第126話
銃口から煙をたてるライフル。恐らく魔法の爆発能力も借りてるからだろう。
「ほ、本当に撃ち抜きやがった…」
遠く離れた的に目を向けると丸い銃弾による風穴があいていた。摩擦のせいかその断面は焦げているようにも見えた。
「ふっ、伊達に拳銃を使ってる訳じゃない!」
「使いこなしてるということか…」
親父さんがパチンと指を鳴らすと周囲の世界は幻覚のように消えていった。
「それにしても帰ってきたようですね?」
「そうだな。頼んだぞ!」
ライフルを両手で持つ俺の肩を叩くと親父さんはシュラを向かえに店の外へと歩いていった。
《シュラって娘も囲むの?》
《酷い言われようだな。シュラは連れていかないぞ!》
《珍しい…》
《約束したんだ。俺達は友達だって…》
《ふっ、そうだったね。精々やるといいよ》
俺の見えない背中越しに話していたのでアイツがいつ消えたのかも分からない。
「友達だ…」
右手を思いっきり握り締めた。その手からは滲み出るように血が濡らしていた。
「リョウさん! い、いらっしゃい…」
「お邪魔しています!」
手に持つライフルをアイテムボックスへしまい笑みを浮かべると軽くお辞儀をする。今度こそ関わりすぎないように…。
「は、はい…」
そんな顔するなよ。確かに俺には笑顔で返してくれたが少し伏せた顔には悲しさが滲み出ていた。
「ちょっと来い…」
そう言って腕を掴まれた俺は部屋の隅まで連れていかれる。
「なんでしょう?」
「あからさま過ぎる。もう少しならないのか?」
「すいません。俺はシュラが好きだから…」
「…………」
「俺はそれでもシュラを連れていけない。それにいつ死んでしまうかも分からない。だからそんな俺には関わらない方がいい…」
「そ、そんな者! お前が守ってやってくれるだろう!?」
「2日前、連れが拳銃で撃たれて倒れてました…」
「っ!」
「恐らくは他の転生者が伝えたものでしょう。分かりますね?」
「…………」
「付け足すなら俺も昨晩、依頼中に男達に襲われました。依頼だそうです…」
「………。悪かった…」
「俺はそんな危険な身の上である自分のせいで悲しい思いはしてほしくないんだ…」
「そうか。シュラには‥」
「何もしなくていい!」
「そ、それだと…」
「俺との関係が深くなりすぎなければ大丈夫だろう。単なる顔見知りくらいなら…」
「………。分かった…」
「礼を言う…」
俺はもうシュラに危険な目には会わせたくない。それにこれは身勝手になるが俺の目の前でもう誰も死んでほしくないんだ。
「どうしたんですか?」
「なんでもないですよ。それより敬語は止めませんか?」
「は、はい。是非!」
キラキラと輝かせた目を見ていると心が痛い。そんな純情な目で見ないでくれ…。
「よろしくな、シュラ!」
「う、うん。よろしくね!」
手を差し出し握手した時、俺はやはり後悔した。どうして自分から近付くような真似をしたんだろう…。
「なあシュラ、少し来てくれるか?」
「う、うん!」
既に夕方。俺はシュラと仲良くする前に断言したいことがあった。
「こんな所に来てどうしたの?」
意外と町中でも自然が多い。公園のベンチに座ると目の前へ広がる波一つ無い広大な湖が周囲の雰囲気を体現しているようだった。
「シュラ、お前は自分の正体を知っているか?」
「父さんが教えてくれた…」
「なら俺のことは教えてもらったか?」
「えっ…?」
「教えてもらってないようだな…」
「ど、どういうこと。教えて、教えてよ!」
「………。シュラには酷な話だ…」
「いいよ。お願い!」
「はぁぁ。なら結果だけ話そう。俺はお前のことが好きだった…」
「っ!」
「けど、俺はお前を守りきれなかった。目の前で、死なせてしまったんだ…」
「そ、そんな…」
「こんな話をしたのは一つだけ断言したかったからだ。俺は‥」
「止めて!」
1番大事な所を話そうとした時、隣に座るシュラは俺を抱き締めた。
「けど‥」
「なら今日だけでいい。お願い。あたしも前のシュラとは別にリョウが好き!」
「………」
「同じにしないで。あたしはあたし。前のシュラなんて関係無い。今日だけでいいからあたしを拒絶しないで…」
「………」
「ご、ごめん。リョウの気持ちも聞かず一人で盛り上がっちゃって。さ、最低だね…」
真っ赤になったシュラは手を離すとうつ向きながらそんなことを呟く。最低は、俺の方だ…。
「ごめん。俺の方こそ。お前に幻影を重ねるなんて…」
小さくなるシュラを懐に抱く。シュラは今日だけなんて言うが、俺が安定すれば必ず迎えに来てやりたい…。
「リョウ~」
「お前さえ良ければ俺と来てくれないか?」
「っ!」
「今はまだダメだ。けど俺の身の上が安定すれば…、一緒に来てくれないか?」
「………。嬉しい…」
「嬉しい?」
「あたし、いつまでも待ってるよ。きっと迎えにきてね!」
笑いながら泣いていた。前、俺はシュラを迎えに行けなかったから……。いや、止めよう。重ねるのはよくないな。
「シュラ、少し辛いことを告げてもいいか?」
「何?」
「俺は今、誰かに狙われてるんだ」
「……」
「俺はあえて当分ここには来ない。ごめんな…」
「ふふっ、ちゃんと待っててあげる!」
「ありがと、」
《闇魔法・影移動》
影が俺達2人を繭のように包む。そしてグッと沈むとそこは何も無かったかのように静まり返る。
「ただいま父さん!」
「どこから帰ってきてんだっ!!」
ドーーンッ…
俺も確かに悪かったと思う。いや、俺がほぼ確実に悪い。いや、言い訳くらいさせてくれ。なんせ来なれない場所でピンポイントに転移するなんて至難の技なんだ。
「す、すいません…」
影が繋がったのは照明の影だった。そしてちょうどその照明を点検していた親父さんを踏み倒す感じになってしまった。
「はぁぁ。仕方ないな…」
「本当にすみません、」
「もういい。それより話は済んだのか?」
「はい、」
「シュラ、行くのか?」
「今度ね♪」
「そ、そうか!」
「と言うことで今日の所は失礼する」
「もう行っちゃうの?」
「そんな顔するなって。いつか近しいうち、迎えに来るって言っただろ?」
「うん…」
「親父さん、それではまた…」
《闇魔法・影移動》
「ぁ…」
「また迎えに来る。じゃあな、」
その言葉と共に俺の体はスッと影に消えた。そして今度現れたのはギルド内部だった。
「まだ時間があるな…。あっ、そういえば…」
素材を売るのを忘れていた。こないだの蛇人とワニだ。面倒だからと売るのを忘れていたな。
「ようこそおいでくださいました。御用を承ります」
「素材売却をお願いできますか?」
「承りました。それでは素材の方を…」
ドンッ…
「これ全てで130000Gでいい。どうだ?」
「い、いえそれでは御客様が損をなさってしまいます…」
「いいじゃないか。残った報酬はお前自身にやろうじゃないか!」
「こ、困ります。私はギルド職員であ‥」
「なら俺はただの旅人でお前はたまたま会った町人だ。いいだろ?」
「………。分かりました。では1人の人として受けとります。ありがとうございます!」
「報酬は後で受けとる。用意しておいてくれ、」
「はい!」
「じゃあな、」
そろそろ腹へったな。そろそろ夕飯にするか?
「す、すいません!」
「ん?」
「2階の依頼ボードが解禁になりました…」
「そうか…」
その時、一気に周囲がザワめいた。まあいい。受付嬢の言葉に興味を持った俺は階段に足を掛けた。