第121話
「武器でも探すか!」
サチの言うように確かに普通の直剣だとサチには大きすぎて大剣のようになってしまっていた。今日は急遽俺が形成した武器を使わせたがそればかり使わせるわけにいかないだろう。
「さあ、探すか!」
夜の闇の中、賑やかに照らされた道の左右には様々な店が建ち並び夜の店から夜には空いてなさそうな店までズラリと並んでいた。
「ひひ、兄ちゃんも夜に出てきたのかい?」
道の真ん中で周囲を見渡していると肩をポンポンと叩かれ酒臭い息が俺の鼻をかすめた。
「おっちゃん?」
「兄ちゃん初めてなんだろ? 行こうぜ男の楽園へよ~」
「す、すいません。私は用事があるので…」
掛けられた手を払うと急いでそこを離れる。おっちゃんが寂しそうな顔をするが中年オヤジのそんな顔なんて全然心に響かない。
「ふぅ。やっと見つけた…」
おっちゃんから逃げながら走っていると武器の煌めく影が見えた。そしてそこを目標に歩いていくと店頭に数多くの剣が立て掛けられた店が肩を揃えて並んでいた。
「どこでもいいよな、」
適当に入った店の中には様々な種類の武器が並べられ、俺の見たことないものまであった。
「らっしゃい。あたいの父さんが使った武器だよ!」
外見より広い店の中を歩いていると髪を肩の所で切った少女が笑みを浮かべ俺の隣へと走ってきた。その髪は橙色だった…。
「…………」
「どうしたんだい御客さん?」
「いえ、なんでもありません…」
「?」
ビックリした。あまりにアイツにそっくりだった…。ここは2度とこれないな…。
「す、すいません。武器を探していたのですが他を当たってみますね」
「待ちなよ、」
そう言いながら店を出ようとすると店員がパッと手を取る。ヤバい。記憶を掻き乱されてる気分だ。
「な、なんでしょう?」
「あたいの父さんの武器は全部特注で作ってんだよ。だからどんな武器でも大丈夫さ!」
「そ、そうですか。では1度お会いしてみましょうか…」
「それがいい。父さん呼んでくるから待ってておくれ!」
その後ろ姿にやはりアイツを重ねてしまう。別人と知りながら重ねてしまう俺は愚かなのかそれともまだ想っているのか…。
「ん、どうしたどうした? こんな夜更けに?」
そう言いながら出てきた店主の手にはマグカップが握られていた。運命、怖いものだな。
「い、いえ。特注で剣を作ってほしいのです…」
「そうかそうか。そんなことなら上がりな。意に沿うよう作ってやる!」
「は、はい…」
もしかしたら今夜は帰れないかもしれない。予想だがこの店主にも職人という雰囲気が溢れいてきっと始めると終わらないタイプだ…。
「あ、あたいは寝てるから~」
そう言いながら手をふる彼女の額には冷や汗が滲んでいた。やはり予想通りなのかもしれない…。
「さあ、入ってくれ!」
中は真っ暗で何も見えない。勧められて入ったものの軽率だったな…。
「お前の目的はなんだ?」
見えない暗闇へと問う。こんな所で死ねない。魔力を右手に集めいつでも放てる状態にすると殺気を放ちながらゆっくりと問いかける。
「酷いな遼!」
「遼、遼、遼、も、もしかして…」
「そうだ!」
「お、親父さん!」
照らされたそこにいたのは紛れもなく親父さんだった。見た目も声も変わっているが俺のことをそんな発音で呼ぶのは仁と親父、シリュウさんだけだった。
「久し振りだな遼…」
「お久し振りです。けどどうして?」
「んー、俺もよく分からん!」
小さな作業部屋の中、蝋燭に火をつけ唯一の入り口を閉じた。そして座った親父さんはドッシリと構える。
「『等価錬成』。どうぞ、これを!」
「お、どら焼きじゃねえか!」
「はい。いくらでも作れますよ!」
「お、いいじゃねえか。やっぱ日本人同士ってのは落ち着くな!」
店などで運ばれてくる大皿の上へどら焼きを錬成する。そして温かいお茶をお互いの前へ錬成する。やはり日本風のティータイムといえばこれだろ!
「ですね。とは言えまた会えて嬉しいです!」
「俺もだ。お前が娘を運んでくれたんだろ?」
「そ、そうですが…」
「まあ織りをおって話そう。まずはだな~」
話しはじめた親父さん。俺はどら焼き片手にそんな話を熱心に聞いていた。
「大変でしたね…」
「まあな。けどまあ、ここで安定できて良かったよ…」
親父さんの話を短くまとめるとこうだ。
①死ぬ
②ここ周辺に転生。※同じ年齢
③少し後に誰かが現れた。
④鑑定の結果シュラの生まれ変わり。
⑤シュラが目を覚ます。
⑥父さんと呼ばれた。
⑦ここに前と同じように店を構えた。
だそうだ。と言うかどうしてシュラだと分かったんだ?
「親父さん、どうしてシュラだと分かったんですか?」
「シュラの固有スキルがあったんだ!」
「………。シュラって固有持ちだったんだな~」
「まあな。『絶炎』っていうスキルを持ってる」
「ぶぅっ!」
思わず咳き込んでしまった。絶炎って意外に俺のスキルと共通点が多い。もしかしてスキルって接触した人に影響するのだろうか?
「ど、どうした?」
「いや、なんでもない…」
「そ、そうか…」
「は、はい…」
本当にビックリした。しかし何故シュラは俺のこと、気付かなかったんだろう?
「なあ遼。それはそうとシュラには会わない方がいい…」
「ん、何故だ?」
「シュラには記憶が無い…」
「………」
唖然、とはこのことだろう。情けない話だが俺はシュラに会える、話せるっていうのが心の中で待ち遠しかった。
「そ、そう落ち込むな…」
「ふはは。親父さん、なら俺はシュラに会うぞ!」
「お前、キャラが…」
「言うなよ。それよりもシュラには記憶がないんだろ?」
「そ、そうだが?」
「なら俺が会っても取り乱さないじゃないか!」
「…………」
「ここはこれからよく使わせてもらうことにするぞ!」
「そ、それはいいが…」
「ふふっ、よろしく頼む!」
「こ、こちらこそ…」
俺のテンションや雰囲気についていけないのか親父さんはポカーンと口を開けて立ち上がった俺を見上げていた。確かにシュラ、として話せないのは悲しいがそれよりも俺はアイツの生まれかわりである彼女を今度こそ守りきりたかった。
「親父さん、早速だが特注品について相談していいか?」
「あ、あぁ…」
「俺が今欲しいのは直剣だ!」
「直剣だと?」
「そうだ。それも少し小さめのな!」
「小さめ? 子供でもできたのか?」
ニシシと笑う親父さんを無言でポカーンと叩くと椅子へ座り直す。
「教え子だ。依頼で指導役を頼まれてな!」
「よし、そう言うことなら任せな!」
「礼を言う!」
「1時間程で終わらせてやる。待ってな!」
そう言うと足早に親父さんは奥の扉を開ける。作業部屋だと思っていたここは違うかったようだな。
コンコン、
「どうぞ、」
ガチャリと開けられた扉。そして入ってきたのは2つのココアの入ったマグカップを持った彼女だった。
「御客さん、ココアいるかい?」
「は、はい…」
テーブルの正面へと座った彼女。勧められたココアからは白い湯気がたっていた。
「御客さんって不思議な人だね~」
「不思議?」
「会ったことないよね?」
「………。そうですね…」
「御客さんを見てるとホッとするんだよ。これからもウチをご贔屓にしておくれよ!」
「あぁ。親父さんとも約束したしな!」
「………」
「………」
微妙な雰囲気が流れる。全てを知る俺からするとなんとも言えない気分だが、彼女からすれば俺はただの他人だからな…。
「お名前を聞いても?」
「そ、そうだな。俺はリョウだ!」
「リョウ、リョウ…」
「貴女は?」
「あ、あたしはシュラだよ!」
「……。よろしく…」
シュラの入れてくれたココアを一口。俺は自分の感情の混乱と少しの喜びを感じた。