謎のじいさん
第七章
なんだか、ややこしいことになって来たぞ。
土方さんの他にも幕末から来た人がいるってことは、もっと他にもいるんじゃないのか。
それこそ新選組の隊士とか。
「ねえ、新さん、どう思います?」
「なにが?」
「だって、歳さんの他にも過去からやって来た人がいるってことは・・」
「ああ、それだよ。俺もそれ考えてた」
土方さんは、伊佐美という人と話しながら歩き、俺と新さんは、少し離れたところを歩いていた。
「でも歳さん、ちょっと安心した顔してない?」
「そうなんですよ、俺もそれを思いました」
「だよな。やっぱり同じ時代の人が、今ここにいるってことは、ほっとすると思う」
「これからどうするつもりなんでしょうね、あの二人」
「さあな・・俺たちには何もできないしな」
「ですよね。俺たちにできることと言えば、少しでもこの時代で暮らしやすいようにしてあげることくらいですもんね」
「うん」
土方さんがこっちに歩いてきた。
「あれ、伊佐美さんはどうされたんですか」
「とりあえず、今、世話になってる家に帰るらしい」
「そうですか。では俺たちも帰りますか」
「ああ」
そして俺たちは、新さんと別れ、帰路についた。
部屋に入り、土方さんと俺は、暫く黙って座ったままだった。
「歳さん、疲れたでしょう」
「いや、そんなことはねぇ」
「お茶、いれますね」
俺は冷蔵庫からペットボトルを出し、コップにお茶を注いだ。
「伊佐美に話を聞いたが、どうやらあいつも俺と同じ時間にこっちへ来たようだ」
「そうなんですか」
「あいつを助けたのは、一人で暮らすじいさんらしい」
「そうなんですね・・」
「なあ、太陽」
「はい」
「この時代の年寄りってのは、一人で暮らしているのか」
「はい。結構、多いですよ。それが社会問題にもなっています」
「そうか。嘆かわしいことだ・・」
「そうですね・・」
「そう言えば、お前も一人で暮らしているな」
「ああ・・それは俺が希望したことですから。いわば自立ですよ」
「そうか・・時代も変われば暮らしも変わるんだな」
そう言って土方さんは、お茶を飲み干した。
「ところで、俺はずっとこのまま、お前の世話になるわけにはいかねぇ」
「えっっ・・・」
「お前だって自分の暮らしってもんがあるだろう。俺のせいで金もかかるしな」
「いえ、そんなのいいんですよ」
「伊佐美とも話したんだが、俺は道場を開こうと思う」
「えっ!」
「俺もなにかして金を稼がねぇとな」
「道場って・・そんな簡単に開けないと思うんですが・・」
「ああ。そうだろうな」
「まず、場所を借りないといけないですし、道具も揃えたりしないといけないですよ」
「そこでだ、伊佐美が世話になってるじいさんが、場所を貸してくれるかも知れねぇんだ」
「そうなんですか・・・」
「そのじいさんは、伊佐美のことも理解しているらしい。つまり「過去の人間」ってことをな」
「なるほど」
「俺のことも報告するらしい。次に伊佐美と会うのは三日後だ。場所はあの公園だ」
なんか、話がトントン拍子っていうか、うまく進み過ぎてないか?
そのじいさんって、何者なんだろう。
「歳さん、その話、ちょっと保留にしてくれませんか」
「なぜだ」
「いや、昔のことはよくわかりませんが、今の時代、どんな悪い人がいるかも知れません。もしかしたら騙されている可能性もあります」
「なぜそう思う」
「俺の勘というか、にわかに人を信用してはいけない時代なんです、今は」
「そうか・・」
「俺、そのじいさんに会いますから、それから決めてください」
「わかった」
そして次の日、俺は新さんに相談した。
「どう思います?」
「うーん、確かにお前の言う通り、一度、そのじいさんに会った方がいいな」
「そうですよね、新さんも一緒に行ってくださいね」
「うん、もちろんだよ」
じいさんか。どんな人なんだろう。
それより土方さん、お金を稼ぐって言ってたけど、道場をやったくらいで生活できるんだろうか。
家も借りなきゃいけないし、家賃だってかかる。食費に光熱費、どうするんだろう。
それから三日が経った。
「歳さん、そろそろ行きますか」
「ああ」
新さんとは公園で待ち合わせすることになっている。
まだ誰も来てないな。
ここの公園も、子供たちが遊ぶことは滅多にない。
そのため手入れなんか殆どされてない、いわば荒れ果てた公園だ。
俺と土方さんはベンチに腰掛けた。
「俺はここで倒れてたんだな」
「はい」
「お前が助けてくれなかったら、俺は雨に打たれて死んでたかもな」
「そんなこと・・・」
そこに、新さんがやって来た。
「よう、新五郎」
「どうも、歳さん、太陽」
「どうぞ座ってください」
俺は新さんに席を空けた。
「伊佐美って人は、まだみたいだな」
「はい」
「歳さん、俺、考えたんですけど、今度、京都へ行きませんか」
新さんが突然そう言った。
「京都って、都のことか」
「はい」
「今、都へ行っても何も残ってねぇだろう」
「それが残ってる場所もあるんですよ」
「そうなのか!」
「はい。歳さんたち新選組が屯所にしていた八木邸も前川邸も。そして壬生寺も」
「そうなのか!」
土方さんは驚いた様子だったが、逸る気持ちを抑えているかのように目が輝いていた。
「新五郎、是非、連れて行ってくれ」
「もちろんです。太陽、お前もな」
「お・・俺もですか」
「当然だろ。だってお前が歳さんを助けたんだから。それに「親戚」だしな」
そう言って、新さんは笑っていた。
そこに伊佐美さんが来た。
「お待たせしました」
「よう、伊佐美、待ってたぜ」
「こんにちは・・・」
俺と新さんは、遠慮がちに挨拶した。
「僕、星川太陽と申します」
「僕は、小二田新五郎といいます。よろしくお願いします」
「私は伊佐美格之助と申します。改めてよろしく」
「それで、どうなった。道場の話」
「はい。葛下さんは、是非、使ってくれと申しております」
「そうか」
「あの、ちょっと待ってください」
俺はすかさず割って入った。
「なんでしょう」
「その葛下さんって方に会わせて頂けませんか」
「それはなぜですか」
「えっと・・俺は歳さんの、いわば身元引受人ですから、責任がありますので」
「そうですか。いいですよ」
「あの、俺も同じく、です」
新さんもそう言った。
「そうですか。じゃ、今から行きますか」
こうして俺たち四人は、葛下さんの家へ向かった。
葛下さんの家は、俺んちと、そう遠く離れておらず、徒歩で20分くらいのところにあった。
結構な豪邸っていうか、こんな家、ここらにあったかな。
「入ってください」
伊佐美さんにそう言われて、俺たちは中へ入った。
「ただいま戻りました」
「ああ、早かったね」
奥から男性の声が聞こえてきた。
「おおっ!君が土方くんか。会いたかったですよ」
男性は穏やかそうな顔をしていて、物腰も柔らかかった。
「お初にお目にかかります。土方歳三と申します」
土方さんは丁寧に、深々と頭を下げた。
「おや、そちらの方々は?」
「あ、土方さんの付き添いで来ました。星川太陽と申します」
「同じく、小二田新五郎と申します」
「そうですか。まあどうぞお座りなさい」
床の間のある、十畳くらいの部屋に、座布団が敷かれ、俺たちはそれぞれに座った。
「土方くん、この度は大変でしたね」
「はい、何が起こったのかわからず、暫くの間は混乱しておりました」
「私も伊佐美くんを見かけたときは、どうしたものかと戸惑いました。でも長い間生きていると、こんな不思議なことが起こるんですね」
「そうですね」
土方さんと葛下さんは、まるで知り合いだったかのように、親しく話していた。
「聞くところによると、土方くんは池田屋へ駆けつける途中だったとか」
「はい、そうです」
「それはご心配でしょう」
「ええ・・今でも頭から離れません」
「その後の話はお聞きになられましたか?」
「いえ、私は聞くつもりはありません」
「そうですか。心中お察しします」
「お茶をいれてまいりました」
伊佐美さんがお茶を運んできてくれた。
「伊佐美くん、ありがとう。君も座りなさい」
「はい」
なんだか場違いっていうか・・この雰囲気。
新さんも、居心地が悪そうだ。
ちょんまげこそ結ってないけど、時代劇の空気そのものだ。。
第七章END




