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鍵束の持ち主による述懐

作者: 山若しみず

俺は夏でもいつでも真っ黒なライダージャケットを着ていて正直それこそ夏なんかはクソほど暑くてやってらんねえと思ったりもするんだけど本当の本当に気に入ってるからどれだけ暑くてもコーディネートから外すことはないんだ。それで当然今もこうしてそのジャケットを着ているわけだけどその右ポケットのジッパーを開けると中には鍵束が入ってる。よく映画で間抜けな看守が囚人から奪われちまうようなありきたりかつステレオタイプな鍵束そっくりで無骨な輪っかに鍵がいくつも連なってるんだけどその鍵はどれも牢屋の鍵ってわけじゃなくて俺のハニー達との愛の巣の鍵なんだ。輪っかにくっついてる鍵は全部で二十三本あってこのひとつひとつは俺の愛する女達それぞれが待つ扉を開けるために存在している。だけど全部が使えるわけじゃないのが残念なところで俺とは縁を切っちまったハニーも中にはいてそういうパターンはけっこうあってというよりは鍵束の半分以上はそういった理由で使えなくなってしまったものばかりだ。ただこれだけは言っておくんだが俺はハニー達全員を平等に最高に愛しているし決して金やカラダが目当てだなんてやっすい考えではないんだがハニー達がどう考えるかは悲しいかな別のことで俺のことを浮気者と呼ぶハニーや俺を独占したいハニー或いはただただ純粋に俺にときめきを感じなくなったハニーは俺を二度と部屋には入れちゃくれなかったというかそもそもいつの間にやら引っ越してたりしてけれどもそれでも俺は今でも彼女達を愛していると心から言えるしだから使えもしない鍵がいつまでもジャラジャラ音を立てているのはそういう一種の気持ちの証明でもある。ただ俺だって馬鹿じゃあないんだ俺の愛の形がかなり一般的ではないということは重々承知しているしだから俺の言うことを理解してくれなんて贅沢は言わないんだぜしかし『言う』が一文の中に多すぎるなこりゃマイナス3点だ。そろそろあれだ禄に息継ぎもせずにべしゃってたからな息が続かなくなってきたからまとめにはいるんだけどこれみてくれこれ俺の右ポケットがっつり穴あいてるだろ? この穴ちょうど例の鍵束の輪っかを通ってんだけどハニーのひとりについさっきナイフがっつり脇腹いかれちゃってさ俺の愛の形が我慢ならなかったんだろうなあ本当に申し訳ないと思うよつかまってほしくないんだほんとさ悪いのは俺なんだから。ん? 救急車だって? 随分と今更なことをいうじゃないかいいよいいよ呼ばなくたって俺が刺されてから君がここを通り掛かるまでにも結構な時間が経ってっし君が今足突っ込んでる水溜り全部俺の血だぜ? ああでもあれかこの状況でなにもしないと君がマズイのかそうかそうかじゃあ110番しときなよ俺の喋ってたこと言っといてくれれば多分いいからさ。というか君にもなかなか迷惑かけることになっちゃうなお詫びも何もできないけど勘弁してほしいなにしろ俺死んじまうからさ。うーんもう肺に空気が残ってないぞ窒息してこのまま気を失ってそんでもって死ぬとおもうからあと御免だけど警察の人によろしく。さいなら。

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