第107話
「くぅぅぅ。どこか安心!」
「リョウ兄がいるからじゃない?」
「そっか。そうかもね!」
町中を歩いていると上機嫌な2人がそんなことを話していた。ここは町の中でも魔族の町なのか四方八方魔族だった。
「なあ兄ちゃん、その娘達奴隷だろ?」
「貴方は?」
「俺はここ周辺を仕切ってるデクス様の部下だ。早速だがその娘達を寄越せ!」
「あっ!?」
「どうやら分からないようだなあ。兄ちゃん、もう一度だけ言う。寄越せ!」
「断る」
「そうか。なら死ねや!」
ポケットに手を突っ込んだ男。その行動とポケットの変形具合からポケットの中身はナイフ。なら手加減は必要ないな!
「………」
「なに!」
ナイフを俺目掛けて突っ込んでくる男。手首に指を添え関節を縦に砕くとナイフを奪って地面に踏みつけた。
「弱いな。こんな成人もしてない奴に負けるんだな!?」
最高の皮肉を込めながら放った言葉。当然イラッとした男は逃れようとするが肩甲骨の中心を思い切り踏みつけられている男は微動だにできない。
「ぐぅぅぅ……」
「もう来るなよ!」
踏みつける肩を縦にグサッと切り裂くと俺はその男をその場に残し先を歩いた。ナイフは男の腕に突き刺して…。
『変わらないね~』
何故か全員に全く同じことを言われた。まだマシになってるつもりなんだがな…。
「取り敢えずは内門を越えるんだよな?」
「その方がいいでしょ?」
「まあな。何かあるかもしれないしな!」
そう言いながら歩き続けること数十分。高く聳える塀が見えたかと思うと多きな門が見えてきた。
「まるでここが入り口みたいだな…」
「ある意味入り口でしょ?」
「確かにな。まあいい。入ろう」
大きな門がまるで俺達を迎え入れてくれたようだ。とは言え初めての町だ。油断は出来ない…。
「凄い…」
門を抜けると中には外と別格の近代的な町並みが広がっていた。そこには20メートルを越える建物達が並んでいる。
「凄いな。3人共いるな?」
「大丈夫だよ~」
横目で振り替えるとそれぞれがしっかりとついてきていた。しかしその表情は若干固い。さっきのことで警戒してるのかな?
「なら3人共、ここに入って良いかな?」
そこは真っ白な大理石の柱がベースの美しい建物。しかし扉の隣に書かれた名前には良い思い出がないな。
「ギルド…」
「そうだ…」
「行かなきゃ、ダメ?」
「まあな。リリスのギルドカードは作ってなかったからな~」
「あっ、そう言えば!」
「行くぞ!」
カラン、カラン、
入った直後…、何も無かった。
今までの経験上何かあるかと構えていたのだが特に変わったことはなく活気のある良い雰囲気が建物内を満たしていただけだった。
「初めてだね…」
「あぁ。安全な所で良かった…」
ギルド内にいる冒険者達も刃の部分には白布を巻き、酒場は空いてるものの誰一人座ってる者はいない。
「ようこそおいで下さいました。御用を承ります」
「えーと、連れの冒険者登録をしたいのですが?」
「承りたまわりました。御登録する方は何方ですか?」
「こちらの…」
「リリスです!」
「承りました。それではコチラの石盤に手を翳して下さい」
「えーと、これでいいんですか?」
ほーう。魔族の大陸では魔力集中。人間の大陸では適量の血液。各地方で製作法は違うらしいな。
「ありがとうございました。それでは作成に取り掛かりますので少々御待ちください」
そう言いながらギルド裏へと移動する受付嬢。暇潰しに石盤を鑑定してみると…、
「ぅっ…」
「どうしたの?」
「いや、なんでもない…」
鑑定した瞬間、あらゆる情報が頭の中へ流れ込んできた。ゆっくりと解析を繰り返せば理解出来る筈なんだが一瞬で理解しきることは出来なかった。
「御名前はリリス・ハーディングさんで間違い御座いませんか?」
「はい!」
「それではギルドカードになります。御確認下さい」
「はい。間違いないです!」
「製作費用は無料となっております。しかし2度目からは製作費用1000Gが必要となりますので御了承下さい」
「はい!」
「またのご利用を御待ちしております!」
接客用の微笑みを見せる受付嬢。手を振りながらギルド内のカフェへと移動すると珈琲を注文し、腰を下ろす。
「やった。私もこれで冒険者!」
「ふっ、そこまで喜ぶか?」
「だって~。いつでもスキルを見ることが出来るのよ?」
「まあ、そうだが…」
これで全員がギルドカードを所持することとなった。と言うことは必然的に冒険者収集に応じる使命が出来たということ。
「いいよね、これ。スキルが変わるとこれも変わるんでしょ?」
「あぁ。俺はよく変更されるからな~」
「リョウ兄は固有スキルが多いからね~」
「そうなの?」
「あぁ。今は計7個だったかな?」
「…………」
「…………」
「増えてない?」
「増えてる…」
「どうして?」
「リリスの父さんから貰った…」
「いつの間に!?」
「まあまあ。気付いてなかったのか?」
「うん…」
実は貰ったわけじゃなかった。シリュウさんと勝負した時、無断で奪った物だった。その後、代償としたものだ。
「それはそうと3人共、何か依頼を受けたいんだが何にする?」
「何って?」
「色々あるだろ。そろそろ資金も心許ないからな!」
「そっか。じゃあ手分けしてやってみる?」
「んー、大丈夫か?」
「私達のこと甘く見ないで!」
「………。分かったよ。なら各個人で依頼を受けて夕方にはこのギルドへ集合。そこで報酬を統合。こんな感じでいいか?」
『うん!』
「なら個人で依頼申請しに行こうか。じゃあ夕方な!」
と言うことで俺は先に席を立つと依頼ボードへと移動する。出された珈琲片手に依頼ボードの前で物色していると様々な依頼の中に目を引くものを見付けた。
「戦闘指導か…」
報酬は1日10000Gと高額。Fランク冒険者程まで育てればいいという簡単契約だ。
「これにしよう、」
パッと魔法か何かで貼り付けられていた依頼書を手に取ると受付まで持っていく。その時の周囲の反応が少し気になるが…。
「貴方は先程の……。あっ、すいません。御用を承ります」
「あ、はい。この依頼を受けたいのですが?」
「了解しました。それでは依頼主様の住所はコチラになります。それでは行ってらっしゃいませ」
ふぅ。やるかな。
屋敷は町の中心の方にあるらしい。この世界の数字表記は十二支なので大体の位置は掴めるかもしれない。
「それにしても豪華な所だな~」
少し進んだ依頼主の屋敷があるという地域には大きめの屋敷が建ち並び、純金の装飾が屋根の所々に施されている。
「ここを…」
受付嬢に渡されたメモ片手にこの豪華な住宅街をウロウロとしていた。すると分厚い装甲を纏い巨大な矛を持った騎士達が俺を取り囲んだ。
「そこの者止まれ」
「はい…」
「ここは魔族派貴族様達の住宅地であるぞ。怪しい者だ。御同行願おう」
「少し待ってください。俺は依頼で…」
「依頼だと?」
「はい。ギルドで受けたんですけど…」
「依頼書はあるか?」
「すいません。依頼書はギルドに預けてあるのです」
「そうか…。ならば通すわけにはいかん。我々はこの場所で待つ故、依頼書を持参せよ」
「………。分かりました」
マジか…。
面倒だなぁ。こことギルドの距離はザッと5キロはある。その距離をまた来るのかよ…。