第100話
「ここがシアミドルか……」
港の出口で集合しようと言われたので待っているとボロボロの建物が視界に入る。
「ん、子供を連れてきたぞ」
首襟を持たれたエリはポイッと俺達の方へ投げ飛ばされる。まあそれも俺達が取れるように投げた所、優しい人なのだろうな。
「ありがとうございました」
「礼はいい。俺も久し振りで新鮮だった」
「ありがとうございました」
「…………」
無言で立ち去る兄ちゃんの後にはバットで引き摺った跡が残っていた。
「リョウさん、揃いましたよ」
「ん、藍夏もいるな?」
「はい、私はここです!」
「分かった。なら行こう」
と言っても何処へ向かうかなんて決まっていない。取り敢えずは町の中心へ向かおうと思っているが……。
「リョウ、折角だから帝都まで行かない?」
「帝都?」
「うん。各種族のトップ達がいるところ!」
「首都ということか?」
「そう~だね。どうする?」
「優司達は?」
「僕達は人間の所へ行きたいのでついていきます!」
「ん、ならリリス、案内を頼めるか?」
「勿論! その代わり~」
そう言いながら隅の方から出る時、リリスはポンと俺の背中を押したかと思うと腕を組んでくる。
「ん?」
「いいでしょ?」
ニコッと笑いかけられると拒否できない。まあ拒否するつもりなんてなかったけど……。
「んっ!」
「誰かな?」
この雰囲気を壊す者有り。前例通り制裁を下そうかとしたが相手の次の言葉で止めた。
「忌み子が!」
「………」
「リョウ、どうしたの?」
「行こうリリス、」
「ま、待てよ!」
先を塞ぐ男共を無理矢理突破しながら先へ進む。男達のしたことは仕方なかった。常識、なのだから……。
「リョウらしくないね?」
「俺の右目は魔眼だ。これを忌み嫌うのはこの世界の常識だからな…」
「リョウには関係無くない?」
「郷に入れば郷に従えと言うだろ?」
「…………」
「やはり必要だな…。『等価錬成』」
懐かしの眼帯が手の中へと現れる。シリュウさんに切り裂かれた眼帯だった。
「それ……」
「初めて2人で出掛けた時は着けてたっけな、」
武人と言うことで眼帯は鉄製で、銀色に輝いている。久し振りに着けてみると視界が狭いな……。
「………」
「ん、どうした?」
俺が眼帯を着けるとリリスはガッカリしたようなションボリしたようか顔をしてギュッと手を握る。
「私、リョウの右眼好きだよ…」
「っ!」
「真っ赤で…、まるで……」
「ん?」
「リョウ自身みたいだから!」
「ふっ、そんなこと、言ってくれたのはお前だけだ…」
本当に嬉しかった。この世界で嫌われる筈のモノを好きっていってくれるなんて…
「リョウには私がついてるから。そんなこと気にしなくていいよ!」
「ありがとな、」
確かに俺は目に見える形、では幾度となくリリスを救ってきたかもしれない。しかし、俺もリリスに助けられていた。見えない、しかし確実な形で…。
「ここから行けるのか?」
リリスの案内へ従い進んでいたなだがなにぶん来たこと無かったようで俺の中では不安が抜く拭えなかった。と言うことで標識等を頼りにしながら来たのだがそこには茶色い扉が無数に並んでいた。
「んー、シアミドルにしか無いらしいから良く分からないだけど、魔力を流せばいいらしいよ!」
ほう。と言うことは俺が魔晶にするようなと同じようなことをする人がこの世界にいるということか。そいつは、天才だな……。
「ほう、これは誰でも使っていいのか?」
「いいんじゃない?」
「ん、そうだな!」
と言うことでドアノブへ手を掛け勢い良く開ける。するとその向こう側には活気ある町並みが見えた。
「す、凄い…」
「行こうか!」
扉を通り抜ける時、変な感覚が体を襲った。この機械の副作用なのか?
「本当に通れた……」
「さすが帝都。賑わってるな~」
扉の先には沢山の人々が道に溢れるザ・都市って感じの風景が広がっていた。取り敢えずは宿を見付けたいのだが…
「リョウ……」
「ん、」
俺の後ろへ隠れたリリスはギュッと手を掴んで俺を離さまいとしがみついてる。
「っ、」
「苦手か?」
「うん……」
「はぁ、仕方ないな。離れるなよ?」
「うん……」
右腕にリリスを抱えると人混みを掻き分けながらどこか入れそうな建物を探す。本当はゆっくりと宿を探したかったんだが……
「ここでいいか、」
《あっ、君!》
急に裏背が出てきたのにも驚いたが扉の先はもっと嬉しくも驚く事象が広がっていた。
「宿?」
「そうみたい…」
「優司達もいるか?」
「はい。藍夏ちゃんは?」
「いるよ。リョウさん、エリちゃん連れてきました!」
「ん、ありがとう藍夏。エリも、おいで!」
「ん~~~!」
「よっと。久し振りだな~」
「お兄さん~」
「同行させるって言ったのに構ってやれなくてゴメンな…」
「大丈夫!」
「ふっ、偉いな」
無邪気な笑みを浮かべるエリの頭にポンポンと手を置いた後、その体を肩へ乗せた。手に抱えてやってもいいが肩の方が楽だ。
「久し振り~」
「ご機嫌だね。エリちゃん」
「お姉さん、最近お話できなかったから!」
「たった3日でしょ?」
「されど3日!」
「2人共止めろ。店員がいるぞ、」
「~!」
「何人だい?」
「5人です」
受付に鎮座するのはガリガリのおばあさん。しかし不健康というわけでなく普通に細いだけに見える。
「何部屋だい?」
「2部屋です」
「これが鍵だ。張り切り過ぎるんじゃないよ」
『っ!』
『っ!』
俺とリリス、優司と藍夏はそれぞれを横目で確認しただろう。そしてそれぞれの視線が交差してしまった。これは……、恥ずいな。
「どうしたのお兄さん?」
「い、いやなんでもない。行こうか? エリはどっちにする?」
「お兄さんと!」
「ん、リリス行こうか。優司もこれが鍵だ、」
と言うことで半分押し付けるような感じで鍵を渡すと俺達3人は部屋へと急いだ。
カチッ
鍵が開いた。中は若干埃が残っているがマシな方だな?
「お兄さん、私、優兄のとこ行ってきていい?」
「あぁ、良いぞ。行ってこい!」
「やった!」
「あとエリ、俺達は出るって伝言を頼む!」
「分かった~」
バタンッと閉まった扉から目を離すと荷物を置いて赤くなって立ち尽くすリリスの肩をポンと叩く。
「わっ!」
「襲わないから安心しろ。それより早く出ないか?」
「う、うん…」
「荷物は必要ないだろう。行こうか?」
「うん!」
と言うことで宿の外。船が到着して少し経ったおかげなのか人の数は半分程に減って見通しが効くようになっていた。
「ん、あれはなんだ?」
「なんだろう。出し物かな?」
広い大通りの中に人だかりが出来ていた。それも特別何かあるわけでも無さそうなんだが…。
「何があったんですか?」
「お前も加わるか。この魔族合同統団の前を下賤な亜人が通りやがったんで制裁を下してんだ! 今から脱がすとこよ!」
「リョウ、ダメだよ?」
「ごめんリリス。俺は自分の意には背けない。氷魔法・氷像化」
とんでもない冷気と共に目の前の男達はカチカチの氷と化す。なんだろうな。やはり俺は甘いな。
「お前達、もう大丈夫だ。早く逃げろよ、」
流石に守りきるのは難しいかもしれない。仕方ないな。男達、死んでも文句はいうなよ。
「炎魔法・核爆照射」
ボンッという小さくも鋭い音と共に男達の体は粉々へ砕けていく。その傷口は深く溶けたような焦げたように抉れていた。
「ん、お前達逃げてなかったのか?」
振り替えると腰を抜かしたのかフードを被ったまま座り込んでいる。
「じゃあ俺達は行くぞ。気を付けろよ、」
そう言いながら立ち去ろうとすると人間の1人が俺の手を掴み離さない。
「ん?」
「やっと見付けた…」
俺の手に涙が落ちた。そしてもう片方の手で外されたフードの下は……、
「リアスっ!」