表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平成剣士  作者: たらふく
5/29

新五郎の想い

第五章




「星川」

「はい」

「今日は、俺は買い物に行こうと思っているんだが」

「か・・・買い物ですか・・」

「ああ、まずいか」

「いえ・・別にまずくはありませんが、大丈夫ですか」

「おそらく。先日、お前に着いて行った「スーパー」とやらに行くつもりなんだが」

「なにを買うんですか」

「今夜のおかずをな」


土方さん、いきなり買い物って、大丈夫なのかなあ。

まあ、少しずつでもこの時代に慣れないと不自由なこともあるだろうし、それくらい、いいかな。


「わかりました。じゃお金置いときますね」

「ちょっと待て。どれがどれだったか」

「えっと、これが千円札。これが五百円玉、これが百円玉、これが十円玉・・」

「ややこしいな。この中では千円札とやらの貨幣価値が一番高いんだったな」

「はい」

「じゃこれを使う。それでおつりを貰えばいいな」

「わかりました。ではこれを3枚置いて行きますね」

「わかった」

「じゃ、俺、仕事行ってきますね」

「ああ、気を付けてな」


ああは言ったものの、ほんとに大丈夫なんだろうか。


「新さん、昨日はありがとうございました」

「いや、こちらこそ、すごく感慨深い出会いだったよ」

「そうですか、よかったです」

「羽織は綺麗に洗濯して、今、干してあるんだ」

「そうですか、ありがとうございます。歳さんも喜ぶと思います」

「うん、そうだな」

「歳さんね、今日、買い物に行くと言ってました」

「ええっっ!大丈夫なのか」

「俺も心配してるんですが、ずっと家の中にいるってのも気の毒だし、少しずつでも慣れた方がいいかなと思って」

「そうか。確かに・・」


考えてみれば言葉は普通に通じるし、その点は安心だけど、横文字とか多いしな。

どんな材料を買ってくるのかな。結構楽しみだったりするかも。


「ただいまー」


あれっ?返事が無いぞ。いないのかな。


「歳さん!」


俺は部屋に入ったが、やっぱり土方さんはいなかった。

まさか・・まだ帰ってないのか!大変だ!

迷子になってるのかも知れない!

俺は急いでスーパーまで走って行った。


しまった・・・やっぱり一人で行かせるんじゃなかった。

スーパーの中を探し回ったが、どこにもいない。

土方さん、土方さん!


レジの人にも尋ねてみたが、心当たりがないという。

ここのスーパーじゃないのかな。でもここしか連れて行ってないし、どうしよう。


ルルルル


あっ、電話だ!


「もしもしっ」

「あの、星川さんですか」

「はい、そうですけど」

「えっと、ご親戚の歳さんがうちに来てらっしゃって、帰り道がわからないらしくて、迎えに来て頂けませんか」

「ええっ!そうなんですか、どこですか」


俺はその人の住所を聞いて、急いでそっちへ向かった。

結構、近所の人だったから、よかった。

えっと・・・瓜阪さん・・・瓜阪さんっと・・・ここだ。

俺はインターホンを押した。


「星川です」

「あ、どうぞ入ってください」


そう言われて俺は玄関の前まで行った。

玄関が開くと、中年の女性が立っていた。


「どうもわざわざすみませんね」

「いえ、こちらこそ、ご迷惑をおかけしました」


中に上がると土方さんが座っていた。


「歳さん!」

「太陽か。すまんな」

「どうしたんですか」

「いや、実は・・・」


土方さんの横を見ると、一人の少年が座っていた。


「星川さん、実は今日、スーパーで買い物をしていたら、偶然、この子が歳さんをお見掛けして。」

「はい・・」

「この子、先日ですか、歳さんの剣道を見て、それはそれは惚れ込んで、それで思わず声をかけてしまって・・・それでこの子、うちへ来てほしいって無理やりに引っ張って来たんですよ。どうもすみません」

「そうだったんですか」

「星川さんの電話番号は、部長さんに教えて頂きました。勝手にすみません」

「いいえ、掛けてくださって助かりました」


「僕、歳さん好きだもん!歳さんみたいに強くなりたいもん!」


ああ・・よかった。何かあったんじゃないかと心配した。


「歳さんね、僕に竹刀の振り方を教えてくれたんだ!」

「そっか~よかったね」

「歳さん、また稽古に来てくれるよね!」

「あ・・ああ」

「約束だよ!絶対だよ!」


わあ・・・土方さん、すっかり懐かれちゃって。


「歳さん、そろそろ帰りましょうか」

「ああ」

「ヤダーーー!まだいてーーー!」

「これ、健太、無理をいっちゃいけません」

「だって・・・」

「健太、また稽古しような」

「うんっ!」


そして俺たちは瓜阪さんの家を後にした。


「すまなかったな、太陽」

「いいえ、無事でよかったです、心配したんですよ。迷子にでもなったかと思いました」

「健太を見てると、まだ少年の頃の総司を思い出してな」

「そうだったんですね」

「それでつい、ほだされてしまってよ」


土方さんは新選組では鬼の副長なのかも知れないけど、ほんとは優しい人なんだな。


「歳さん、もうすぐ夏祭りがあるんですが、行きませんか」

「ほう、今の時代でも祭りがあるのか」

「はい、それはもう、賑やかですよ」

「そうか」


そう話しながら、俺たちは家へ着いた。

翌日、新さんは綺麗に洗った羽織を渡してくれた。


「しんさん、アイロンまでかけてくれたんですね」

「うん。焦がしたら大変だから、すごく気を使ったよ」

「歳さん、喜びますね」

「うん、喜んでくれると嬉しいな」

「これ、新さんが直接渡した方がいいですよ」

「そうかな・・」

「はい、今日、俺んち来てくださいよ」

「うん、そうする」


新さんは、また土方さんに会えることが、とても嬉しそうだった。


「なあ、太陽」

「はい」

「土方さんの刀さ、きっと手入れしたいと思うんだよ」

「ああ・・・」

「あのままだと錆びてしまうと思うんだよ」

「はい」

「帰りに専門店へ寄らないか」

「はい、そうしましょう」


新さんって、色々と考えてるんだな。

俺なんか、そんなこと気がつきもしなかった。

新さんがいてくれて、ほんとによかった。


そして俺たちは、専門店で必要なものを買った。

油、打ち粉、拭い紙。なるほど、これで手入れするのか。


「ただいまー」

「おかえり」

「歳さん、新さんを連れてきましたよ」

「そうか、よく来たな」

「どうも、またお邪魔します」


それから俺と新さんは、土方さんの前で、かしこまって正座した。


「なんだ、あらたまって」

「土方さん、これ、羽織です・・・」


新さんが丁寧に差し出した。


「あ・・・」

「どうぞ・・」

「あったのか・・どこに?」

「あの公園で、泥の中に埋まっていました・・」

「そうだったのか・・俺はてっきり失くしちまったものとばかり・・」


土方さんは、ゆっくりと羽織を手に取って広げた。


「まるで新品のようじゃねぇか」

「新さんが洗って、アイロン・・・えっと、熱い鉄の板で皺を伸ばしてくれました」

「そうだったのか。新五郎、ありがとうな」

「いいえ・・そんな・・」

「歳さん、着て見せてください」

「ああ、そうだな」


土方さんは着物を着て、羽織の袖に腕を通した。


「うわっ・・・本物の新選組の土方さんだ・・・」


新さんは、感無量という表情だった。


「俺、もう感激で言葉もないです・・」

「あ、それと、これも新さんが気がついてくれたんですけど、刀の手入れの道具を買ってきました」


俺はそれを差し出した。


「お前ら・・・」


土方さんは押し入れから刀を出した。

それを見た新さんは、思わず叫んだ。


「ああっ!それは、和泉守兼定!」

「そうだ、よく知ってるな」

「うわあ・・・・」


土方さんは刀を鞘から出し上段に構えて見せた。

それは、幕末を生き抜いていた「武士」の姿そのものだった。

なんだ・・・この威圧感。

怖いとかそういうんじゃなくて、圧倒される・・


「歳さん、なんかすごいです」

「そうか」

「土方さん、俺たちが用意した道具は十分なものじゃないかも知れませんが、兼定を大切にしてあげてください」

「ああ、もちろんだ」


土方さんは刀をしまい、羽織と着物も脱いで、丁寧に畳んでいた。

その姿を見ていると、やっぱり元の世界へ帰さなければいけないと思った。

最後は鉄砲で殺されるけど、やっぱりこの人は、あの時代の人なんだ。

なんとか方法はないものだろうか・・・


俺たちは、土方さんが用意してくれた鶏鍋を食べながら、日本酒を酌み交わした。


「これ、すごく美味しいです。土方さん」

「そうか、それはよかった」

「俺、ほんとに感激です。あの土方さんが作ってくれた料理を食べることができるなんて・・」

「そんな大げさなもんでもねぇよ」


新さんは、ほんとに嬉しそうだった。


「俺にも剣道、教えて頂けませんか」

「ああ、いいぞ」

「えっ、新さん、マジですか」

「うん。太陽、お前も一緒にどうだ」

「えっ・・・俺は・・」

「あのな、太陽。こんなチャンス、もう二度とないぞ。一緒にやろうよ」


ええ・・・俺は運動音痴だし、あまり気が進まないんだけどなあ。


「新選組にはお前らのような若い隊士もたくさんいるぜ」

「そうなんですか・・」

「お前もやれよ、太陽。俺が稽古つけてやるから」

「はいぃ・・・」


第五章END

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ