第125話
「今日は獣狩りに行くぞ!」
「獣狩り?」
「そうだ。実戦の方が経験になるだろう!」
翌朝、俺が向かおうとギルドを出ると既にサチはギルドの前で待っていた。胸当てと籠手等の軽鎧を身に付け剣を持つ姿はまさに冒険者そのものだった。
「はい!」
「なら今日は早めに行って早めに帰るぞ。森は危ないからな!」
流石に白昼堂々姿を消しては怪しい。ギルドの建物の小さな影にサチを連れ隠れると懐に深く抱いた。そして…
「闇魔法・影移動」
誰の目にもくれずに体は瞬時に影へと消え去りそこには何も残らない。そして現れた所は…
「深い森の中…。ということは?」
「魔物が沢山います!」
「そうだな。今日俺は何もしない。お前が好きなように昼まで狩ればいい!」
「はいっ!」
早速剣を片手に走るサチ。やはり子供は体力があるな。こんな歩きにくい中でも軽々と進んでいく…。
《なあ裏背。こないだの件たが、少し見てきて欲しいものがある》
《なに?》
《一般公開されているだけでいい。団体内の権力図とその名簿だ。頼めるか?》
《いいよ~。その代わり、今度君の体を使わせてね!》
《分かったよ…》
《ふふ、約束だよ!》
ポンッと消えた裏背に嫌な予感を抱きながら俺はサチについていった。そしてその先で見たのは…
「リョウさん、もう2匹目だよ!」
「凄いな。生き物を殺した感想は?」
「問題無いです!」
「ふっ、そうか。ならいい。このまま狩れ!」
「はい!」
向こうの世界の人ならば生き物を殺せば手が震え恐怖心に眠れないだろう。しかしここでは違う。殺せねば生きられない世界だ。サチは賢いようだな。
「くー、いい運動になりました!」
「良かったな。今日はこれで終わりなんだ。これ以上は考えていない」
「そうなんですか…。仕方ないですね…」
「そう落ち込むな。明日は最後だ。盛大に用意してやる!」
「は、はい!」
暗い顔で落ち込むサチの頭に手を乗せると俺は笑みを浮かべた。そして再びその体を右手に抱いた。
「そのいきだ。行くぞ、闇魔法・影移動!」
もう慣れたように影移動で町まで移動すると俺はそのままサチを連れてギルドの中へ入った。
「こ、ここがギルド…」
「そうだ。さあ行くぞ、」
「リョ、リョウさん…」
「仕方ないな~」
人見知りを発動させたサチはその場で足がすくんでしまう。話が進まないので俺はそんなサチを抱き上げると片手に抱いて受付まで歩いていく。
「ようこそお出でくださいました。ご用を承ります」
「素材売却を、」
「はい。ではこちらへ!」
そのなってやっとサチをその場へ下ろすとアイテムボックスから魔物の死骸を取り出す。
「これで全部だ!」
「はい。それでは精算額の算出に少々お待ちくださいませ」
受付嬢がそう言いながら奥へ入っていく。するとそれと同時にサチは俺の裾を引っ張る。
「どうした?」
「さっきのって?」
「お前の獲物だ。だから売却額は全てお前のものだ!」
「っ!」
「初めての稼ぎだろ?」
「は、はい…」
「精算額の算出が完了しました。失礼しました、お話中でしたか?」
「大丈夫ですよ。多いですね…」
「はい。状態が良かったもので…」
「そうですか。では…」
硬貨を置かれた分受け取ると俺達2人はギルドを出てそのまま屋敷の方へと向かった。そして…
「楽しみにしてますよ!」
「あぁ。満足できるものにしてやる!」
中へ掛け戻るサチを見送ると俺はバッと姿を消す。そして向かった先は…
「リョウか! よく来たな!」
「はい。今日は単に遊びに来ました!」
大太刀はひとまずアイテムボックスへ片付けると親父さんの出迎えを受けて俺は店の中へ入った。
「まあ、今日は何もないが寛いでくれや!」
「あぁ。礼を言う…」
勧められた席に座ると不器用ながら親父さんが茶を入れてくれた。
「こんな物しかないがすまんな…」
「いえいえ、こちらこそ急に押し掛けてすみません…」
「今はシュラもいないんだ。お前が来たのはシュラの為だろ?」
「…………」
「お前が責任を感じてるのは分かるんだなもう気にしないでくれ。それがシュラの為にもなる!」
「………。わかった。そうしよう…」
「………」
「けど俺はやはりここに来る。俺が会いたいからな!」
「ふ、不器用だな。いつでも来るといい。俺達は待っているぞ!」
「ありがとうございます!」
茶を啜り一服。体がポカポカする。慣れ親しんだ茶の味は俺の体に行き渡る。
「そういえば遼、こんな物を作ったんだ!」
そういうと親父さんはニヤリと口角を上がると棚の引き出しを引いてその中の見るからに何かありそうな物を手に取った。
「それは?」
「見て驚くなよ!?」
テーブルに置かれたそれは端はテーブルからはみ出す程だった。そして掛けられた布が退けられると…
「す、凄い。スナイパーライフル?」
「そうだ。魔法の補助をプラスしてあるから通常ライフルの数倍は威力が出るだろう!」
「ま、マジか…」
「これを、やろうか?」
「っ!」
「まあ、ただでやるわけじゃあない!」
「………」
「条件は、お前がシュラとずっと友達でいることだ!」
「ん、友達?」
「そうだ。恥ずかしながら俺は人間だがシュラは俺と聖霊との混血なんだ…」
「………。分かったよ。それに俺が血なんて気にしないのは1番知ってるんじゃないのか?」
「そうだな…。お前はそんな奴だったよ…」
思い出したように茶を飲み干すとバンッと茶碗を置くと清々しい表情で立ち上がる。
「どうした?」
「お前には俺が作れる最強の武器を作ってやる。そのライフルはほんの余興と思えるようなヤツをだ! 待っていろ!」
「それは楽しみだ!」
テーブルに置かれたライフルをガシッと掴むと素材自体が放つ魔力が手のひらにジリジリと伝わってくる。
「試し撃ちでもするか?」
「試し撃ち…、どこで?」
「俺のスキルだ。『物理ノ永界』」
ニヤリと笑う表情は心なしか少し若くなっている気がする。そんな親父さん中心に広がったアクリル板のような物が俺を取り囲み俺の意識を飛ばした。
「ここは?」
「『物理ノ永界』。死ぬことによって増えたスキルだ!」
「固有スキルか!?」
「よく分かったな。このスキルは物理法則に縛られた世界だが無限の自由空間を作り出せるものだ。だからこの中じゃ俺が許可した魔法や魔力しか使えない!」
「最強だな…」
「まあ、捉えられなきゃ意味がないがな…」
「…………」
そうやって苦笑いする親父さんは目の前へ手を向け指をクイッと動かす。するとキューブ型の柱が2メートル程の高さで作り出される。
「さあ、狙ってみるといい!」
その声に我に帰った俺はキューブで設計されたこの空間の床に体を伏せると、親父さんがわざわざ設計してくれたスコープに目を当てキューブの1番上を狙う。
「貫く!」
バンッ!
流石はライフル。目で追えないような化け物級のスピードで放たれた弾丸は丸く鋭くキューブに穴を開けた。
「やるじゃねえか。ならあれは狙えるか?」
意地悪に笑った親父さんはさっきの5倍は離れた場所へ的を作る。もう見えるかさえ怪しい…。
「なめるなよ、『鮮血覚醒』」
「ほう~」
己の腕を切り裂き自分の身体能力を底上げする。身体能力ということは視力やその他諸々の能力も上がっていた。
「貫く!」
バンッ!