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平成剣士  作者: たらふく
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長い糸

            第二十八章



「沖田です。開けてください」


次の日の昼に沖田さんがやって来た。


「はい、今開けます」


おれはそう言って戸を開けた。


「星川くん、どうも」

「こんにちは」

「今朝、ここから帰って来た後、伊佐美くんが倒れてしまいました」

「えっっっ!」

「この前から、ちょっと風邪気味だったんですよ」

「それで伊佐美さんは大丈夫なんですか」

「今、寝てますけど、暫くここには来れないので、俺が代わりに様子を見に来ます」

「そうですか・・」

「では、見回りに行ってきますので、これで」

「はい・・・」


大丈夫なんだろうか・・・

伊佐美さん、体調が悪かったのに無理してたんだ・・・俺を守るために・・・

俺は屯所へ行ってみることにした。


えっと・・・知ってる人は・・・えっと・・・

あっ・・・斎藤さんがいるぞ。


「あの・・斎藤さん・・」

「おお、星川。どうしたんだ。総司は見回りに行ってるぞ」

「あ・・はい。あの、伊佐美さんが倒れたと聞きまして・・」

「うん」

「それでお見舞いに・・」

「そうか。律儀なんだな」

「上がってもよろしいですか」

「いいぞ」


そして斎藤さんは、伊佐美さんが寝ている部屋に案内してくれた。


「伊佐美、斎藤だ」

「はい」


中から伊佐美さんの声がした。


「入れ、星川」


斎藤さんはそう言って、廊下を歩いて行った。

俺は障子を開けて中へ入った。


「伊佐美さん・・」

「太陽くん・・・どうしたのですか」

「倒れたって聞いて、心配になって来ました」

「大したことないのに。みんな大袈裟なんですよ」

「それで具合はいかがですか。大丈夫なんですか」

「はい。大丈夫ですよ。だから心配しないでください」

「そうですか・・」


伊佐美さんはそう言ってるけど、でも顔色がよくない。


「あの・・すみません。俺のせいで倒れたんですね・・」

「違います。私の不養生です」

「ううう・・・」


俺は思わず涙を流した。


「太陽くん、しっかりしなさい。なんですか、このくらいのことで」

「はい・・」

「あなたは私のことより、自分の身を心配しなさい」

「・・・」

「今日も、稽古があるのでしょう。早くそちらへ行きなさい」

「・・・」

「私は大丈夫です!すぐにまた、稽古をしてあげます。覚悟しておきなさい」

「はい・・」

「わかったら、さっさと行きなさい」

「わかりました・・」


「太陽くん、来てくれて嬉しかったですよ。ありがとう」


ニコッと笑った伊佐美さんの眼は、少し潤んでいた。

俺は部屋を出て、廊下を歩いていたら、「あの」刀傷が目に入った。

あ・・これはあの時触った刀傷だ。

俺は何気に触れてみた。


すると突然、目の前が真っ暗になり、俺は転んだ。

痛っ・・・・なんだ、腰を打ったか。。

いててて・・・俺は起き上がって周りを見た。


あっっっっ!!!ここはっっ!!

俺が元公園の前を通った時に、転んだ場所じゃないか!!


えっっっ・・・戻って来たのか、俺。。

間違いない・・・戻って来たんだ。

戻って来たんだーーーーー!!!やったーーーー!!!


あっ・・・通り過ぎて行く人が、変な顔で見てる。

ここはマズい・・・家へ帰らなくちゃ。

俺は急いで家へ帰った。


あっっ!そうだ。鞄がっ!しまった・・・

携帯も財布も・・・鍵もない・・・

どうしよう・・・電話するったって、お金持ってないし・・・

そうだ、管理人さんのところへ行こう。


管理人さんは、俺が住むマンションの一階に住んでいた。


「すみません、星川ですが、いらっしゃいますか」

「はいはい~」


管理人さんが出て来た。


「すみません、鍵を無くしちゃって・・・」

「あら、そうなのかい。星川くん、その格好どうしたの?」

「ああ・・・えっと・・和服のイベントがありまして・・」

「へぇー、それにしても汚い着物だねぇ」

「あの・・・さっき転んで・・・」

「そうなのかい。ま、いいか。ちょっと待ってね、鍵を持ってくるから」


ああ~~よかった。。

部屋には入れれば、なんとかなる。


そして俺は管理人さんと部屋へ向かった。


「鍵をなくされちゃ困るんだよねぇ・・」

「すみません、二度と無くさないようにします」

「そうしてよ。また造っとくから」

「はい」


そして俺はやっと部屋に「戻った」。

ああ~~~、よかった。ほんとによかった。。


土方さんが「奇跡は起こる」って言ってたけど、ほんとだった。

俺は全身から力が抜け、座り込んだ。

ああ・・・何もかも元通りだ。。

俺の体は一気に疲れが襲ってきて、泥のように眠った。


ピンポーン!ピンポーン!


誰だ・・・うるさいな・・・

俺は、何度も鳴らすインターホンで目が覚めた。


「はい・・どなたですか・・」

「た・・・太陽!!俺だ!新五郎だよ!!」

「えっ・・・新さん!!」


俺は急いでドアを開けた。


「太陽!!お前、どこへ行ってたんだ!」

「新さん!!!来てくれたんだ!会いたかったよ!!」


そう言って俺は、新さんに抱きついた。


「太陽、とにかく詳しい話を聞かせてくれ」

「あ・・はい。どうぞ入ってください」


俺は新さんを部屋に入れ、向かい合って座った。


「心配したぞ、太陽。お前どこへ行ってたんだ」

「俺・・・幕末へ行ってたんです・・」

「えええええええええ!!!マジかっ!!」


新さんは後ろにひっくり返って驚いていた。


「幕末って、俺が行ったところと同じか?」

「はい、新選組のいたところです」

「マジかーーー!」

「俺、元公園のあった前の道を通っていた時、こけちゃったんですよ。そして気がついたらあの時代に・・」

「ほっんとに、こんなことってあるんだな。まさか俺が帰って来た後、お前が行ってしまうなんてな」

「俺、もうどうしようかと途方に暮れていたら、沖田さんが俺を見つけてくれて・・」

「そうか。それは運がよかったな」

「はい。新さん、俺の名前、沖田さんに話してたんですね。それが幸いでした」

「そうなんだよ。未来の話聞かせてくれって、よく言ってたんだよ、あの人」

「それから俺は、伊佐美さんや土方さんとも会うことができて、とりあえず助かったんです」

「そうかー」


「そういえば、新さん、なんで今日、ここに来られたんですか?」

「お前が失踪してから、俺は毎日訪ねて来たんだよ。そしたら今日は、電気が点いてて、もうびっくりしてさ」

「そうだったんですか・・ほんとに心配かけました・・・」

「そんなことはいいよ。それで、その後、どうなったんだ?」


俺は、一旦、トイレへ行き、その後、コーヒーを淹れた。


「それで伊佐美さんが俺に、小さな家を与えてくれて、一人で住んでたんです」

「そうなのか」

「長屋ですけどね」

「うん」

「俺、ある日、殺されそうになって・・・」

「ええええっっっ!!!」

「でも、伊佐美さんや沖田さんが助けてくれたので、今ここにいるわけですが・・」

「怖かっただろう・・・」

「はい。もう死ぬかと思いました」

「だろうな・・・」

「俺はそんな恐ろしい目に遭って、その後、剣術を習うようになって・・」

「そうなんだ」

「伊佐美さんは、もちろんですが、沖田さんや斎藤さんにも教えてもらいました」

「おおお、そうかー」


俺はそこでコーヒーを飲み干し、冷蔵庫からお茶を出した。

それをコップに入れて新さんにも出した。


「俺、あの時代で「命」について、色々考えさせられました」

「うん、わかるよ」

「実際に殺されそうになって、本当の恐怖というのも経験しました。だから生きる大切さというか、命の大切さ。無駄に生きてるだけではダメってことも・・」

「うん、そうだな」

「それと、今の時代は、今生きてる人間だけのものじゃないってことも。遥か彼方の昔からずっと繋がってるということも学びました」

「わかる・・・」

「伊佐美さんが言ってたんです。日本の歴史っていうか、それはずっと長い一本の糸で繋がってるから、忘れないでほしいって・・・」

「その通りだよ」

「自分がどの時代に生まれるかは自分で選べないけど、この時代に生まれたからは、その糸を切らさないために、しっかり生きなくちゃいけないんですよね」

「そうだな」


「新さん、道場はどうですか?」

「うん、順調だよ。京太郎も先生として頑張ってるよ」

「そうですか、よかった。。」

「みんなもすごく心配しててさ。でもお前が帰ってこられて、みんな喜ぶよ」

「そうですか」

「店の方は、俺がうまく誤魔化してあるから、直ぐにでも復帰できるよ」

「ありがとうございます」

「なにを言ってんだ。お前だって俺がいなくなった時、うまく誤魔化してくれてたじゃないか」

「あ・・はい」

「ああ~~それにしても、よかった。ほんとうによかった」


「あの・・新さん」

「なんだ」

「俺も剣道やります」

「そうか。うん、一緒にやろうな」

「はい!」


こうして俺たちは再会を心底喜び合った。


そして次の日の夜、俺は道場へ向かった。

よしっ、今日から俺は剣士だ。

新さんや京太郎くんに負けないように、頑張るんだ。


中へ入ると、門下生の人たちが来ていた。


「あああああ!!!星川さんっっ!!」


門下生の人たちは、ものすごく驚いて俺の方へ駆け寄って来た。


「どうも、こんばんは」

「こんばんはじゃないわよ!一体、今までどこへ行ってたの!」


浦さんが、半ば怒ったように話しかけて来た。


「すみません、みなさん。ご心配をおかけしました。えっと・・実家で急用がありまして、それで昨日帰って来たばかりなんです」

「そうだったの!でも、それならそうと、連絡くらいしなさいよねっ!」

「あはは・・はい。すみませんでした」


みんな口々に「よかった、よかった」と喜んでくれていた。


「星川さん、心配しました・・」

「京太郎くん、ごめんね」

「いえ、でも帰って来てくれてよかったです。またよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくね」


「星川さぁ~ん」

「ああ、沖田くん!」

「実家へ行ってたんですかぁ~心配したんですよぉ~」

「うん、ごめん、ごめん」

「僕、ちょっとは上達したんですよぉ~」

「そうなんだ、それは楽しみだね」

「はーい」


ほどなくして新さんも来て、みんなが集合した。


「えーっと、今日から星川も、稽古に参加することになりました」

「おおおおーー」


門下生から声が上がった。


「今まで通り、マネージャーとしても働いてくれますが、今日から俺たちの「同志」です。みんなでより一層、精進しましょう」

「はいっ!」


「新さん、俺と打ってくれませんか」

「ああ、いいよ」


俺と新さんは向き合った。

俺の構える姿に、新さんは驚いた様子だった。


「やぁー!」


「太陽・・・お前、成長したっていうか・・「本物」になりやがったな」

「はい、新さんにも負けませんよ!やぁー!」


互角に戦う俺と新さんの勝負を見る門下生の眼は、道場の新たな未来を映し出しているように思えた。


第二十八章END

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