第102話
「やっぱりリョウ兄、リアスの方がいいんじゃない…」
抱き締めたあと、なんとも気まずいながらも照れていると隣で不貞腐れたような言葉が聞こえた。まったく、分かってないな~
「んな分けないだろ。俺にとっては2人共大事なんだよ!」
「だって…、リアスだけ…」
「ホント分かってないな。愛しのティナっ!」
「っ!」
「おっと……」
「リョウ兄…」
「寂しかったろうな。約束、破ってゴメンな…」
「いいの。また会えたからっ!」
抱き締めたティナの瞳には涙が見えた。意図的ではないとはいえ、2人には悲しい想いをさせたな…。
「ん~~~! ティナだけズルい!」
「んっ! リアス、バランス崩すっ!」
「大丈夫大丈夫。リョウなら大丈夫!」
前から飛び付いてきたリアス。片足を後ろにしてバランスを保った、けど危なかった。今度は俺の番だな!
「ふっ、次は俺の番だよな!」
体に魔力を巡らせ黒い翼を具現化させる。そして一飛び。2人を腕に抱えたまま空高くまで飛び上がる、
「凄い!」
「リョウ兄、それ……」
やはり先に気付いたのはティナ。黒く舞う翼は人では有り得ない代物だ。
「気付いたか?」
「リョウ…、てっ、翼!」
「あぁ。少しあって種族も変わっちまった。お前達を置き去りにして種族まで変わっちまった、この俺についてきてくれるか?」
「っ! ふふっ、当たり前でしょ!」
「ティナ達はその為に来たんだから!」
「………。ありがとな2人共!」
沈む夕陽が空を焦がす。紅く染まった夕空は言葉に表せないほど美しく再会の喜びを体現しているようだった。
《で、連れて帰っていいの?》
《あぁ。俺はどっちも選べないからな…》
《それを弱いって言うんだよ!》
《…………》
宿への帰り道。
リアス達2人と歩いているとポンッと急に現れた裏背が話し掛けてくる。
《僕が言うのも悪いけど、君は人を同時に愛することは出来ないと思う。そんな中、君はこの娘達全員をしっかりと見てあげることはできるのかい?》
《………》
《自分を知るのは難しいと思うよ。けど君の分身である僕にはよく分かる。君は平等に扱うことは出来ない。よーく考えるんだね!》
そう言い残すと裏背は現れた時と同じようにポンッと消えた。心に残る意味深な言葉を残してき……。
「…………」
隣で寄り添うように歩く2人。俺より少しずつ小さい2人。俺は平等に同じように扱ってるつもりなんだがな……
「ん、どうしたの?」
振り向いたリアスと目が合った。リアス、お前だけには何も隠したくない…。
「いや、何でもない…」
「そう…」
けど無理。そんなこと言ったら怒られてしまいそうだ…。
「2人共、ここまでどうやって来たんだ?」
「えーとね~~、忘れた!」
「あの町から港町まで直行してから素材を売って船で来たんだよ!」
「そっか。分かりやすい説明、ありがとな!」
「うん!」
「んー、それって私が分かりにくいみたいじゃない!」
「そうだろ。忘れたって…」
「んーー!」
「ほら着いたぞ。俺の後ろを着いてこいよ!」
『うん』
黄昏時の空が沈むと共に俺を押す。扉が重く感じた…。
「おかえり、リョウ…」
中へ入るとリリスが受付へ隣接される粗末な酒屋に座っていた。カウンターに座り傾けられたグラスには透き通るような桃色のカクテルが入っていた。
「ただいま…」
「座る?」
「あぁ。お前達も来るか?」
『……うん』
と言うことでリリスの隣は俺。そして俺の隣へ2人が並んだ。
「その人たちがリョウの?」
「そうだ。こっちがリアス、奥がティナだ」
「そうなんだ……」
なんとも複雑な表情でグラスを眺めたリリスの目は潤んでいた。しかしそれが分かるのはリリスに一番近い俺だけ。
「ねえリョウ、その人は?」
「そうか。リアス達には話してなかったな。俺と一緒に旅をしてるリリスだ」
「リリス……」
「ふぅ。テーブルに移動しないか。話しにくい…」
「私はいいよ、」
「私も…」
「右に同意…」
それぞれが良いといってくれたので後ろのテーブルへと4人で移動する。言葉がない緊迫した空気が俺達を包む。
「それぞれが自己紹介といかないか?」
「ん、分かった。なら私から!」
「ならリリスから時計回りだな!」
「ん。私はリリス。リョウの仲間で魔族です」
「次は私。私はリアス。リョウの家族で獣人です」
「最後はティナだね。リョウ兄の家族でエルフです!」
「自己紹介はできたようだな…。取り敢えずは何か頼もうか?」
「ねえリョウ。先伸ばしは止めて…」
「ん、分かった…」
《うわ~、大変だね~》
《出てくるな》
《嫌だね~。それにしてもこれを修羅場って会うんだろうね~》
もう無視するしかないな。それにこんなのに構ってたらホントに修羅場になってしまう…。
「リョウ…」
「リョウ…」
「リョウ兄…」
「……。ふぅ、単刀直入に聞こう。リリス、2人がいても俺についてきてくれるか?」
「私はリョウについていく!」
「ん。2人もリリスがいてもついてきてくれるか?」
「当たり前だよ!」
「リョウ兄についてく!」
「3人共、ありがとな…。俺は部屋をとってくる。今夜だけは3人、一緒に入ってくれるか?」
「ん、分かった…」
「私も」
「右に同意!」
流石にこの状況下で誰か1人と同じ部屋なんて修羅場を産み出しかねない。受付のガリガリのお婆さんはさっきと何も変わっていなかった。
「すいません。部屋をもう1部屋借りたいのですが?」
「これが鍵だ。お前さん、囲いすぎるなよ!」
無愛想に鍵を渡されると俺は1人部屋へと向かい自分の荷物を新しい部屋へと移す。そこには既に裏背が座っていた。
《だから言ったのに》
《仕方ないだろ。俺に誰かを捨てろと?》
《そうさ。僕にはリアスって娘達を追い出せば丸く収まるんじゃないかなと思うんだけど?》
《2度と口にするな…》
《わ、分かったよ…》
こないだの比じゃない程の魔力を込めた刃をその首へと近付ける。俺には誰1人捨てられない。
《アイツらが複雑な気持ちなのは分かる。だから俺は何も言ってやれない…》
《君は悩みすぎだ。あの娘達の気持ちを君は理解しきれていない》
《………》
《君が自分以外を囲うのも少なからずあるだろうが、その他にあの娘達の胸には引っ掛かっているものがある。それを見付けられなければ君は誰かを捨てなければならない!》
《なんなんだよ! お前は何が分かる!》
《君のように冷静を欠いた人間には分からないことだ! 冷静になるんだね!》
そう言うと散々俺の胸を掻き乱した裏背はスッと消える。やはり俺はアイツが嫌いだ。
「まったく……」
しかしアイツの言ってることは強ち間違っていないのかもしれない。俺の中で今始めに思い浮かぶのはリリスだし、その理由さえも理解できる。しかしこれが変わらないという断定は出来ない。やはり等しく見てやることは出来ない、のか…。
「行こう…」
長らくあの3人をそのままにするなんて不可能だ。この俺不在の時間が吉とでるか凶とでるか…。
「なあ3人共~」
階段を下りるとテーブル側に3人がそれぞれ日緋色の武器を手に入り口側の大勢の人と対峙していた。
「リョウ、この人達さっきの…」
「魔族合同統団である!」
「そうか…」
リーダーの隣で堂々と俺達を見下す感じで言い放つ男。余程首が要らないと見えるな。
「なにをするか!」
「死ねよ!」
濃密な魔力に輝きを増した大太刀をその首へ当てると一気に切り下ろした。