第106話
「そろそろ起こしに行かないか?」
「だね。流石に起きないとね~」
少しだが外の通りにも人の気配が出始めて、街自体が目を覚ましている。そんな中、2人は恐らく夢の中。早めに起こさないと昼まで寝てそうだ。
「起きてるか起きてないか、どっちだと思う?」
「それは当然、」
『起きてない!』
「だよな。開けようか?」
「うん」
2階の扉に上がってくると中からは朝にも関わらず不思議なくらい物音が聞こえない。絶対に寝てるな…。
コンコン、
一応ノック。しかし中からは返しのノックも返事も無い。
「入るぞ」
そう呼び掛けながら入ると中ではリアスとリアス2人が仲良く布団を被っていた。無防備な姿で眠る2人はなんとも目に毒だ。
「ねえ2人共起きなよ。もう朝だよ!」
「んーー、もう少しだけ~」
「ダメだよ。もう早く!」
その声にリアスは寝返りをうって布団にしがみつくが、その隣のリリスは目を覚ましたのか起き上がり目を擦る。
「起きたか?」
「うん。おはようリョウ~」
「おはよう。随分仲良くなったな!」
「まあね。リアスさん良い人だし!」
「ふふっ、お前達が仲良くなってくれて良かった…」
そうこうしているとティナが何をしたのかリアスを起こしベッドに座らせていた。軽く凄ワザだな…。
「リョウ兄、リアス起こしたしティナ達は先に降りとこ?」
「そうだな。リリス、俺は先降りとくがいいか?」
「うん…」
「そんな顔するなって。絶対離れないからさ!」
「んっ…」
悲しそうな顔をするリリスの頭を抱き寄せると軽く頬にキスをした。機械的な見解になるが確かに2人がいることでリリスと2人っきりってのも無くなってしまうことを意味する。それはリリスにとっては悲しいことだよな…。
「じゃあな。先行くぞ」
「うん!」
頭をポンポンと撫でると部屋を出る。一瞥したティナの表情は複雑そうだった。
「ティナも、そんな顔するなよ?」
「分かってるもん!」
困ったなあ。リリスには意外と進展してたりするんだがティナ達といた時はそこまでする勇気が無かった俺。だからまだそこまで進展してなかったんだった…。
「だからそんな顔するなよ…」
「だって…」
「キス、したからか?」
「そ、そんなこと‥‥」
「ほーう…」
隣でションボリと歩くティナの肩を持つと壁に押し付ける。そしてまだ人である手で顎を持つと目線を合わせた。
「…………」
静寂の中見詰め合う俺達。真っ赤な瞳が心なしか輝いているようだった。
「ふっ、」
「………」
手を離すと俺は先に歩いた。少し驚いたような顔をしたティナは俺の手をパッと掴んだかと思うと直ぐに離した。
「期待したか?」
「意地悪…」
「ふふっ、また今度な!」
下に降りた頃には少し気まずくなり掛けていた空気も消えていた。
「それにしてもリョウ兄、リリスさんとどこまでしたのよ!」
「そうだな~。キス、くらいかな」
「っ!」
ボンッと顔を真っ赤にしたティナは後ろを向くと暫くの沈黙が続いた。
「ふふっ」
「どうして笑うの!?」
「直ぐに赤くなったり、可愛いからな!」
「か、可愛いなんて…、そんなこと…」
「あるさ。それよりも腹減らないか?」
「えっ、あ、うん。お腹減ったね」
「『等価錬成』。好き、だったよな?」
「覚えててくれたの!?」
「忘れるわないだろ?」
それはたっぷりの野菜やハムが入ったサンドウィッチ。いつかの朝、2人で食べてたな~。
「美味しい。あの時はリンちゃんが作ってくれたんだっけ…」
「そう言えばあの子も死んだんだったんだな…」
「………。やっぱりリョウ兄だったんだね…」
「あぁ。俺の目の前で死なせてしまった…」
「リョウ兄のせいじゃないよ…」
「分かってるんだ。瓦礫に埋もれていた。既に死にかけだったんだ…」
「だから結界を?」
「あぁ。瓦礫に埋もれたりしたら嫌だからな!」
「やっぱりリョウ兄だね!」
「ん?」
ニコニコしたティナは俺の横へ来るとちゃっかりもたれ掛かってくる。
「…………」
「…………」
ニコニコしたままのティナ。婆さんもまだ来ていない。その頃、階段を降りる音が聞こえた。
「て、お前かよ!」
「どうしたの?」
降りてきたのは例のバイトハウンド。炎属性で作った奴だから真っ赤な毛並みなのだがそんな荒々しさは微塵も感じないくらいだらけている。
「ガウッ、ガウッ!」
寄ってきたバイトハウンドは撫でろと言うように頭を押し付けてくる。仕方がないので撫でてみると嬉しそうに尻尾を振った。
「可愛いね!」
「あぁ。まあ、こないだ俺を襲った奴と思うとなんとも言えないがな…」
「襲った?」
「コイツは疑似生命だからな!」
「あー、魔晶の?」
「そう言うこと。生きてるみたいだよな~」
ガウッ、ガウッと頭を押し付けるバイトハウンド。真っ赤な毛皮に包まれていてこんなに人懐っこいがやはり魔物なんだなと思わせる。
「ふぁぁぁ。おはようリョウ」
階段を降りてきたのはリリス。銀色の前髪がピョコンと跳ねて明らかに寝起きって感じだ。
「おはよう。髪、まだ治ってないぞ?」
「え、ホント!」
「あぁホント。少し来てみろ?」
「うん!」
と言うことでティナと逆方向にリリスを招くとその銀髪へ触れる。
「火魔法・熱手。熱くなったら言えよ?」
「うん!」
できるだけ熱くなりすぎないように魔力を抑えながら魔法を使う。本来は触れて焼き焦がすような魔法なのだが威力を抑えれば日常で使えるレベルまで下がる。これも魔力操作を練習した賜物だな。
「はい治った。もういいぞ!」
「ありがとリョウ!」
「大丈夫だ。それよりリアスは?」
「リアスなら……まだ寝てる…」
「アイツは…、ホントになにしてんだよ!」
そう思い再び起こしに行こうかと席を立った時、
「酷いな~、リリスは。私はもう起きてるよ!」
「珍しいな!」
「リョウも酷い!」
警戒な足取りで階段を降りるリアス。そしてちゃっかり俺の座る隣を占領した。
「お前こそ酷い!」
「ふん! そんなこと言うから悪いのよ!」
俺の場所まで精一杯に手を広げて占領するリアスの襟筋を持ち上げるとコツンと頭を打つ。
「ふっ、」
「痛っ。酷いよ~」
「何が酷いだ。早く退けろ」
「んー、分かったよ!」
俺の手を振り払ったリアスはヒュッと俺の向かいまで移動した。それにしてもリアス…
「リアス、お前少し身のこなしが良くなったな!」
「分かる? 最近は戦い詰めだったから…」
「そうか。当分は戦いなんて止めような!」
「うん!」
「と言うことで全員揃ったわけだが、今日は何する?」
俺達に目的なんて無かった。俺はここを休憩所として寄っただけで、リアス達も俺を探してここまで来ただけ。と言うことは目的なんてない。
「私は皆でここを見て回りたい!」
「そうか。リアスは?」
「私も同じかな。ティナは?」
「同意見!」
「なら決定だな。一先ずは朝食だ!『等価錬成』」
まだ婆さんは出てきていない。俺達が食べたのと同じサンドウィッチのバスケットが机に並ぶ。
「なんでもありだね~」
「まあな。これを食べたら取りあえずはここを出よう」
「だね!」
「うん!」
「ん!」
「あと、婆さんが起きてくる前にな!」
「あのお婆さん、お酒すすめてきそうだしね!」
「ふっ、面白いこと言うじゃないか。さあ食べよう!」