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平成剣士  作者: たらふく
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貫く意味

第二十四章



翌日、俺の住まいが決まった。

八木邸からは、それほど離れておらず、歩いて10分くらいのところにあった。

伊佐美さん、すごいな。たった一日で見つけて来ちゃった。


そこは長屋の中にある一軒家。一軒家といっても、隣とはくっついているので、アパートみたいなもんだな。


「太陽くん、入ってください」

「はい」


わあ・・・昔の家だ。。

学校の社会見学で見たことある。。


「君の時代と違って「電気」や「ガス」はありませんので、灯りはこの行灯、かまどの火は薪で起こします。夜具は押し入れに入ってあります」

「は・・はい・・」

「最初は不安かも知れませんが、暫くたてば慣れますよ。とりあえず火の起こし方を教えます」

「はい・・」


伊佐美さんは慣れた手つきで、かまどに火を起こした。


「ここで飯を炊き、おかずを作ります」

「はい」


一通り教えてもらった。

なんか、面倒だけど、昔の人は全部こんな風にやってたんだな。

今なんか何でもボタン一つだもんなあ。

あ・・・今っていうか、未来は。


「これは火打石です。これを摩擦させて行灯に火を起こしてください」

「はい」


火打石か・・・マッチは無いんだな。。


カチッカチッ


あっ、火花だ。おお、点いたぞ。

へぇーこんな風に火を点けるのか。


「よくできました」


そう言って伊佐美さんは笑った。


「この時代って、なんていうか、面倒っていうか・・・」

「そうですね。太陽くんの時代とは全く違いますね」

「今の暮らしと比べてどうでしたか」

「うーん、確かに便利でしたが、その分、人々は余計なことに気を回し、運動不足にもなってましたね。三杉浦さんもそうでしたね。はは」

「あはは、浦さん、太ってましたからね」

「人間には「ころあい」というものがあります。過ぎたるは及ばざるがごとし・・でしょうか」

「なるほど」

「どれだけ己を自制できるかが、肝要なのではないでしょうか」

「はい」

「不便は不便なりに利点もあります。たくさん学習もできます。いざという時、困りませんよ」

「はい」


「太陽くん・・」


な・・・なんだろ。伊佐美さん。急に深刻な顔して・・・


「はい・・」

「私は知ってるんです」

「なにをですか」

「新選組が、今後どんな道を辿るのかを」

「えっ!」

「局長や、副長、沖田さんがどうなるのかも」

「な・・・なぜ・・」


俺は言葉に詰まった。

知っていながら、伊佐美さんはなぜ、新選組に??


「私は未来へ行った時、書物を読みました」


えっ・・・そうだったんだ・・・


「なぜ・・・」

「私は知りたかったのです」

「怖くなかったんですか・・」

「その気持ちは否めません。しかし知りたい気持ちに負けました」

「・・・・」

「でも知ってよかったですよ」

「えっ・・・」

「確かに新選組は「時代遅れ」でした。しかし、それは未来の人々がそう思うのであって、当の人間にはわかりません」

「はい・・」

「この先、幕府は倒され、やがて新しい「明治政府」が樹立します。でもそれでよかったのです」

「そうなんですか・・」

「このまま徳川幕府が続いたところで、あっという間に外国に侵略されてしまうのは自明です」

「・・・・」

「明治政府の下、新しい国づくりをしなければ日ノ本は亡国の一途を辿ります。そうなれば君は生まれてなかったかも知れませんよ」

「えっ・・」

「新選組は逆の立場の佐幕ですが、徳川幕府は200年以上も続き平和を謳歌してきました。それを倒そうとする勢力が現れたら守ろうとするのは当然のことです」

「はい・・」

「未来の人たちにすれば、間違っていた、となるのでしょうが、それを誰が咎めることができるでしょうか。私は新選組の直向き過ぎるほどの武士への憧れを否定することはできません。私は命が尽き果てるまで、新選組隊士として力を尽くす決意です」

「でも・・・土方さんたちがいつ死ぬとかわかってて、辛くないんですか」

「辛くありません。私もこの時代の人間です、例え未来を知っていようと、この時代の人間として生きます」

「・・・・」

「それと、私は君たちの時代を見てきました。日ノ本は滅んでいません。それがなにより嬉しいのです」

「・・・・」

「君たちの時代を辿るまで、様々な大戦おおいくさがありましたね。「世界大戦」というのでしょうか。今よりもっと苦難の時代を迎えます。それでもこの国の人々は戦い、立ち上がってきました。それを経て君たちの時代があるのですよ」

「はい・・」

「我々は生まれた時代が違っても、長い糸で永遠に繋がっているのですよ。それを忘れないでください」

「は・・はい・・」

「少し話が長くなりましたね。では私はこれで。くれぐれも出歩かないように。また明日、まいります」

「ありがとうございました・・・」

「それと、これは護身用の刀です。なにかあれば抜きなさい」

「えっ・・・」


そう言って、伊佐美さんは出て行った。

か・・・刀。。うわ・・・本物だ・・・

俺は恐ろしくて、その刀を部屋の隅に置いた。


それにしても伊佐美さん・・・知ってて最後まで新選組のために・・・

俺には到底真似できない。

そんな勇気、俺にはないよ・・・


それにしても隣の家は、うるさいな。

子供の声か?走り回ってるし・・・

木造で密接してると筒抜けだよな。


やがて俺は眠りについた。


朝になって、ご飯を炊き、昨日、伊佐美さんが持ってきてくれた野菜を切って、適当におかずを作った。

ひぃ~~めんどくせぇ~~

パンだったらトースターで焼いて、すぐなのに。。

コーヒーもないし・・・コンビニもないしな・・・

でも食べなきゃ死んじゃうし・・・死んだら元の時代に戻れないし・・・


俺はブツブツ呟きながら「幕末」で、自分で作った初の朝食を摂った。

ん?意外と美味しいな。

ご飯もふっくらしてる。かまどで炊いたのって、こんなに美味しいんだ。

でも新選組の屯所で食べたご飯は、これほどではなかったぞ。

誰だ、作ったの。


「おはよう」

「あっ、沖田さん、おはようございます」

「どうですか、具合は」

「はい、そこそこ・・」

「あはは。そこそこね。まあ仕方がないですね」

「すみません・・」

「何かあったら言ってください」

「はい」

「では、俺は見回りに行ってきますので、これで」

「はい、ありがとうございます」


見回りか・・・

そういえば土方さんが「京の治安を守る」って言ってたな。

警察のパトロールみたいなものか。


俺は戸を開けて外の様子を見てみた。

わあ・・・いろんな人がいるな。

みんな着物着て、ちょんまげ結ってるし、女の人は高島田?っていうのかな。

まさに時代劇、そのものだ。

そのうち水戸黄門も出てきそうだな。


「おや、見慣れん顔やね」


一人の男性が声をかけて来た。


「あ・・・どうも・・」

「ここに住んどるん?」

「はい・・」

「へぇー」

「しばらくここに住みますので、よろしくお願いします」

「そうですかいな。よろしゅう。私はあっちの端に住んどる、八之助いいます」

「わ・・私は・・星川太陽っていいます」

「あんた、江戸から来はったんか」

「江戸・・・あっ、はい、そうです」

「そうどすか。ほな、また」


八之助さんか・・・いくつくらいの人なんだろう。

この時代の人って大人に見えても結構、若かったりするからな。

俺は、あまり顔を知られてもマズいと思い、家に入った。

そうだ。ズボンの中に携帯が入ってたはずだ。


俺は携帯を取り出し、画面を見てみた。

うん・・・わかってた。。そりゃ電波やアンテナなんてないもんな。使えるはずがない。

鞄の中にもろくなもんが入ってないもんな・・・

そう思いつつも、鞄を開けた。


財布とティッシュと・・・えっと・・あっ、チョコが入ってる。

ええー・・・いつのだ?こんなの入れたったけなあ。

あとは・・・あはは、なんだこれ、道場のイベントのチラシじゃないか。

懐かしいな・・・こんなこともあったよなあ。


それにしても、伊佐美さんの言った「長い糸で永遠に繋がっている」という言葉が印象的だった。

考えてみれば確かにそうなんだよな。

日本ってずっと長い間続いてきた国だし、一度も途切れてないんだよな。

それはほんとに、長い一本の糸で繋がってるんだ。

どこかで切れちゃったら、そこでお終いになるんだ。


国ってずっと続くもんだと思ってたけど、そうじゃないんだな。

昔の人たちがずっと守って来たから、俺たちの時代まで続いたんだ。

それこそ徳川幕府があのままだったら、俺は生まれてないかも知れないんだ・・・

っていうか、そもそももう、日本なんて無くなってたのかも知れない。


俺、もっと勉強しなくちゃな。


俺は昼ご飯を食べて、壬生寺へ行くことにした。

出歩くなって言われたけど、やっぱり一人でいてもな・・

そもそもやることがない。テレビもネットもないし・・


寺へ入ると新選組と思しき人たちが、剣の稽古をしていた。

見つかったらヤバいかな・・俺は少し離れたところで見ていた。


「待てーーお兄ちゃん、ずるいわ~~」

「あはは、ここまでおいで~~」


あれは・・・沖田さんが子供に追いかけられているぞ。

なにやってるんだろう・・・


「ああ~~つかまった。まいった!」

「今度はお兄ちゃんが鬼やで」

「わかった。じゃ十数えるからな」

「きゃーー」


そう言って子供は走って逃げた。

ああ、鬼ごっこやってるのか。

へぇー沖田さんって子供が好きなんだな。

あ、そういえばそんなこと言ってたっけか。


「俺も入れてください」

「あ、星川くん。いいですよ」


俺も加わり、子供と一緒に逃げた。


「逃げろ~」

「あんた誰なん」


子供がそう言って来た。


「うーんと、俺も今日から鬼ごっこする人」

「へぇーそうなんや、ええで」

「よしっ、そしたらお兄ちゃんと一緒に逃げよう!」

「うん!」


俺は慣れない草履のせいで、走りにくかった。

でもこんなに全速力で走ったのって、いつだろう。

運動会の時くらいか・・・


「走れ~~~」


「ゴホッ・・・コボッ・・・」


あっ・・・沖田さん・・・


「沖田さん、大丈夫ですか!」

「うん、大丈夫」

「あの・・・あまり無理しない方が・・」

「平気です・・」


でも辛そうだ・・・沖田さん。


「お兄ちゃん、どないしたん?大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ・・」

「なんか顔色悪いでぇ・・」

「そうかな。ちょっと休もうかな・・」

「うん、そうしぃ」

「じゃ、鬼ごっこは、また今度な・・」

「わかった。ほな帰るわ」


そう言って男の子は走って帰った。


「沖田さん・・・」

「ちょっと休めば平気ですから・・」

「でも・・帰って横になられた方がいいですよ」

「うん・・後で・・」


「どうした、総司」

「あ・・ゴボッゴボッ・・」


誰だ・・この人。。


「お前は誰だ?」

「えっ・・・」

「山南さん、この人は俺の友人です」


山南・・・えっと・・誰だったけな・・・

山南・・・山南・・・


「は・・はじめまして・・星川太陽といいます・・」

「そうか。私は山南敬助と申す」

「は・・はい・・」


あっっっ!思い出したぞ!この人、切腹させられるんだ・・・

なんでそうなったのかは、わからないけど・・・切腹を・・・


「総司、まだ風邪が治ってないんじゃないか。帰って寝た方がいい」

「はい・・そうします・・」


山南さんは沖田さんに肩を貸して、屯所へ帰って行った。


第二十四章END

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