第116話
「……………」
「疲れただろ?」
「はい……」
魔力を使いすぎたサチはぐったりと地面へと膝をつき脱力していた。俺はこんなスキルを持ってるから経験したことないが魔力は無くなると体から力が抜けるってリアスが言ってた気がする。
「ここまで来れるか?」
「は、はい…」
俺が腰を下ろす岩まで半分虚ろの目で歩いてくるサチ。倒れ込む体を支えると額へ指を当てた。
「ん…………」
「あれ?」
ジンワリとした微弱な量の魔力をゆっくりと流し込んでいく。魔力とは本来全て同じで使ったときに差がでるのは技量の差だ。ならば魔力を流してやればいい。
「どうだ?」
「楽になりました…」
「そうか。良かった」
「はい…」
「さあ行くぞ。夜になる前に連れて帰らなきゃな~」
初めての経験に戸惑うサチの手を引き俺はその場を離れる。ここに来るまでもそうだがサチが全くもって顔を合わせてくれない…。
「ねえリョウさん……」
「ん、どうした?」
「ん、んぅ。なんでもない…」
「そうか…」
やはり様子がおかしい。まあいいか。また今度、話してもらえるようになればでいい。
「身分証をご提示願います」
「はい。これで大丈夫ですか?」
「結構です。確認しました、お通り下さい」
カードを見せ門を通ると中途半端な時間のせいかほぼ人はいなかった。真っ赤な夕日が空を照らして建物も薄く夕日色に染まっていた。
「なあ何がいい?」
「はい?」
「よる所だよ。屋台にでも行くか?」
「は、はい!」
と言うことで屋台の方へと足を運んでいく。昨日のようにテンションが低い、暗いという感じじゃくてなんというかモジモジしてるというか……。分からないな…。
「焼き鳥2つ、」
「200Gだ。塩とタレ、どっちにする?」
「俺は塩、サチは?」
「私も…」
「ほらよ。達者でな!」
串を2つ袋に入れた紙袋を渡されそれと共に硬貨で金を支払う。屋台なので若干高かったがこないだの討伐依頼の報酬がまだまだ余っていた。
「どっちがいい?」
「こっち…」
「ん、なら俺はこっちだな。火魔法・燃炎」
中に何も残ってないのを確認すると真っ赤な炎で袋を燃やしゴミを最小限に抑える。また皆ともこんな風に歩きたいな~。
「リョウさん、わ‥」
「誰か‥!」
何か言おうといたサチ。しかしその声は鋭い悲鳴に掻き消され俺はすぐに現場へと向かう。
「ほほう。人拐いか?」
「ふへへ、見ちまったか兄ちゃん?」
路地裏へと入っていく犯人が見えて追いかけるとそこには覆面を着けた犯人達が小柄な獣人の手足を縛るところだった。
「あぁ、バッチリ見た」
「兄ちゃんが黙ってその子供を差し出すんならお前のことは助けてやろう!」
「ふふっ、『雷鳴ノ瞬撃』!」
久し振りに使うスキル。流石にサチのいる前で残酷なことは出来ないから普通の正拳を腹に叩き込むだけにとどめる。
「ぶごっ!」
「生憎コイツは俺の依頼者の娘でな、お前達のような薄汚い者共にやれる代物じゃないんだ。じゃあな!」
いつもなら魔法もしくは剣を浴びせているが流石に血の飛び散る惨劇を見せるわけにはいかないからな。
「このっ、舐めやがって!」
「バカだな」
グサッ…
後ろから飛び掛かってくる男。アイテムボックス内の槍を後ろへとつき出す。
「リョウさん?」
「振り向くなよ」
俺はそのまま後ろも見ずに歩いていく。サチにこの惨劇を見せないってのそうだが絵面的にもヤバそうだからな。
「ふぅぅ。ありがとうございました!」
少し離れると急に頭を大きく下げて礼を言ってくる。その突然さと声に周囲の人々も少し足を止めた。
「ど、どうしたんだ?」
「だってさっき…」
「あー、それか。まあ連れ出したんだから無事に返さなきゃだろ?」
「それでもですよ。ありがとうございました!」
「そこまで言うなら素直に感謝されとくよ」
「ふふっ!」
「早く帰らなきゃな。そろそろ日も暮れる…。闇魔法・影移動」
一瞬のブラックアウトと共に移動した場所は屋敷の塀の影。最近よく来る場所だからある程度の微調整が効くようになってきた。
「本当に今日はありがとうございました!」
「こちらこそ。人に教えるというのは自分の学習にもなる。ありがとな、」
「はい。また明日!」
「闇魔法・影移動」
その声を聞いた時には俺の意識や体は半分影の中だった。消え入った意識と同時に俺は小さな笑みを溢した。
「おかえりリョウ!」
「ただいま。ティナはまだなのか?」
「うん…。ちょっと心配してたんだよ~」
「だな。探しにいってみるか!?」
「だね!」
「うん!」
恐らくはまだ森の中で薬草でも探してるのだろう。今日だけはギルドでの夕食とはならないかもな。
「さあ行くぞ。闇魔法・影移動!」
ブラックアウトでの視界が戻ると共に現れたのは大きな巨木。森の中に直接飛んだこともあり何処に出るかは正直よくわからなかった。
「ねえここはどこ?」
「………」
「………」
「大丈夫だよね?」
「あ、あぁ。リリス、ティナの魔力を探れたりするか?」
「出来るよ!」
最近、ティナが俺の魔力を感じられるとか言っていたがリリスにも同じことができるらしい。俺には全くその原理が分からない…。
「見付かったか?」
「うん。向こうの方じゃないかな?」
リリスの指す方向を見ると木々が別れた所に鮮やかな花が咲き乱れていた。それは1ヶ所ではなく数ヶ所ありこの中にいるのかもしれない。
「あっ、見付けた!」
「なにっ!?」
目を凝らし探していたリアスがあっと大きな声を上げたかと思うと見付けたであろう方向を凝視する。
「あそこ、あそこ。見えないの?」
「んーー」
《なあ裏背、手伝ってくれ》
《はーい》
本当に少しの力だったがそれだけで俺の視力は通常に比べ数倍にまで引き上げられた。するとやはりリアスの言っていたことが理解できたりして少し遠くの開けた所でティナがゴロンと寝転がっていた。
《ありがとう》
《もういいかな? じゃあね》
パッと消えるのと同時に俺の体から裏背の力が消えた。走るリアスに俺は軽く走ってついていく。
「…………」
実力的に強くなってきていることもあり俺達3人の中でも種族的な特徴が出てきている。例えば俺のような人間の場合、可もなく不可もなくというかんじで欠点がない。しかしリアスの場合、身体能力がずば抜けている代わりに魔力操作が極端に苦手。こんなのは立派な種族的な差と言えるだろう。
「あれ、どこだったっけ?」
リアスについてきて走っていると急に目の前で止まったリアス。そして振り替えるとテヘペロッとでも言うように笑うので取り敢えず頭を小突いておいた。
「えーと……。風魔法・微風索的」
これぐらいの距離なら魔法で調べることはできる。深い森は木々の間が極端に狭く周囲の様子が全くと言っていいほど見通せなかった。
「見付けた?」
「あぁ。こっちだ!」
アイテムボックスから久々に大太刀を取り出すと深く腰に構え足を深く力をいれる。そして…、
「………」
「はっ!」
居合いで斬り付けられた木は一見なんの変化もない。しかしそれを指で押してみると、
「凄い…」
幹に一筋の筋が入ったかと思うと斬られた巨木は斬り倒された。そしてそれを吹き飛ばした先には…
「ん!?」
「ティナ!?」
そこには肩から血を流して意識の無いティナが横たわっていた。