第103話
「俺の大事な奴等に手を出すんじゃねえ!」
2度に収まらず3度も襲ってきたコイツらを許すつもりは毛頭無い。それに魔族であるリリスにも刃を向けたコイツらは俺の敵だ!
「我等に逆らうのは教団に逆らうのと同義であるぞ!」
「だからどうした。俺の大事な家族を傷付けられるくらいならお前達を殺してやる!」
「下民が、意気がるでない! お前も制裁対象だ。死ね!」
俺の後ろに控えるリリスは昼間の治療で腕が上がらない。そしてリアスやティナは動きが鈍くなっている…。
「ふっ、身体能力だけで十分だ!」
斬りかかる剣筋を少しズレルだけで避けると顎へ柄頭を打ち付ける。夜遅くに響く悲鳴には鈍い骨折の音も混じっていた。
「死ね!死ね!」
「無謀な攻撃は止めろ」
それでも斬りかかってくる奴等へは刃を浴びせた。真っ赤な鮮血が刃を染め俺の顔を濡らした。
「殺れ、殺れ! 教団に逆らう悪人に制裁を下すのだ!」
「ふふっ、久し振りの対人戦だ。楽しませてもらうぞ!」
さっきまでの悩んでいた自分が馬鹿みたいだ。この斬り合いの高揚感といえば類を見ないな。
「くっ、必ず天罰が下ると心得よ!」
いつの間にかあれだけいた信者達は斬り殺されるか気絶させられるかして全員が戦闘不能な状況になっていた。リーダーらしき男も既に逃げ腰で扉に手を掛けていた。
「逃がす筈あるわけないだろ。氷魔法・凍結」
「んっ!」
ボンッと放たれた氷の塊は瞬く間に男の後ろの扉を凍り付かせ、ドアノブに触れていた手も一緒に氷に取り込んでんしまった。
「終わりだ…」
バンッ!
久し振りのデザートイーグルの出番。
黒い銃身キラッと光ると火薬の香りと共に生臭い鉄の臭いが周囲を舞った。
「ぐっ…」
「今日は右肩だけ貰った。次はないぞ!」
右肩に穴の空いた男を扉と一緒に蹴り飛ばすとそれと同時に魔法を解いた。
「『等価錬成』」
扉、椅子、カウンター、壊れた物を全て錬成し修復すると刃の血を払いデザートイーグルをしまう。
「お前達、ゴメンな。万全じゃないのに対峙させて…」
「わ、私こそゴメン。何にも出来なかった…」
「リョウ…、ゴメン」
「ティナも何にも…」
「いいから3人共落ち込むなって。俺の汚点だ…。婆さん、酒と肉を頼む」
「あいよ。酒は樽でいいかい!?」
「あぁ頼む、」
値の高い夕食だな。大きな商売に張り切った婆さんはニコニコしながら受付の奥へと歩いていった。
「3人共、座れ」
テーブルを囲むように立ち尽くす3人。その顔に笑みはなかった。
「………」
「………」
「………」
「いいから座れ。立たせてるみたいで絵面が悪いだろ?」
「うん…」
「ん、」
「うん…」
なんとも暗いな。それぞれの罪悪感と初対面という悪条件。最悪だ…。
「お前達、大元である俺が大丈夫って言ってるんだ。その雰囲気は止めてくれ…」
「だって私、何も出来なかった…」
「十分戦えるのに…」
「構えるしか出来なかったから…」
「ふっ、お前達。ずいぶん仲良くなったじゃないのか?」
「っ!」
「っ!」
「っ!」
「これなら心配は無さそうだな!」
「私達、仲良い?」
「あぁ。充分に!」
「リアス、さん…」
「リリスさん…」
充分当事者の俺だが、一歩引いた第三者目線から見るとやはりこの2人が反発し合ってたのかもしれないな。さっきからティナは静観してるし…。
「対談中失礼するよ。これがビールの樽でこっちがワインの樽だ。そんでもってこっちが干し肉だい。金は出る時で構わんよ!」
「婆さん、ありがたい…」
「少しくらい煽てられんのかい。これは私が作った酒だ。良かったら飲んどくれ!」
「礼を言う」
持ってきてもらった物を改めて見ると圧倒される。俺達の座るテーブル丸々1つ分程の肉に樽が2つ。改めて請求が恐ろしい…。
「さあ始めよう。再会と出逢いの宴だ!」
「久し振りに飲むよからね~」
「私だって!」
「ティナもー!」
と言うことで始まった宴。なんだろうな。リアス達が生きていたんだ。今日は俺も飲むぞ!
「ふにゃぁぁ…」
「ふやぁぁ…」
「2人共弱いな~。私なんてまだまだだよ~!」
「ふにゃぁ…、そんなにゃことないって~」
「リョウ~兄~」
鮮血のような鮮やかな赤ワインを傾けていると隣に座るティナが膝の間にチョコンと座る。ホロ酔いのティナはそのまま俺に頭を預けるとニコッと俺に笑みを向けた。
「どうしたんだ?」
「久し振りに会えたんだもん!」
「ふふっ、可愛いなティナ。約束、やぶってゴメンな…」
「いいよ~。もう離れないでね♪」
ニコッとしたティナが愛しい。ギュッと抱き締めると俺の手を握る手。どこか懐かしいな~。
「ティナ~」
「リョウ兄~」
「ティナ~」
「リョウ兄~」
2人が酒で勝負する間、俺とティナは2人っきりの時間を過ごしていた。酒の混じったフワフワとした雰囲気ではそんな境関係無いかもしれないが…。
「それにしてもティナ、何があったんだ?」
「何がって、どうしたの?」
抱き締めてると分かる。触れていて伝わる魔力は前と比べてジリジリとした強さを感じる。
「何か変わったものでも食べたのか?」
「食べてないよ~。と言うかどうしたの?」
「強くなってるな~と思ってな!」
「そうかな~。変な夢は見たけど~、何にも無かったよ~!」
「そっか~。まあ、気になっただけだけどな~」
感じた魔力は確かに強かったが気にする程じゃないだろう。今はそんなことよりも久し振りの酒盛りを楽しもうじゃないか!
「くぅぅぅぅ。ウマイ!」
「リョウ兄、さっすが~!」
蓋の割られて樽にジョッキを突っ込み直接ビールを満たす。宿内にはアルコールの強い香りが充満していて戦闘とは違う高揚感が体を震いたたせる。
「ティナはもう飲まないのか?」
「ビールもワインも苦手だから~」
「そうか。ならこれはどうだ?」
大量の肉と酒。そしてそれらが濃い旨そうな匂いを発する中、それだけは静かにテーブルの上に置かれていた。
「それって~、お婆さんが作ってるお酒だよね~?」
「色的にはどっちでも無さそうだぞ?」
「だね~。一緒に飲もっか?」
「だな!」
と言うことで残っていたジョッキの中身を飲み干すと、婆さんの酒瓶と一緒に置かれた酒椀を手に取る。
「ティナが注ぐ!」
木製の酒椀に透き通った薄い紫色の酒が注がれる。その香りは葡萄のような甘さを感じるがそれと共に声を出すときのような魔力を感じた。
「次は俺だな!」
同じようにティナの酒椀へと酒を注ぐとやはり葡萄のような香りを感じた。ワインっぽいのか?
「綺麗…」
「乾杯だ」
軽くコツンと酒椀同士をぶつけるとクッと酒を飲み干す。度数は30%程。予想通り葡萄のような香りだったのだが、その他に不思議な味を感じる。それに魔力の量が異常に豊富だ。
「美味しい~」
「ティナは好きか?」
「うん。無茶苦茶飲みやすいよ!」
「確かにな。魔力も多いし魔法を使う者としては回復薬だな!」
再び酒を注ぐとグッと飲み干した。ヤバい。クセになるな…。
「ねえ2人共~、いい雰囲気じゃないのよ!」
「ねえリョウ。私はもういいの?」
いつの間にか俺の周囲へと集まってきていた2人はそう言いながら絡んでくる。横目でリリス達がいた方向を見ると樽が1つ転がっていた。
「2人共飲み過ぎだ。もう寝ろ」
「んー、分かったよ~!」
「リアス行こっか~!」
2人とも完璧に酔ってるな。肩を組み合い階段を登る姿は酒飲みそのものだった。
「ねえリョウ兄~。2人っきり~♪」
席に戻っても軽く酔ったエルフが1人俺に甘えてくる。夜はまだまだ長そうだな!