第123話
「あれ、2人共どうしたの?」
「リリスか…」
あまりにドンヨリした俺達の雰囲気を察したリリスはそう言って近付いてくるが自分達のせいだとは気付いていないだろう。
「リョ、リョウさん、ではまた今度?」
「そうだな。またの機会にな!」
優司は無理矢理話を変えた。急な展開にティナは耳をピクリと動かした。
「ですね。藍夏ちゃん起こしてきます!」
「なら俺も…」
そう言って立ち上がり階段へ向かおうとした。するとバッと腕を捕まれた。
「ねえリョウ、どうしたの?」
「い、いや。少しな、」
パッと手を振り払うと俺は階段を駆け上がり扉を開く。すると…
「あ、リョウ!」
「ちょ、リアス、隠せよ!」
着替え中だったようで俺は音よりも早いスピードで部屋から退出した。ビックリした。
「もういいよ~」
中からの言葉に俺が扉を開けると手を引っ張られた。そしてベッドへ倒し込まれる。
「な、リアス!」
「ふふっ、ビックリした?」
「退けてくれよ…」
「やーだ!」
「誘ってるのか?」
「ど~だろ~ね~」
「ふっ!」
俺の肩を押さえるリアス。グッと体に力を入れるとその手を逸らし今度は俺がリアスを押し倒す。
「負けちゃった~」
「形勢逆転だな…」
まださらしを巻いただけのリアスへ体を近付けるとそっと顔を近付けた。
「これで私も仲間入りだね!」
「知っていたのか?」
「まあね。私の五感はこの中じゃ1番だよ?」
「そうだったな…」
「ふふっ」
もう一度重ねられた感情。俺はギュッとリアスを抱き締めるとお互いの鼓動がよく感じられた。
「さあ行こうか!」
「あっ……」
「まだ朝だぞ?」
「そ、そうだね…」
名残惜しそうに俺の手を取るリアスの手を丁寧に外すとポンポンと頭を撫で部屋を出た。
「あ、リョウさん!」
「藍夏は?」
「着替えてから来るって言ってました!」
「そっちもか…」
「はい…」
『はぁぁ…』
その溜め息と共に俺達は苦笑いすると階段を下った。
「さあ行こう!」
「はい!」
「うん!」
あれから藍夏もリアスも下りてきて一通りの自己紹介は済ませた。そしてまた今度依頼を片付けようと約束するとそれぞれがギルドを出た。
「また今夜!」
「リョウ兄またね!」
「リョウさん、行ってきます!」
「お兄さん。じゃあね~」
次々と皆がギルドの扉を出ていく。俺は最後に出ていく優司達3人を見送ると物陰に隠れ…
「闇魔法・影移動!」
パッと消えた体。次現れた体はデイア家の前だった。そしてその門には…
「リョウさん!」
「サ‥」
「今日も行くのでしょう?」
「まあ、そうだが…」
「では行きましょう。今日は御父様が大きな闘技場を借りてくださっています!」
「クロス様が?」
「はい。行きましょう」
そう言ってズンズンと先に進むサチ。初めて会った時の無気力な姿からは想像出来ない程の堂々とした歩みだった。
「ここです!」
「ここは?」
「貴族、の中でも武術派の人達が使う闘技場です。ここには様々な設備が整っていてやっと借りれたと申しておりました!」
「そうなのか。クロス様は良いことをして下さいましたね、」
「はい。では行きましょう!」
堅固な見た目の建物だった。固い鉄の扉をガチャリと開けると中には美しい青色をした武器が立ち並んでいた。
「本当にいいのか?」
「はい。では参りましょう!」
多少慣れているのか立ち並ぶミスリル武器の中から短槍を取る。そして棚の上に置かれた道具を手に取った。
「俺はこれにするかな!」
美しく淡い青色を放つ武器達。その中から1メートル程の太刀を手に取る。大太刀とは違う小さめの太刀もいいものだな。
「槍でいいのか?」
「はい。他は大きいので!」
「そうか…。ならいい。始めよう!」
「はい!」
ガキンッ
ぶつかった刃が火花を散らす。こう見えて俺は嬉しい。無気力だったサチがここまで本気で刃を振るうなんて…。
「俺は嬉しいぞ。サチ、」
「やあっ!」
俺の言葉なんて本気モードのサチには届いていないだろう。火花の先にサチの金眼が見える。
「ふはは、いいぞサチ。来いよ!」
「やっ!」
突き出された槍を下から蹴りあげると太刀を振り上げる。当のサチは一瞬バランスを崩すが手元の槍を俺の心臓へと投擲する。
「その行為は愚策だぞ?」
投げられた槍をガッと掴むと手元でグルンとまわしサチへ向ける。
「油断しましたね!」
バンッ!
鋭く重い衝撃と共に俺の肩からは生暖かい血が流れる。己に受けたのは初めてだ。まさかサチが拳銃を使うとはな…。
「サチいいぞ! それを使いこなしてみろ!」
身体中に魔力を巡らせミスリルにも最大限の魔力を込める。それは魔力を込めすぎて刀身が震える程だった。
「はあっ!」
バンッ!
「効かん!」
飛ばされた弾丸を切り裂く。そのスピードは遅く目で追える程。魔力を纏わせた剣は容易く銃弾を切り裂いた。
「っ!」
「銃を過信し過ぎるな。俺は人族が元だからこんなのだが獣人ならば全員と言える程の者が追えるぞ?」
「はい…」
「まあいい。それでもう一度俺を捉えられるまで模擬戦だ!」
「っーー!」
銃弾による傷はパッシブスキルと元々の堕天人の能力で回復していた。まだまだやれる。今日はサチの体力が尽きるまで連戦だ!
時は夕方。
確かに俺も悪かった。流石にやり過ぎた。槍を杖のようにして荒く息をしている姿を見ているとなんとも悪い気がしてならない。
「はぁ、はぁ…」
「だ、大丈夫か?」
「リョ、リョウさん……。少し、いえ凄く、疲れました…」
「そう、だな。少し休むといい…。土魔法・創具」
グゥッと伸びる石の机と椅子。背もたれ付きのその椅子へ小さなサチを座らせる。
「あ、ありがとう、ございます…」
「ふっ。少し無理をさせてしまったな。少しの間、俺が舞おうか!」
「リョウさんが、ですか? 是非、見てみたい、ですね…」
「ふふっ、見せてやろう。剣を持つ者である血の舞をな!」
それと共に現れたのは蛮刀を引っ提げたひげ面の男達。男達に驚いたサチは俺の所へ駆け寄ろうとしたがその周囲には結界が張ってある。これはBランク級の魔物でも破れない。
「ほほう、ならその舞の御相手は俺達が勤めましょうや!」
「出来れば子供に血は見せたくないんだが…」
「ぐはは、それは無理な相談だぜ! 俺は雇われたんだ。仕事は曲げたくないんだ!」
「そうか…。ならば仕方ないな…」
太刀をこの場へ突き刺すと太刀が俺の手から離れた瞬間っ!
「やぁぁぁぁぁ!」
「ふっ、」
『状態変化・炎』
大男が振り下ろさした大斧が俺の体を切り裂いた。しかし炎で形成された俺の手は斬られたもののすぐに元通りとなる。
「うおっ!」
「見せてやる。サチもよく見ておけ。冒険者の力をな!」
ドンッ!
炎に纏われた腕は怯んだ目の前の大男を襲い腹に大きな焼き目をつけた。そして片手に現れた大太刀はそんな大男を襲い血飛沫を撒き散らした。
「なあ、他は来ないのか?」
「な、なにを! 掛かれ!!!!」
「ふっ、面白い」
風を舞うように男を切り裂き、風が舞うように切り裂く。掛かってくる男達に刃を突き刺し取り巻く体を輪切りにした。舞う鮮血は綺麗にされた闘技場を血の海へと変えた。
「ふはは、お前で最後だな?」
「化け物め!」
「本当の化け物はどっちだろうな?」
ブシュゥ……