不審人物
第二十五章
「いてはるぅ~?」
次の日、戸が開いたと思ったら八之助さんが立っていた。
「あ、八之助さん、どうも」
「これな、おすそ分け持って来たんや」
「えっ・・」
「たくあん、嫌いか?」
「い・・いえ・・好きです」
「あんた一人で暮らしてるんやろ?困ったことがあったら、なんでも言うてや」
「はい、ありがとうございます」
「ほな」
そう言って八之助さんは出て行った。
たくあんか・・・俺・・苦手なんだよな・・
でも、せっかく持ってきてくれたんだし、おかずだって少ないし、贅沢言ってられないな。。
ポリッ・・・
あれっ、美味しいぞ!これ。
シンプルな味なんだけど、美味しい。
「こんにちは」
「あっ、伊佐美さん、こんにちは」
「おや、たくあんですか」
「はい、近所の八之助さんに頂いたんです」
「そうですか、それはよかったですね。そろそろ水がなくなるころだと思って。一緒に井戸へ行きましょう」
「はい」
俺と伊佐美さんは桶を持って、近所の井戸へ行った。
わあ~~主婦の人たちかな。みんな笑いながら喋ってる。
「あら、どうも、伊佐美はん」
「こんにちは、みなさん。今日も賑やかですね」
「相変わらずええ男ですなぁ~伊佐美はん」
「またそんな。からかわないでくださいよ」
「今度、土方はんも連れて来てぇなぁ~」
「はいはい、わかりました」
立て続けに伊佐美さんは、主婦たちから「口撃」を受けていた。
その後も主婦たちは、やれ旦那がどうのとか、子供がどうのとか、話が途切れることがなかった。
なるほど・・・これが「井戸端会議」ってやつか。
「さ、行きますよ、星川くん」
「あらぁ~~そちらのお若い方も、お侍はんですかぁ~」
「いえ・・俺は・・一般市民です・・」
「いっ・・?いっぱんしみん・・?」
あっ・・・しまった・・何て言えばいいんだろう・・
「この人は江戸から越して来た人ですよ。お見知りおきを」
よかった・・伊佐美さんがフォローしてくれた。
「そうですの~~よろしゅうね。かっこええお兄さん」
「は・・はい・・」
なんかすごいな・・・時代が違っても主婦のパワーってのは、変わらないんだな。
「みなさん気のよい方たちばかりですよ」
歩きながら伊佐美さんは、そう呟いた。
「そ・・そうですか・・」
「圧倒されましたか?」
伊佐美さんは、そう言って笑った。
「ああ・・・はい・・」
それから夜になり、俺は晩御飯を食べていた。
そうだ・・明日、チョコをあの子供にあげようかな。
ずっと置いてても、なんだしな。
喜ぶかな~~あの男の子。
カサカサッ・・・
なんだ?外で音がしたぞ・・・誰か来たのかな・・
伊佐美さんかな・・・
でも俺は、嫌な予感がして戸を開けるのをためらった。
はっ・・行灯の灯を消した方がいいかな・・
俺は灯を消し、刀を抱え奥の部屋に隠れた。
誰も入ってくるな・・・入ってこないで・・・
ガラガラ・・・・
あっ!入って来た!!うわ・・・どうしよう・・・
「おかしいな、さっきまで灯りが点いていたはずだが・・・」
「隠れているのかも知れんぞ・・」
男、二人か??
「誰かいないか!」
一人の男が声を上げた。
うわっ・・・どうしよう・・・
俺は音をたてないように、裏口へ近づこうとしたその時、何かをひっくり返した。
ガタッ
し・・・しまった!!!
「いるんだな・・出てこい」
「おい!隠れても無駄だ」
どうしよう・・・出て行ったら殺されるかも知れない・・・
男たちは座敷に上がってきた様子だった。
どうしよう・・・もう見つかる・・・
「誰だ!」
あっ!!伊佐美さんの声だ!!
「なんだ、貴様」
男が低い声でそう言った。
「お前たちこそ、ここになんの用だ」
「ここはお前の家か」
「そうだ」
「そうか。すまなかった」
そう言って男たちは出て行った様子だった。
「星川くん!」
俺は恐る恐る、伊佐美さんのいるところへまで這って行った。
「大丈夫か!ケガはないか!」
「伊佐美さん~~ううう・・・」
伊佐美さんは持っていた提灯を置いて、俺の肩に手を置いて心配してくれた。
「怖かっただろう、大丈夫か?」
「はい・・・怖かった・・・怖かった・・」
伊佐美さんは行灯に火を点けてくれた。
「君をここに一人で住まわせるのは、心配ですね・・・」
「・・・・」
「昼間はいいとしても、夜は危険ですね」
「・・・・」
「わかりました。明日、副長に相談して、私が夜だけここに来るとしましょう」
「いいんですか・・・」
「はい。だから心配しないでください」
「あ・・・ありがとうございます・・」
よかった・・・伊佐美さんがいてくれたら安心だ・・・
「あ、食事中だったのですね。どうぞ召し上がってください」
「いえ・・・もう食欲が・・・」
「いけません。ちゃんと食べなさい」
「はい・・・」
俺は仕方なくご飯を食べた。
「未来と違って、このような住まいには「鍵」というものがありませんので、心張り棒が鍵の代わりです」
「そうなんですか・・・」
伊佐美さんは裏口へ行き「心張り棒」というものを持って来た。
そうか・・つっかい棒のことか・・
「昼間も心張り棒で戸締りしていなさい」
「はい・・」
「私は夜具を持ってきます。すぐに戻ってきますので心配しなくていいですよ」
そう言って、伊佐美さんは出て行った。
はぁ~~~・・・もう寿命が縮まったよ・・・
ほどなくして伊佐美さんは、布団を持って帰って来た。
「さて、そろそろ寝ますか」
「伊佐美さん、屯所の方は大丈夫なんですか」
「大丈夫です。星川くんはなにも心配しなくていいですよ」
「そうですか・・なんかすみません・・俺、何もできなくて・・・」
「なにを言ってるんですか。ちゃんと刀を持っていたじゃないですか」
「え・・・」
「襲ってきたら、迷わず抜くのですよ」
「・・・」
「抜かなければ殺されます」
「抜くって・・・そんな・・」
「星川くん・・何があっても決して諦めてはいけません」
「・・・・」
「君は、曲がりなりにも素振りは経験しています。構えだけはできるはずです。それで威嚇するだけでも違うのですよ」
「そうですか・・・」
「だから、何があっても絶対に諦めてはいけません。殺されたらそこでお終いですよ」
「はい・・」
「さ、寝ましょうか」
刀を抜くって・・・そんな・・・俺にはできないよ。。
無理だ・・・絶対に無理・・・
俺は次の日、部屋で刀を抜いて構えてみた。
ダメだ・・・手が震える・・・怖い・・
上から振り下ろして・・・えいっ!
ブンッ
刀は風を切る音を鳴らした。
うわ・・・
俺は何度か素振りの要領でやってみた。
こんな感じなのかな・・・
でも今は誰もいないからできるけど・・・相手がいたら無理だ・・・
しかも襲ってくる相手だぞ・・・無理だよ・・・
俺は刀を鞘にしまった。
そういえば新さんは・・・この時代で刀を振り回してしたんだな。。
すごいよ・・・新さん。。
第二十五章END




