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prologue2


 己の布団の中でもそもそと動く。朝はさして弱いほうではないが、さすがに時差ぼけもあいなってかなり眠い。

「樹杏兄さん、起きて」

 そう言いながら三十も離れた妹が抱きついてきた。やたら甘えん坊なのはご愛嬌なのかもしれない。

「おはよう、ちい姫」

 そう言いながらも、ずるずると妹を布団の中に滑り込ませていく。

「兄さん、今日は早めに出社じゃなかったっけ?」

「あぁ。杏里と結局昨日会っただけか」

「杏里兄さん、中国地方だっけ」

 弟の杏里は自分よりも出世が早い。今春より中国地方の責任者になると。

「何だかさぁ、あたしのせいで樹杏兄さんの出世遅れてる?」

 そんな言葉を聞きながらいつものように首筋に額をあてていく。妹は身体が弱い。そのせいもあり結構入退院が頻繁にあった。出世が遅れたのはそれだけではなく、元々杏里の方が諸事情あって役員に就いたのが早かった。

「俺が正式な役員に就いたのが十年位前だぞ?杏里はその前から役員やってんだ。出世が早くて当たり前」

 妹を育てていく上で恩情に甘えたのだ。だから日本に戻り、時差ぼけを無視して真っ先に京都の本家へ挨拶に行ったのが昨日。そして今日は東京支社へ初出社である。

「樹杏様、起きてくださ……ちい姫様何やってんですか!!」

 起こしに来た冬太がでかい声をあげた。そりゃそうだろう。

「樹杏兄さん起こしに来たらそのまま布団に押し込められたの」

 笑いながら妹が言う。

「樹杏様……お年頃の妹君に何やってんですか」

「体温はかり」

「またですか!?何度も言いますように普通の方法ではかってください!!そろそろ起きていただかないと初出社早々遅刻ですよ!!」

 眠いがもそりと起き上がる。

「微熱あるみたいだな。少しそのまま休んでいなさい」

「はぁい」

 日本に来るなり、妹からみればかなりの無茶な動きだった。だから熱があるのは容易に想像ついたし、甘え方が熱のあるときの甘え方だ。

「入学式までは体調整えておくから」

 そんな事を言う妹の頭を優しく撫でて寝室をあとにした。

「まったく……」

 どんなところにも不平を言わずついてきてくれた冬太に感謝である。ただ、妹に関してはかなり神経質になっている。

「ちい姫様はそろそろ婚約なんですから、自重してください」

「だからそれは、ちい姫が約束を覚えていたらって、昨日も当主と咲枝様に言ったぞ」

 小さな姫君、だからちい姫。そう呼び出したのは妹が産まれて間もなくだった。その妹もすでに十五だ。

「思い出させるという選択肢、出て来ませんか?」

「こない。ちい姫は身体が弱い。そんなんであんなものこなせるか」

「ですから、思い出させるのは樹杏様ではなく……」

「あの方か。ま、近付けなきゃ良いだろ」

 妹が苦労する選択肢は選びたくない。だが、冬太はでかいため息をついてきた。

「あの方が東京支社の責任者ですよ。四年前から」

「それは知ってる。だけど、近付けない方法ならいくらでもある」

 その言葉に冬太は苦笑していた。

「次の当主になる事をのむ代わりに、ちい姫様との婚約をしっかりと本家で確約させるあたり、舐めてかかると結構痛い目に合うかと」

「分かってる。だからあの役職がちょうど良い。そう簡単にあの方も話が出来ない。何かの集まりの時もちい姫は家で休ませておける」

「普通、末端の役職にしてくれなんて頼みませんよ?当主も咲枝様も目が点だったじゃないですか」

 実をいえば昨日、末端の役職へと四条院当主たちに頼み込んできたのだ。

「でかい役職ついて、何もできない役立たずと言われるより、末端の役職でのんびりしてるほうが良いさ」

 杏里と比べられようが、樹杏にとっても妹にとってもそれが一番楽なのだ。

「樹杏様、あなたはいつも損な役回りばかり引き受けていらっしゃる」

「でもないさ。ちい姫の成長を一番近くで見て来れたんだ。役得だろ。お前の方こそ俺に付き従って損どころか……」

「俺はあなたの手助けをしたいだけです。それに俺もちい姫様の成長を目の当たりにさせていただきました。あんなに愛らしくてお優しいお嬢様になられたんです。国外について行って良かったと思ってますよ」

 その言葉に樹杏が苦笑する番だった。


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