第114話
「グキャッ、グキャッ!」
観念したのか炎に閉じ込められたゴブリン達は術者である俺、そしてその仲間であるティナへと一斉攻撃を仕掛けてくる。まあ、無意味だがな!
「闇魔法・命ノ腐火。燃え尽きろ!」
ボンッと頭から黒い炎が燃え上がるゴブリン達。対象の魂を使い燃え上がらせる黒い炎はジワジワと対象の寿命を削っていく。
「リョウ兄エグいね~。精霊魔法・蔦縛」
俺の方を見ながらティナが発動した魔法。周囲の木々を含めた草花から伸びた蔦はゴブリンの動きを完璧に拘束した。
「ん!」
その蔦は拘束するだけに飽きたらず頑丈な蔦がゴブリン達の体へと食い込んでいく。そして…
グチャッ、
蔦がピンっと張ったかと思うとゴブリン達の体は蔦にバラバラにされてしまった。ティナの魔法、恐るべし……。
「リョウ兄どう? 強くなったでしょ!?」
「そうだな。これなら頼りにできる!」
「ふふっ、ティナ頑張るから!」
その声と共に放たれた矢は鋭く空気を切り裂き1番遠くにいたゴブリンの眉間に突き立った。
「随分練習したのか?」
「魔法だよ。風で軌道と勢いを調節してるだけなんだよね~」
「凄いな。魔力操作に関しては負けるかもしれない…」
飛び掛かってくるゴブリンの頭を片手で握り潰すとその残骸を他のゴブリンへと投擲する。
「そんなことないよ。ティナはそんなに多くの魔力なんて操れないから…」
「そうか。それぞれ得意分野があるのかな、」
元々馬鹿げた量の魔力を保有している俺なら魔力を大量に操るなんて容易いことだ。しかしこの世界の常識に乗っ取った魔力量しか保有していなかったティナ達からすれば至難の業なのだろう。
「リョウ兄、それにしても多すぎない?」
「そうだなあ。上位種がいるのかもしれないな?」
襲い掛かってくるゴブリン達を片手まであしらいながら周囲を見回すが怪しそうな奴はいない。いや待てよ。横穴の奥に潜んでいるんじゃないか?
「ねえリョウ兄どうするの? このままじゃ流石に……」
「炙り出す! 火炎魔法・炎龍裂頭」
俺の手から放出された炎達はやがて真っ赤な炎龍達と化し横穴へと一気に突っ込んでいく。
「殺れ! 爆!」
ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、
ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、
なり響く爆発音。行き止まりへと行き着いた炎龍は体を全てその一点へと集めると一気に爆発へと姿を変えた。どこ横穴からと煙があがるのがその証拠だな。
「グ、グギャギャァァ!」
「お出ましみたいだぞ?」
「だね。どっちがやる?」
「譲ろうか?」
「いいの?」
「あぁ!」
「ならお言葉に甘えて!」
美しい翡翠色の髪が月光に煌めく。血を求めるかのような赤眼がキッと見開かれたかと思うと3本の矢が目にも止まらぬ早さで飛んでいった。
「グギャギャァァ!」
「ふうーん。効かないって?」
流石上位種で統率者。そのスピードや能力は他の個体とは格が違っていた。
「グギャ、グギャァァ!」
「精霊魔法・鋼葉草。少し弱いかな?」
振り下ろされた棍棒はティナの作った鋼の葉に遮られ全くの効果をみせない。と言うかティナの精霊魔法強すぎ…。
「グギャッ、グギャッ、グギャギャァァ!」
「だから何度しても同じ。精霊魔法・変鋭蔦」
グサッ!
逆上してその鋼葉へと何度も棍棒を振り下ろす所へティナは新しい魔法を叩き込んだ。急に鋼葉から鋭い植物が伸びて一気にゴブリンの上位種を貫いてしまった。
「グギャァァ……」
「早くお眠り。精霊魔法・致死毒」
貫いた蔦の1本が紫に染まり上位種の体へと毒がまわる。それと共にまだ光を保っていた目から光が消えた。
「凄いなティナ。俺がいない間、何があったんだってくらい強くなってるじゃないか!」
「へへっ、リョウ兄に会いたくて頑張ってただけだよ!」
「嬉しいことを言ってくれるじゃないか!」
照れたように笑うティナを抱き締めた。ボスを殺されたことでゴブリン達は散りここには俺達2人しか残ってしなかった。
「リョウ兄こそ、魔法の完成度は上がってるんじゃない?」
やっとティナを解放し血で汚れた自分の服を拭いているとふとティナがそんなことを呟く。
「そうかな。まあ闇属性が増えたからレパートリーはザッと2倍になったな!」
「そうなっても操りきれないのが普通だよ。それをちゃんと使いこなせてるリョウ兄って実は凄いんだよ?」
「んー、実感がないな。ティナもリリスも魔法に関しては俺と同等、もしくはそれ以上だからな~」
「ティナ達が異常なんだと思う…」
「そうか。まあ、そうかもしれないな…」
夜にわざわざ森まで出向いて魔物の群れを壊滅させるなんて普通の思考じゃまずしないことだ。ここからも俺達の異常性か垣間見えるのかもしれないな。
「ねえリョウ兄、帰るの?」
ゴブリンの殲滅も終わり本当なら今から帰っても全くの問題はない。しかし折角2人っきりの夜なんだ。こんな血の臭いがする場所じゃないところがいい。
「いや、少しついてきてくれるか?」
「う、うん」
ここは少し高めの丘になっていた。その下には大きな草原と巨大な渓谷が広がり動植物がバランス良く共存している。
「ここだ、」
そこからその下に広がる大自然が見渡せ、遠くの山々までもが視界に映る。夜を羽ばたく小さな鳥達のさえずりが美しく聞こえた。
「綺麗……」
「っ!」
「どうしたの?」
風になびく髪とそれを手で抑えようとする姿。なんでもないことなんだが緊迫した戦闘の後のせいかよりドキリと胸にくる。これに月でもあれば最高に映えるのだろうが……。
「なんでもない。相変わらずだなと思ってな!」
「相変わらずって何よ!」
「相変わらず、綺麗だなって!」
「っ!」
流石にこの言葉は予想出来なかったのか闇夜でも分かるくらい赤くなったティナは顔を伏せてしまう。
「なあティナ、」
「ん?」
「2度と離れたくない。けど、確実に約束するなんて不可能と知った。お前ならどうする?」
「………。ティナなら何度でも追いかけてあげる。何をしてでももう一度会いたいから!」
「………。ありがとな!」
この深い闇夜に俺は感傷に浸ってたようだ。今回の件、もしリアス達が追いかけてきてくれなければ2度と会えなかっただろうからな。
「そろそろ帰ろっか?」
「そうだな。闇魔法・影移動」
そうしてブラックアウトした視界。宿へたどり着いた俺達はその日は遅かったこともありすぐさま眠りにおちた。
「さあ、ティナは今日どうする?」
「自分で依頼受けてくるよ。1日でもリョウ兄とずっと一緒にいられたから!」
「そうか。いってらっしゃい」
「うん!」
昨日のこともあり色々な感情を払拭できたのだろう。ティナは元気な声でそう言うと1人ギルドを出た。当然リアスとリリスは2人で今日も騎兵達をボコボコにしに行ってるんだが…。
「なあ兄ちゃん。リアスさんの彼氏ってのは本当なのか?」
「あ、ま、まあな」
「そうか……」
あまりにションボリした表情を見せる若い冒険者。他のある程度経験を積んだであろう人達はヤレヤレといったような表情を浮かべていた。
「アイツら、馴染めてよかった」
とは言えそんなことはどうでもいい。差別対象であったリアスがこんなにもギルドの皆の人気者になれたのなら…。
「さあ、行こう!」
俺も自分の仕事をこなすとしよう。ティナに負けてられないしな!