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種族絶戦 ◈◈◈人の過ち◈◈◈  作者: すけ介
運命の収束点
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第117話

「ティナ! ティナ!」

抱き抱え揺さぶっても目を開けない。この状況にいつかの()()のことを思い出したがその考えを振り払い俺は傷口へ手を当てる。

「…………」

「くっ…。精霊魔法・集中蘇生」

傷口はなんとも奇妙な形をしていた。真ん丸に抉れた傷口は決して大きくないが血がドクドクと溢れ出してくることから傷は深いと考えられる。

「…………」

「お願いだ…。死ぬなよ!」

必死に傷口を抑え魔法を掛け続ける。しかし一向に効いた様子がない。もう何も見えない。見えるのはドクドクと流れ続ける血だけ…。

「…………」

「ティナ、ティナっ!」

身体中を巡る魔力を全て己の指先へ集め、『永久炉』により生成される魔力も全て回す。それにより周囲を渦巻く魔力は異様な渦を巻き始める。

「リョウ、落ち着いてよ!」

魔法を発動しようとした瞬間、後ろからポカンッと叩かれた。振り向くとそこにはリリスが俺を見下ろしていた。

「リリス…」

「そんなことしたら回復しすぎちゃうでしょ。落ち着いて。私達もいるじゃない!」

「………。すまん…」

「ふぅぅ。謝ってる余裕なんてないでしょ!」

「そ、そうだな。でもどうすれば?」

「取り敢えずはその魔法を掛け続けて。早く宿に戻って休ませてあげないと!」

「だな。じゃあ行こう。闇魔法・影移動!」

俺達3人を包むように魔法を展開すると一瞬の間に宿へと移動した。今は少しの時間も惜しい。ブラックアウトする意識を魔力のごり押しで防ぐと急いで部屋まで戻る。

「精霊魔法・集中蘇生」

血に濡れ真っ赤に染まった上着。傷口の部分を切り裂き患部を露出させた。

「…………」

「酷いな。大丈夫か?」

患部をよく観察すると傷口は飛んでもなく深いことが分かる。それにこの傷は剣や矢のものじゃない。これは…

「どうしたの?」

「銃弾…」

綺麗な円形の患部。深く抉られた傷口は肩の骨まで達しているのかもしれない。それに患部周辺には毒素が回っているのか変色が始まっていた。

「銃弾って、まさかリョウ以外にも?」

「持っているんだろうな…。けど今はそれより治療だ!」

抱き抱えた時に分かったが肩の後ろに傷口は無かった。と言うことは銃弾は体の中で止まっているということだ…。

「けどリョウ、どうするの?」

「決まっている。出ていてくれ…」

「う、うん」

「いいの!」

「いいんだよ。リョウを信じるのも私達の役目でしょ?」

「………。分かったよ…」

「礼を言う…」

2人が退室したのと同時に現れる裏背。俺のしようとしてることを裏背は分かっているのだろう。その顔は少しだが険しくなっている。

《裏背…》

《白狩君、ティナちゃん、助けられるの?》

《分からない…》

《いいの?》

《他に何かあるか?》

《したところで何か変わる?》

《………》

《それでもやらなきゃ解決しないよね?》

《あぁ…》

《ならやっちゃおう。僕もできるだけサポートさせて頂くよ!》

ベッドや床、全ての部屋内表面に魔力を巡らせ()()()を防ぐコーティングとする。

「頑張れよ。助けてやるからな。雷魔法・全身麻酔」

鋭い電流がティナの神経を掻き乱す。正直魔法なので説明しきれないがこないだ自分に電流を巡らせ痛覚麻痺させたことを応用し体全体の痛覚を消してしまう。

《さあやろうか?》

《ふふっ、僕はいつでもいいよ!》

精密な操作が出来るように自分の指先に魔力をまとわせ刃とする。そして肩をグッと切り裂いた。

ブシュゥッ…

《んっ…》

《背けないでね!》

《あぁ!》

切り裂いたことで飛び散った血飛沫が俺を濡らす。それに思わず目を瞑ったところ、裏背から鋭い声が飛んできた。少し感謝しなければならないな。俺は再び指先に魔力をまとわせた。

《あったよ!》

《ん、》

やはりこの世界の技術では近代的な銃を再現するのは難しいようだ。威力は然程無かったようで銃弾は肩の骨付近で止まっていた。

《普通に抜き取る?》

《そうだな。それ以外ないだろ!?》

刃型の魔力を解き代わりに手袋のように魔力を手にまとわせる。そしてそれを使い慎重に銃弾を手に取る。

《それは、どうするの?》

《証拠として保存する》

アイテムボックスの結晶に銃弾をぶつけ保存する。必ず近いうちに犯人を探して殺してやる。

《で、次はどうするの?》

《まずは治療だ。精霊魔法・解毒》

毒に侵された骨、筋肉、肌を全て浄化していく。単純に表面から蘇生するよりも効力は大きいだろう。

《で次は?》

《『生魂支配・魂復』。これで治ってくれ…》

ピカーッと部屋内を真っ白な光が満たしたかと思うと切り裂かれた傷、深く抉られた傷、どちらも始めから無かったように綺麗に蘇生されていた。その隣では微笑みを浮かべる裏背。

《良かったね?》

《あぁ。けどこれで本当に?》

《大丈夫だと思うよ。あとは君の魔法で失った意識が戻るだけだよ!》

《そうか。ありがとな、》

《僕は何もしていない。白狩君、君の努力だよ》

そう言い放った裏背は目の前からスッと消える。そしてそれと入れ替わりにパンッと開けられた扉。

「どうしたのリョウ!」

振り向いた所には血相を変えたリリス。その隣では事態についていけないリアス。

「何でもない。少し‥」

「そんなわけないじゃない。今の魔力、リョウの本気よりも…」

「大丈夫だ。今の本気を出しただけだよ…」

ベッドでスヤスヤと寝息をたてるティナの髪を撫でる。その額には少し汗が滲み苦しかったことがよく分かる。

「ね、ねえリョウ、その顔…」

リアスがそう言うので顔に手を当てる。すると冷たい水分が手を濡らした。

「血、だな…」

さっき飛び散った血なのだと思う。切った張本人の俺に返り血が飛び散るのはおかしくないだろう。

「ねえリョウ、なにしたの?」

2人の顔を見るに誤魔化すことは不可能。本当のことを言うか言わぬか難しいところだな。

「少し地元の治療を施した…」

「そっか。私達には教えてくれないんだ?」

その言い方はズルいだろ。とは言えやはり言えない。昔見たドラマでも言っていたが手術が実施されるのは最低でもこんな中世真っ只中じゃない。ならば今それを教えて広まりでもしたら大惨事になりかねない。

「すまん…」

「いいよ。リョウにも何かあるんでしょ?」

「…………」

「私達は夕食買ってくるから。リアス、行こう!」 

「あ、うん!」

バタンッと閉められた扉。

沈黙の中、隣で眠るティナに目をやるとスヤスヤと眠っているように見えて苦しそうに喘いでいるようにも見える。まだ血で染まった服が痛々しい傷を思い出させた。

「何があったんだ?」

確かリリスの時も俺がいなかった時だったな。またなって言って別れたあと、俺が探しに行くと血塗れで倒れていた。やはり一緒にいるべきなんだろうか。 

「………」

「ふぅ。早く起きてくれ、」

机の上で弱々しくも燃え盛る蝋燭の火を見ているとまるで俺達のようだ。何回も危ない状況が続きいつ消えるか分からない。あの炎のように俺もティナも今すぐにでも消えてしまうかもしれない。

「……」

ベッドに横たわり微動だにしないティナを見ていると底知れない不安が俺を襲ってくる。もし目を覚まさないかもしれない、という不安は俺の中で少なからず渦巻いていた。

「んっ、」

椅子に座り不安と戦っていると少し虚ろだがティナが目を開けた。

「起きたのか?」

「うん…。リョウ兄…」

俺はその時、無性に涙が溢れてきた。

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