの護衛です。と言っても依頼というよりお願いしてるだけなんですけど…」
「そうか。まあ、それはそうと、よろしくお願いしますね。キルさん!」
「こちらこそ、リョウさん!」
「んっ!」
俺はまだコイツの前で名前を言っていない筈。警戒の念を込めて奴を見ると微笑を浮かべた彼の眼帯は外されていた。
「リョウさん、どうしたんですか?」
「いや、何でもない。それよりお前達全員に俺の依頼を手伝って欲しいんだ!」
「リョウさんの? どんな依頼ですか?」
「戦闘指導だ。まあ、相手が子供だからな…。少しくらい遊ばせてやりたいと思ってな!」
「いいじゃないですか。協力しますよ!」
「ふっ。ありがとな。リアス達は‥」
「当然行くよ!」
「キルさんは?」
「私はエリちゃんの護衛ですよ?」
「分かりました。なら取り敢えずはここ全員で行くか!」
『はい!(うん!)』
俺は1度そこで閉めると全員を見渡す。数にすると俺を入れて計8人。その内全員が武器を持っていた。
「ガウッ、ガウッ!」
「ん、お前も来るか?」
軽い酒と共に酒肴をつまんでいるとその香りに釣られたのか鼻を鳴らしながらバイトハウンドが俺の膝に頭を擦り付けてくる。
「ガウッ!」
「そうかそうか。明日はお前もついてくるといい!」
俺はそう言うとバイトハウンドの頭をポンポンと撫でて再び酒を傾けた。
「リョウさん、具体的なプランはあるんですか?」
「いや特に。まあ、冒険者カードの作成と動物園にでも行こうかなと…」
「動物園?」
「いや、その子が動物好きらしいからな。前行ったときも喜んでいたし!」
「そうですか。じゃあそうするとして、朝からですよね?」
「まあな。昼までにギルドへ集まってくれればいつでもいいぞ!」
「はい!」
「ん…」
「うん!」
「さ、今日は解散だ!」
全員が了之意を示したのを見ると俺はコートを翻しバイトハウンドを連れて部屋へ戻った。
《夜だね…》
扉の鍵を閉め真っ暗な部屋を蝋燭1つで照らす。すると俺の姿と共に闇の中から裏背の姿が見えた。
《そうだな。全員眠っただろう…》
月が頂点に達し夜の闇は深まっていく。それと共に俺達を冷たい冷気が襲う。
《それにしても寒いね~》
《そうだな。それは良いとして、あの件は?》
《ふふ~ん。色々と調べたよ!》
《ほう、で、結果は?》
《今ここでいいの?》
《ん!》
《なら始めるよ。取り敢えず教団内部の個人名はほぼ全て抹消されていた。それを踏まえて話をすると教団内の役職は助祭、司祭、司教、大司教、枢機卿、教皇がある。ここまでは大丈夫?》
《あぁ。続けてくれ、》
《ん。この役職にはそれぞれ固有の役割がある。教皇は教団全体の指揮。枢機卿はそれの補佐で大司教はそれ以下の監督。司教は数人の与えられた司祭や部下を従え任務をこなす。司祭は工作員。取り敢えず今分かったのはこれくらいだよ…》
《そうか…》
《あ、あと枢機卿は黒い作業を全て任されているらしいよ!》
《ほほう。なら俺の獲物は…》
《君の獲物は…》
《枢機卿だ!》
《そう言うと思ったよ!》
半透明なまま表面だけの薄い笑みを浮かべる裏背。広げられた手に乗るワイングラスには真っ赤なワインが注がれ強い香りが鼻を刺激した。
《よし、なら裏背。今度は枢機卿について調べてくれるか?》
《僕をいいように利用してるの?》
《………。いいじゃないか!》
《いい具合にスルーしないでよ。僕だって面倒なんだから!》
《ん…。仕方ないな。なら今度は俺が行くか~》
《そうしてくれたら嬉しいよ。僕の負担が減るからね!》
《………。やっぱ止めようかな…》
《どうして!?》
《冗談冗談。今日はこれくらいで寝るとしよう。おやすみ~》
《ん! おやすみ~》
フゥと吹き消された蝋燭。火が完全に消えているのを確認すると俺は布団の中に入った。
「ん…。もう朝か…」
「ガウッ!」
布団を退けると弱い微弱な光が窓から部屋の中を照らしていた。それと同時に丸まっていたバイトハウンドは俺に飛びついてくる。
「ホントお前は元気だな。まだこんなに早いっていうのに…」
適当に頭を撫でて宥めると急いで布団を出る。このままだといつまで経っても布団の中から抜け出せない気がしたから…。
「ガウッ、ガウッ!」
「少し静かにしろ。迷惑になるぞ?」
そう言いながら視線を合わせるとバイトハウンドはビクッと肩を震わせ静かになった。意外に賢いんだな。
「それにしても少し早すぎたかな?」
真っ赤な毛並みを撫でながら窓を開けるとヒュゥと冷たい風が部屋を舞った。しかし寝起きの体には目覚ましのようなものだった。
「ガゥゥゥゥッ!」
「だから静かにしろ!」
頭をポンポンと叩き黙らせると俺は再び空を見上げる。満足に姿も現していない太陽。微妙に立ち込める雲。そして寒い風。なんとも中途半端な天気だな…。
「まあいい。行くか!」
まだ7人のうち誰1人いないだろうがまあいい。俺はベッドの布団を綺麗に整え跳ねた髪を水で整えると部屋を出た。
「うっ、寒い…」
流石に真冬の早朝とくれば極寒だな。コートを羽織っていてもこの寒さだ。無しじゃ地獄だろう。俺は寒さに少し小さくなりながらも階段を下りていった。