剣術の強者
第三章
土方さんが、いつ元の時代に戻れるかわからない間は、嫌でもこの時代にいなきゃいけないことを想い、俺は少しでも土方さんが退屈したり、落ち込んだりしないよう色々と策を練ってみた。
そこで考え出したのは、剣道クラブに通うっていうのはどうだろう。
本物の刀を持てなくて辛そうだけど、せめて竹刀なら気が紛れるかも知れないしな。
「土方さん、剣道って知ってます?」
「剣術のことか?」
「はい」
「今でもやってるのか」
「はい、やってるどろこか、すごく盛んですよ」
「ほう」
「じゃ、やってみましょうよ。俺、目星をつけて連絡とってみます」
俺はネットであちこち探した結果、ここから比較的近い市民体育館でやってるクラブを見つけた。
よし、ここならいいかも。初心者も大歓迎と書いてあるし。
俺は早速、入会手続きを済ませ、そのことを土方さんに知らせた。
「今週末、練習がありますよ」
「そうか」
「それと、名前なんですが、俺が勝手に決めましたけどいいですか」
「なんて名だ」
「星川 歳です」
「お前と同じ苗字か」
「はい、一緒に暮らしてますし、親戚ってことで」
「そうか、わかった」
よかった。土方さん、ほんの少しだけど嬉しそうにしてる。
でも時々、悲しそうな暗い表情をするのは、やっぱり新選組のことが気になってるんだろうな。
初練習は、ジャージがいいのかな。胴着なんてないしな。
ま、初だし、ジャージでいいか。
そして週末になり、俺たちは体育館に向かった。
ジャージを着た土方さんもピリッとしてて、かっこいいな。
しかも下駄だし。昭和の苦学生みたいだ。
それにしても土方さんって、年はいくつなんだろう。
「歳さん、年はいくつなんですか」
「29だ」
ええっっ!29!
俺と5つしか違わないのか。
すごく大人に見える。やっぱり昔の人はシャキっとしてるっていうか、違うなあ。
「お前はいつくだ」
「24です」
「そうか、総司と変わらないんだな」
いやいや、あなただってそうですって。
「沖田総司さんですか」
「ああ」
「すごく強かったらしいですね」
「ああ。あいつは新選組一番隊の組長だからな」
「どんな人なんですか」
「どんなって、あいつはよく笑うし、子供好きでな。近所の子供ともよく遊んでいる」
「へぇー」
沖田さんって、優しい人なのかな。
そして俺たちは体育館内に入り、剣道クラブへ行った。
「すみません、今日から参加させていただきます、星川を連れてきました」
「あ、はい、伺ってます。どうぞ」
中は子供から大人まで、たくさんの人が練習していた。
「みなさん、集まってください」
男性がそう言うと、みんなが俺たちの前に集まって来た。
「えー、今日から一緒に稽古をすることになった、星川さんです」
「よろしく、星川歳です」
「よろしくお願いします!」
元気の良い声が体育館に響き渡った。
「あなたは、されないんですか?」
「あ、僕は付き添いです」
俺は、ムリムリ。せいぜい見学が関の山。
「私はこのクラブの部長で、初芝日志男と申します。えっと、星川さんは初心者とのことですね。まずは体をほぐしながら見学してください」
「はい」
「星川・・・俺を初心者と言ったのか」
「はい・・その方がいいかなって思いまして」
「俺は人を斬ってるんだぞ」
「シーーッ・・・それは禁句です・・」
「・・・・」
見学している土方さんを見ると、すこし笑っていた。
やっぱり嬉しいのかな。
時間もだいぶ過ぎ、初芝さんが声をかけてきた。
「ちょっと構えてみますか」
「はい」
そう言って土方さんは竹刀を持って、初芝さんと向かい合った。
こ・・・これは。。素人の俺でもわかるぞ。
こんなの絶対に初心者って思われない。見ろ、初芝さんの驚いた表情。
「星川さん、その構え、初心者じゃありませんね」
「はい。少しだけやったことがあります」
「そうですか、わかりました。じゃ打ち込んできてください」
そう言われた土方さんは、一瞬のうちに初芝さんを打ちのめしていた。
うわ・・・なんだ今の技。しかも速い。
ほら、他のみんなも唖然としてる。
「星川さん、あなたかなりの経験者ですね」
「うむ・・・」
「どうして初心者などど偽りを言ったのですか」
しまった!
「あの、それは僕が勝手にそう思い込んで書いたんです」
「思い込んで?」
「すみません、知らなかったものですから・・・」
「そうですか。まあいいですが、もし、からかい半分なら入部は認められません」
「えっ・・・」
「ここは、道場破りの場ではありませんので」
「申し訳ない。そんなつもりではなかったんだが」
土方さんがすまなさそうに、そう言って頭を下げた。
「ま、いいじゃないですか。部長。こんなにできる人が来てくれれば教えてもらうことも可能ですし」
一人の女性がそう言った。
「宇座峰くん。まあそうだけど・・・」
初芝さんは、納得しかねる表情だったが、断ることも出来ないでいた。
「俺は場の輪を乱したくない。だめなのであれば、はっきりそう言ってくれ」
「いいんですよ、星川さん。これからも来てください」
宇座峰さんは笑ってそう言った。
「では今日の稽古はここまで。解散」
初芝さんがそう言って、みんなは帰り支度を始めた。
すると子供たちが土方さんの周りを取り囲んだ。
「お兄ちゃん、強いね!」
「かっこよかった!」
「僕にも教えてね!」
子供たちは輝いた目を土方さんに向け、口々にそう言っていた。
すごいな・・・一瞬で虜にしちゃった。
さすが「現役」の武士は違うな。
「歳さん、すみませんでした」
「いや、かまわん」
「また参加しましょうね」
「気が向いたらな」
うわ・・怒ってるのかな。
俺、やっぱり余計なことしちゃったのかな。
「星川、色々とお前に気を使わせてるみてぇだな、すまんな」
土方さんは、帰る道すがらそう呟いた。
「いえ、ご心配なく。俺は少しでも気が紛れたらと思っただけで」
「そうか。ありがとうな」
やっぱり剣術の達人が市民レベルのクラブってのは、場違いだったかなあ。
土方さんの履いた下駄が、カラコロといい音を鳴らしていた。
土方さんが幕末から平成にやってきて、一週間が経った。
だいぶここの暮らしにも慣れてきたようで・・・っていうのにはまだ無理があるけど、それでも少しずつ慣れてきたことは確かだ。
ガスや電気の使い方、洗濯機も回せるようになった。
お風呂も最初は嫌がったけど、シャワーも使い慣れた様子だった。
食事もなるべく和食を出すように、俺は配慮していた。
俺が仕事でいない時も、時々、散歩しているみたいだ。
ずっと家の中というのも、息が詰まるし、俺もその方がいいと思った。
「いらっしゃいませ、こちらは一週間でよろしいですか」
「はい」
お客が差し出したDVDを見ると『刀剣乱舞』という作品だった。
あ・・・刀剣。なるほど、これのことか。
それにしてもこのお客さん、若いな。しかも女性だし。
ふーん、これが面白いのか。
土方さんも出てるのかな。
俺はその作品を借りて帰ることにした。
「ただいまー」
「おかえり」
「あっ、いい匂いしてますね」
「ああ。うどんを作ってみた」
「ええっ!歳さんが作ってくれたんですか!」
「味は保証できねぇけどな」
「わーい、俺、お腹空いてたんですよー、嬉しいな~」
そして俺はうどんを口に入れた。
「これ、美味しいです、歳さん、料理上手ですね」
「そうか?」
俺たちはうどんを食べながら、DVDを観ることにした。
「これね『刀剣乱舞』って作品で、刀剣を擬人化したものなんですよ」
「ほう」
主人公らしき人物は和泉守兼定って言うのか。相棒が堀川国広か。へぇー
土方さんを見ると、驚いた様子だった。
「歳さん・・・?」
「・・・・・」
どうしたんだろう。なんか泣きそうな顔してるんだけど・・・
すると土方さんは押し入れの中から刀を出して来た。
「これだよ」
「え・・・?」
「これが和泉守兼定だ」
「えっ!そ・・そうなんですか!」
マジか。本物が今ここにあるんだ。なんてことだ・・・
「あの・・・見せて頂けますか」
「ああ」
そう言って土方さんは刀を俺に渡してくれた。
うわあ・・・これがそうなんだ。
そしてテレビに映っているのがこれを擬人化した「和泉守兼定」っていう人物なんだ。
「まさか150年後に、こんな風に伝えられているとは・・・」
「そうですよね」
「150年経っても俺たち新選組のことは、忘れられずに伝えられているんだな・・・」
そう言って土方さんは泣き出した。
「近藤さん・・・近藤さん・・・」
ダメだ・・・俺も泣きそうだ。
「星川、俺はやっぱり帰りたいよ・・」
「はい・・そうですよね・・」
「どうすれば帰れるんだ・・・」
「・・・・」
第三章END




