勘違い
第二十七章
俺は急いで、伊佐美さんを中へ入れた。
「大丈夫ですか、伊佐美さん・・・」
「大丈夫です」
「でも・・・血がっ!」
「太陽くん、すみませんが水を持ってきてください」
「はっ・・はいっ!」
俺は桶に水を入れて、伊佐美さんに持って行った。
「それから、ヨモギはありますか?」
「あ・・・はい、あったはずです」
俺は野菜を保存してある裏口へと行った。
ヨモギ・・・ヨモギ・・・えっと・・これかな。
「伊佐美さん、これですか」
「はい。それをよく揉みほぐしてくれませんか」
「はい」
伊佐美さんは傷口を水で洗っていた。
うわ・・・痛そうだ・・・
「それから八之助さんの家へ行って、焼酎とさらしを拝借してきてください」
「あ、はい。わかりました」
俺は急いで八之助さんの家へ行った。
「すみません、星川ですが、開けて頂けませんか」
「はい!」
八之助さんは慌てて出できた。
「すみません、焼酎とさらしをわけて頂けませんか」
「はい、わかりました。ちょっと待っておくんなはれ」
そう言って八之助さんは、急いで焼酎とさらしを探しに行った。
「すんません、お待たせしました。これ持って行っておくんなはれ」
「ありがとうございます!」
俺は深々と礼をして、家へ戻った。
「伊佐美さん!貰ってきました!」
「どうもすみません」
伊佐美さんは傷口に焼酎をかけて、ほぐしたヨモギを貼った。
「太陽くん、このさらしを巻いていただけませんか」
「あ・・はい」
「太陽くんの時代では、病院とやらへ行けば、すぐに適切な手当てをしてくれますが、今の時代はこうやって治すんですよ」
「そうなんですね・・・」
「まあ、深手を負った場合は医者に診てもらいますけどね」
俺はさらしを巻き終わった。
「私は太陽くんに謝らなければいけません」
「えっ・・・」
「私はあなたに、いざとなったら抜きなさいと言いましたが、自分から斬りこんでいけと言った覚えはないですし、どうやら勘違いさせてしまったようですね。申し訳ない」
「そんなっ・・・」
「私は、いざという時の護身用として、その刀を渡しました。あくまでも相手が襲って来た時のためです」
「はい・・・」
「でも、あなたは八之助さんを助けるために、斬りかかって行きましたね」
「はい・・・でもそれは、あのままだと八之助さんが殺されてしまったかも知れませんよ!」
「それでもかまいません」
「ええっっ!!!」
「私はあの者より、あなたの命を守ることが私の役目です」
「役目って・・・」
「無事に元の時代へ帰すまで、あなたの命を守る、それが私の役目です」
「目の前で殺されそうな人を、放っけと言うんですか!」
「そうです」
「そんなっ・・・」
俺は、とても伊佐美さんの口から出た言葉とは思えず、唖然としていた。
「伊佐美さんなら、どうしましたか!?」
「もちろん、助けます」
「そうでしょう!なら、俺だって同じです!」
「バカを言わないでください!」
「えっ・・・」
「実力の無い者に、何ができるというのですか!むざむざ殺されるようなのもですよ!」
伊佐美さんの激高した姿に、俺は圧倒された。
「・・・・」
「いいですか、勘違いしないでください。私はあくまでも、最後の手段として抜きなさいと申したのです。抜く前に逃げるという方法が可能なら、そうなさい」
「・・・・」
「殺されたら、そこでお終いです。二度と元の世界には戻れませんし、ここで生きることも断たれるのです」
「でも・・・でも・・・俺はあのまま見て見ぬふりをするなんて・・・だって・・・八之助さん、すごく怯えて・・・」
少し、沈黙の時間が流れた。
「太陽くん、この刀で斬って差し上げましょうか」
「えっ・・・」
「斬られることが、どれほどの恐怖か、教えて差し上げましょうか」
「じ・・・冗談でしょ・・・」
伊佐美さんは素早く刀を抜き、俺の首に突き付けた。
「ひっっっっ!!」
「動いたら、斬れますよ」
うそ・・・嘘だろ・・・
ううう・・・首に冷たいものを感じる・・・刀が俺の首に当たってる・・・・
こ・・・怖い・・・
俺は、正直、もらしそうだった。
「どうですか」
「あ・・・あの・・・しまってくれませんか・・・」
「いいでしょう」
カチャ・・
伊佐美さんは刀を鞘に収めた。
「太陽くん、その恐怖を忘れてはいけませんよ」
「・・・・」
「でも、何度も申しますが、いざとなれば迷わず抜きなさい」
「は・・・はい・・・」
「さて、寝ますか」
「はい・・」
俺は次の日から、毎日、壬生寺へ行き、剣術を習った。
殺されてたまるか!絶対に生きて元の時代へ帰るんだ!
それまでは、この時代を何としてでも生き抜かないと!!
「星川くん、顔つきが変わりましたね」
「そうですか」
「腕前も、なかなかですよ」
「そうですか!俺、戦えますか!?」
「あはは。まさか」
沖田さんに笑われ、俺はうな垂れた。
「俺とやりますか」
「いいんですか!」
うわあ~~~・・・一番隊の組長だ。。
よーーしっ!行くぞ!!
「お願いします!」
俺は前へ前へと踏み込み、打ち込めるだけ打ち込んだ。
沖田さんは軽くそれを交わし、防戦で対応してくれていた。
くそっ・・・中へ入らせてもらえない。
すると沖田さんの姿が目の前から消えた。
次の瞬間、俺は胴を突かれていた。
なっ・・・なんだ・・・今のは。。
沖田さんは体をかがめていた。
そうか!腰を落としたのか。だから目の前から消えたのか。。
なんて早業だ!!こんなの、ついていけない。すごすぎる・・・
くそっ・・・くそっ・・・
それから俺は暇を見つけては、家で素振りの稽古を繰り返した。
伊佐美さん、斎藤さん、沖田さんに稽古をつけてもらい、俺は少しずつ上達していった。
ある夜。
「太陽くん、逞しくなりましたね」
「そうですか」
「ここへ来た頃と、まるで別人ですよ」
「ほんとですか!」
「でも過信は禁物ですよ」
そう言って伊佐美さんは厳しい顔をした。
「よう、太陽」
次の日の昼、土方さんが訪ねて来た。
「土方さん!」
「元気にしてるか」
「はい!」
土方さんは中へ入って、座敷に座った。
「俺も忙しくてな。なかなか様子を見てやれなくてすまんな」
「いえ!毎日、伊佐美さんが来てくれますし、大丈夫です」
「そうか」
「あ、お茶いれますね」
「ああ、すまんな」
俺は湯を沸かした。
「これと同じことが、お前の家であったな」
「そうですね」
「なんだ、「ぺっとぼとる」とかいう物に茶が入ってたな」
「はい、そうでしたね」
「今から思うと、嘘みてぇだな」
「ほんと、そうですね。あの頃の土方さんって、部屋をキョロキョロ見まわしてましたね」
「珍しものがたくさんあったからな」
「あ・・そういえば、葛下さん、土方さんや伊佐美さんと過ごした日々を、とても喜んでました」
「葛下さんかぁ・・・なつかしいな」
「いい思い出が出来たって・・・」
「あの人には世話になったな。結局、借りた金を返せないままだ」
「そんなのいいですって。思い出だけでじゅうぶんだと思います」
「湯が沸いたようだぞ」
「あ、はい」
あっ・・・これも前と同じだ。ははっ。
「どうぞ」
「すまんな」
「土方さん、俺、元の時代に戻れるまで、絶対に死なないようにします」
「そうだな」
「毎日、稽古もしてるんですよ」
「そうらしいな」
「伊佐美さんが上達してるって言ってくれました」
「なあ、太陽・・」
「はい」
「お前、ほんとうは辛いんだろう」
「えっ・・・」
「俺だからわかる」
「・・・・」
「お前には選択肢がねぇ。ここで生きていくしかねぇ。でも元の時代に馳せる想いは消えねぇんだ」
「・・・・」
「俺はここに戻ってこれて、みんなとも再会できた。奇跡は何度だって起きる。お前は元の時代へ戻って新五郎や京太郎に再会して、また変わりなく暮らすんだ」
「ううう・・・」
「だから、それまで絶対に死ぬんじゃねぇぞ」
「は・・・はい・・」
「伊佐美が守ってくれるさ。だから心配すんな」
「はい・・・」
「茶、うまかったぞ。じゃ、またな」
そう言って土方さんは出て行った。
そうだ。奇跡は何度だって起こる!
俺は、そう自分を奮い立たせたが、どうしようもない不安と淋しさに襲われた。
新さん・・・ううう・・・帰りたいよ・・・
第二十七章END




