第115話
「お邪魔します!」
「お待ちしておりましたリョウ様。それでは闘技場へどうぞ」
今日からは本格的に始めていくつもりだ。まあ今日のうちに実力さえ分かれば上出来と思っているが…。
「おはようございます!」
「おはよう。やる気だな~」
「強くしてくださるんでしょう?」
「その為に雇われたからな!」
取り敢えずは剣と魔力の扱い方。そして次に魔法とスキル。こう考えると指導の工程って少ないな。
「ではまずは何を?」
「取り敢えずは実力検査だ。魔力は操れるよな?」
「はい、一応は…」
「なら俺に飛ばすことは?」
「出来ます」
「ならこい!」
剣と言えば空振りなんだが個人的に空振りはそこまで好きじゃない。どちらかと言うと対人戦等で緊迫した中での実力が見たい。だからそれは後でするとしてまずは魔力!
「ん!」
「っ!」
気合いを入れたサチが手を振り上げると頭上に凡そ5メートルを越える魔力の塊が浮かぶ。その中の魔力量はなんとこの屋敷を全壊させられる程だ。
「おりゃ!」
「くそっ!」
右目の眼帯を外し飛んでくる塊を魔眼の力で散らす。もし俺に当たればダメージは無くても爆風によりこの屋敷もろともサチ自身が吹き飛んでいたかもしれない。
「ふぅぅ。どうでしたか?」
「あ、あぁ。確かに、凄い…」
属性がないからこそまだ被害はないだろうがここ魔力量で属性まで足されたら不発したときどうなるか分かったものじゃない。もしかしたらこれも他の冒険者が依頼をやりたがらない理由なのかもしれない…。
「ダメ、ですよね…」
「んー、取り敢えずは少しの魔力で慣れていこうか?」
「少しの魔力…、これくらいですか?」
ボワッと膨れ上がった魔力の塊は3メートル程でこれでも十分な威力がある。これに属性がつけば兵器にもなりえる…。
「もっと少なくだ。これくらい、かな?」
そう言いながら作り出した魔力の塊は20センチ程度で1番ポピュラーな大きさだ。これより小さくするのは凡人でも難しいだろう。
「えっ!」
「まあ、少しずつ慣らしていこう。取り敢えずここじゃダメだ。外に行くぞ!」
「えっ……」
「婆さん、じゃあ今日も行ってくる!」
「はい、行ってらっしゃいませ」
流石にさっきの大きさのヤツを連発されてはこの屋敷がもたない。それにやはり森の方が慣れないことには向いてるだろう。
「今日は森にでも行ってその帰りに何かよって帰ろう。何がいい?」
「えーと…」
「まあ、帰りまでに考えてくれたらそれでいい。夕方くらいまでは森にいるつもりだから!」
まだ朝ということもあり人の多い大通り。小さなサチがはぐれないようにするには抱き抱えてやるのが1番なんだが流石に恥ずかしい年齢だろう。
「身分証をご提示願います」
「はい。これで大丈夫ですか?」
「結構です。確認しました、お通り下さい」
久しぶりに検問を受けた気がする。最近は塀を飛び越えたり翼で通過したり魔法で移動したりと門を通ることがなかった。
「入り込むか…」
大きな町なだけあり人の出入りも多い。サチのような膨大な魔力を扱う人がこんな場所で練習するなんて危険だからな。
「…………」
屋敷から出てきてからサチが無口になった。人見知りなのかな?
「ここら辺でいいかな?」
木々の密集度も上がって人の声はしなくなっていて、ノソノソと歩く獣達の影を見掛けるくらいになっていた。
「リョウさん、」
「ん、どうした?」
「な、なんでもありません!」
俯いていた顔を上げたかと思うとパッと後ろを向いてしまう。ホントどうしたんだろう。
「そうか…。まあいい。準備しろよ!」
疑似生命達を放ち周囲の警戒にあたらせる。そして上着を脱ぎ気に引っ掻けた。作れるけど汚れたくはないからな~。
「リョウさん…」
「始めようか?」
「はい…」
言って悪いが膨大な魔力を操ることができるサチが短時間で少ない量を操れるようになるのは不可能だ。と言うことでそれは後々練習するとしてまずは魔力の完全掌握だ。
「さあ、まずは魔力をマスターしてもらいたい!」
「魔力を?」
「そうだ。それもその膨大な魔力をな!」
「は、はい!」
恐らくは他の冒険者はその膨大な魔力を抑えさせようとしたのだろう。それは元々大きな魔力を持つサチにとって苦痛だっただろう。
「まずは大きな魔力球を作ってみろ!」
「はい!」
大きな、と言ったのは原因なのか作り出された魔力球は屋敷で作った5メートルを軽く越えた10メートルをも越す程の大きさで秘められた魔力は森の中でも無視できない面積を破壊し尽くすだろう。
「ならそれを分裂だ、」
自信ありげな表情で胸を張るサチ。その言葉を聞いた瞬間、自信ありげな表情は驚愕という表情に早変わりした。
「そ、そんなの…」
「出来ないじゃない。やるんだ!」
「そ、そんな~」
1度この形から変えようとしたこともあり魔力球は不安定になりその額には汗が滲む。
「魔力は小さな小さな砂でできてると考えるんだ。それも自由に簡単に動かせる。ならそれを固めるんじゃたくて割ってみればいい」
俺の中では魔力というのは小さな砂粒でそれは自由に動かすことができて理論を加えることで武器となりえる。この世界では魔力は魔力と考えるから難しいのだろう。
「きゃっ!」
「危ない!」
ドカーーンッ!
分裂させようとした魔力はバランスを崩し球から爆発へと変化する。咄嗟に驚いて固まるサチを抱き寄せたが爆発による余波は周囲の木々もろとも俺を小高い丘へと打ち付ける。
「だ、大丈夫ですか!?」
「あぁ。これくらいなら…」
爆発自体のダメージは皆無。しかし変なバランスで吹き飛ばされたこともあり背中を強く打ち付けてしまった。
「血、血が出てるじゃないですか!?」
デコボコとした岩壁にぶつかった俺の背中は見るに無惨な姿になっていて岩壁も俺の鮮血で染まっていた。
「大丈夫だって。心配すんなよ…。精霊魔法・広範蘇生」
効力自体が強いわけじゃないが広い範囲の痛感軽減と微力蘇生が傷への刺激を抑えてくれる。まあそれでも普通に痛いけど…。
「ごめんなさい…」
「だから泣くなって。魔法だぞ? それに大きな魔力だ。暴走するなんてよくあることだ」
「リョウさん…」
「さあ、続きをしよう。少しの時間も惜しいからな!」
小さな体で俺に肩を貸そうとするサチに笑みを向けると頭をポンポンと撫でて立ち上がる。ポカンとしたサチは急に我にかえるとカアッと顔を赤くした。
「リョウさん…、ホントに大丈夫ですか?」
「大丈夫だって。なんなら俺が見本を見せてやるよ」
指先に作られる直径5メートル程の魔力球。そこからドンドンと膨らんでいく魔力球は最終的に20メートル程まで膨張した。
「す、凄い…」
そこから4つに分裂した魔力球。それは俺達の周囲をクルクルと回りながら残像は輪を描いていた。
「魔力は自由自在に動かせる砂粒だ。それを集めたり爆発させたり動かしたり、少し動きを加えるだけどいい武器になる」
「………」
やがて4つだった魔力球はもっと小さく分裂していくと無数の魔力球へと姿を変える。そして全ての魔力球が俺の手中へと集まると直径10センチ程の白い魔力球へと姿を変えた。
「はっ!」
ドカーーーーッ!
「~~~~」
「魔力は集めたり、動かしたり、爆発させたり…、言った通りだろ?」
「は、はい…」
「まあここまでとは言わない。頑張れよ!」
「はい!」
魔力というのは教えていてできるものじゃない。実際にコツを掴まなければ意味がない。そんなこんなで日が傾くまで練習を続けていた。