戸惑い
第二十三章
「おい、伊佐美!伊佐美!」
土方さんは大きな声で伊佐美さんを探していた。
「はい、副長、ご用でしょうか」
「伊佐美、これを見ろ」
俺を見た伊佐美さんは驚愕していた。
「太陽君!!」
「伊佐美さん~~~!!」
「副長、ここではなにかと面倒ですので、場所を移動しましょう」
「ああ、そうだな」
そして俺たちは、壬生寺の境内へ移動した。
「太陽くん、お元気でしたか」
「はい・・」
「いやあ、ほんとに驚いたぜ」
「俺・・・どうしていいか・・・」
「いいか、よく聞け。俺たちが未来へ行ったことは近藤さんと総司しか知らねぇ」
「そうなんですか・・」
「それと新五郎が消えちまったことは、里に帰ったと説明している」
「新さん、未来へ戻ってきましたよ!」
「おお、そうだったのか。それはなによりだ」
土方さんも伊佐美さんも、ちっとも変わってない。その点はすごく安心できた。
「それでだ。お前がなぜ、ここに来たのかは知らねぇが、いつ戻れるかもわからねぇってこった」
「はい・・」
「新五郎の場合は入隊希望者だと言って連れて来た。他の隊士たちは違和感なく受け入れた。あいつはかなりの腕前だったからな」
「はい・・」
「お前はどうするよ」
「わ・・・わかりません・・」
「副長、私の実家で働いていたことにするのはいかがでしょう」
「あ・・それならさっき、沖田さんが俺のこと「友達」って他の隊士の人に説明してました」
「そうか。よし。総司が町で知り合った友人ということにするか」
「はい、副長」
「なら、屯所で住むわけにはいかねぇな」
「私が心当たりを探してまいります」
「うん、たのむぞ、伊佐美」
「はい、では早速・・・」
そう言って伊佐美さんは走って行った。
「それにしても、何がどうなったんだ」
「あの公園あったでしょ。あそこの前で転んだんです、俺。そしたらここに来ちゃってて・・」
「そうか。それにしても、お前、情けない顔するんじゃねぇよ」
「はい・・・」
「俺が着るものを持ってきてやるから、ここで待ってろ」
「はい」
土方さんは急いで屯所へ走って行った。
どうしよう・・・これからどうなるんだろう・・・
「ほら、これに着替えろ」
土方さんは着物と草履を持ってきてくれた。
「はい、すみません」
俺は着ていた服を脱ぎ、着物に着替え、靴も草履に履き替えた。
「これ、スニーカーってやつか?懐かしいな」
「ああ・・・はい」
「これ、窮屈だったぜ」
「そうですよね・・」
「なあ太陽」
「はい」
「もう、こっちに来ちまったもんはしょうがねぇ。くよくよしねぇで、元気出せ」
「はい」
そうだな。土方さんだって、未来の暮らしに慣れようと努力していたもんな。
でもさ・・でもさ・・ここはいつ殺されるかもわからない時代なんだよ?
これは決定的に違うよ。ああ・・・俺、どうなるんだろう・・・
「副長」
「どうだった?」
伊佐美さんが戻って来た。
「目星は付けたのですが、まだ調べることがありますので、今夜は太陽くんを屯所に連れて行きましょう」
「そうか。総司を訪ねて来たことにすりゃあ、疑われることもねぇか」
「はい。その旨、私から沖田さんに話しておきます」
そして俺たちは屯所へ帰った。
すると部屋の中は隊士の人たちで溢れかえっていた。
うわあ・・・怖い・・・
「太陽、近藤さんを紹介するから来い」
土方さんにそう言われ、俺はある部屋に連れて行かれた。
「近藤さん、入るぜ」
「ああ」
うっ・・・これが近藤さんの声か・・・
「お邪魔します・・・」
「ん?歳、こいつは誰だ」
「総司の友人で星川太陽ってんだ。久しぶりに総司に会いたいってことで訪ねて来た。今夜はここに泊めるがいいか」
「ああ、わかった。ゆっくりしてってくれ、星川くん」
「はい・・・ありがとうございます」
すごい顔だな・・・怖い・・・
そして部屋を出た。
「土方さん」
「総司か」
「話は伊佐美くんから聞きました」
「そうか」
「それで私はこの者と一緒にいればいいんですか」
「いや、それはいい。こいつは俺の部屋へ連れて行く」
「わかりました」
平成の「沖田総司」とえらい違いだな。
話を聞いてて思うけど「ええー!」とか言わないんだな。
なんか、必要なことだけを、淡々と話している気がする。
俺は土方さんの部屋へ入った。
「ここは俺専用の部屋という訳ではねぇが、俺は実務をやってるんでな」
「そうですか・・」
「まあ、座れ」
「はい」
「副長、入ってもよろしいですか」
「ああ」
伊佐美さんが食事を持ってきてくれた。
「他の者と同席するのは問題かと思いまして、食事を持ってまいりました」
「すまんな」
「沖田さんの食事はいかがいたしましょうか」
「そうだな、総司のもお前のも持って来い。一緒に食おう」
「承知しました」
「太陽、「リラックス」しろよ」
土方さんはそう言って笑った。
「はい・・・」
俺、笑えないんだけど・・・
土方さんは机に向かって何か書いている。
実務をやってるって言ってたから、何かを記録してるのかな?
「土方さん、何を書いてるんですか?」
「句だ」
「句・・・。俳句のことですか」
「ああ」
「へぇー見せてください」
「バカ。見せねぇよ」
土方さんって俳句を詠むのか。意外だなあ。
「土方さん、入っていいですか」
「ああ」
沖田さんが入って来た。
「どうも、星川くん」
「あ・・どうも・・」
「どうですか、この時代に来た感想は」
「感想ですか・・えっと・・怖いです・・」
「あはは。そうですよね」
「・・・・」
「150年後の日ノ本って、別世界らしいですね」
「あ・・そうですね」
「俺も行ってみたいな」
「うーん、どうなんでしょう」
「どこへ行くにも乗り物があって、便利だと聞きましたよ」
「そうですね」
「美味しい食べ物もたくさんあるとか」
「はい。でもやっぱりその時代に生まれたら、その時代で生きる方が幸せだと思います」
「確かに。それぞれの役割ってあるし。ゴホッゴホッ・・」
「総司、まだ風邪が治らないのか」
「はい、長引いてます」
「あまり無理するなよ」
「はい」
沖田さんって・・・もうすぐ死ぬんじゃないのか。。
確か、新さんは結核で死ぬって言ってた気がする・・・
かわいそうだな・・・
「副長、入ってもよろしいですか」
「ああ」
伊佐美さんが食事を運んできた。
「さあ、食おうか」
三人とも背筋を伸ばして正座して、手を合わせた。
お・・・俺もやらなくちゃ。。
俺は座り直して手を合わせた。
「いただきます」
はあ~~・・・疲れるな。。
「どうだ、口に合うか」
「はい、とても美味しいです」
「そうか」
ほんとは、あまり美味しくなかったけど、まさか「美味しくない」なんて、言えないよ。
それにしても、早く帰りたい。。
「星川くん、あまり緊張しないで、もっと話を聞かせてよ」
沖田さんがそう言った。
「話・・・?」
「未来の話」
「あ・・そういえば、沖田さんと同姓同名の人がいます」
「ああ、聞きましたよ、それ」
「そうなんですか」
「俺の三段突き、やったらしいですね」
「はい」
「成功したそうじゃないですか」
「うーん・・・たまたまっていうか・・まぐれっていうか・・」
「あはは。でも嬉しいです。150年後もやってくれる人がいるなんて」
「はい」
こういう話って、生きる励みになるんじゃないかな。
もっと頑張ろうって思えるんじゃないかな。
「沖田さん。太陽くんは、ほんとに細々とよく働かれる方ですよ」
伊佐美さんがそう言った。
「そうですか」
「いつも、みなのために走り回って、副長と私がこの時代に帰れるようにと、奔走してくれました」
「なるほど」
「帰れるまでは、少しでも暮らしやすいようにと考えてくれました」
「そうですか」
「私は太陽くんや新五郎くんを見てて、自分のすべきことが何であるか確信しました」
「それは?」
「元の時代に戻ったら、少しでも国の行く末が安寧であるよう、新選組で命を懸けることです」
「そうですか」
「未来を見たからこそ、そのように固く決意した次第です」
「伊佐美くんの話を聞くと、ますます未来へ行きたくなりますね」
「総司は早く風邪を治せ」
「あはは。土方さんに一本取られましたね」
沖田さん、よく笑う人だな。
「太陽くん、君の住まいは間もなく見つかります。今後はそこで暮らしていただくことになりますが、平気ですか」
「俺一人ってことですか」
「はい。その方が君も気楽でしょう。私が毎日様子を見に行きますし、食材なども届けますのでご心配なく」
「そうですか、ありがとうございます」
伊佐美さんにそう言われ、「幕末」での暮らしがいよいよ始まるのだと、俺は不安で心が押し潰されそうになっていた。
第二十三章END




