逆転現象
第二十二章
「新さん、とりあえずその服はまずいです。俺んちへ行きましょう」
「・・・・」
俺は無理やりに新さんを引っ張り、羽織を脱がせ、鉢巻も外し家まで連れて帰った。
「早く入ってください」
「ああ・・・」
とりあえず新さんを座らせて、俺は向かい合って座った。
「新さん・・・」
「太陽・・俺は!」
「新さん、あなたは戻って来たんです。もう新選組と関係ないんです」
「関係ないって・・・」
「そうです。関係ない!新選組も幕末も、過去のことです!」
「お前はあの時代に行ってないからわからないんだ!」
「ええ!わかりませんよ!だからどうだと言うんです!?」
「新選組は・・新選組は・・不逞の輩だと蔑まれて・・でもっ・・」
「新さん!」
「なんだよ!」
「俺だって土方さんを実際に知って、不逞の輩だなんて思ってません。思想信条はそれぞれですが、武士になりたくて必死になって頑張ってきたことは知ってるつもりです!」
「だからなんだよ!」
「でも、それはもう終わってしまったことなんです」
「終わってない!」
「いえ、終わったことなんです。土方さんはあの時代の人でこっちに来て、あの人にとっては終わってないことでしたし、俺も新さんも帰してあげたい一心でしたよね。早く池田屋に行かせてあげたかったですよね。でも、新さんはこの時代の人です。過去に関わったら歴史だって変わるかも知れないんですよ!」
「変えられるものなら変えたいよ」
「それはダメですっ!」
「・・・・」
「ねえ、新さん・・・」
「なんだよ」
「その時代時代で間違いもあるし、正しいこともある。それを現代に生きる俺たちが「間違っていた」と知ったからといって、歴史を変える権利はないです。俺たちがやるべきことは過去の過ちを糺すのではなくて、繰り返さないことなんじゃないですか!?」
「・・・・」
「それに、例え過ちがあったとしても、俺たちが過去の人たちに対して現代の価値観を押し付けたり、ましてや歴史を糺す資格なんてない!」
「お前はわかってないんだ・・」
「わかってないのは新さんだ!俺たち、土方さんや伊佐美さんを見てきて何を思いましたか?新さん、どう思いましたか?」
「・・・・」
「ちゃんと生きようって思ったんじゃないんですか!?それが過去を受け継ぐってことじゃないんですか!」
「それは・・」
「だからもう、新さん。思い詰めないでください。新さんは現代に戻ってこれたんですから」
「ううう・・・」
「新さん・・・」
「一緒に走ってたんだよ・・・沖田さんと一緒に・・・」
「・・・・」
「もう少しで池田屋に到着するところだったんだ・・・」
「そうなんですか・・」
「あんなに・・・あんなに・・みんな必死で頑張って・・・」
「・・・」
「解散に追い込まれそうになって、それでも武士として生きていくために・・・」
「新さん・・」
「みんな・・・俺がいなくなって心配してるんじゃないかな・・」
「・・・」
「俺、みんなにかわいがってもらってさ・・最初は変な奴って思われたんだけど、土方さんや伊佐美さんがずっとかばってくれて・・」
「はい・・」
「俺も何か役に立ちたかった・・」
「新さん・・・役に立ちましょうよ」
「え・・・」
「この時代で剣士として、役に立ちましょうよ」
「剣士・・・?」
「そうですよ。新さんの実力はもう師匠クラスです。それこそ現役の「武士」たちと剣を交えてきたんでしょう?」
「うん・・」
「だったら何も迷うことはないじゃないですか。星川道場の師匠として、やっていきましょう」
「・・・・」
「俺も全力で支えますから」
「太陽・・・」
それから俺は、新さんたちが消えてしまった後のことや、映像が見えたことも全部話した。
新さんは着物を脱ぎ、俺の服に着替えた。
着物や羽織や土方さんの袴は、宝物として新さんが大事に保管することになった。
でも刀はなぜか消えていた。
それから二日後、あの公園は取り壊された。
俺は、これで全てが終わったと確信した。
ほんとに怒涛のように過ぎた数ヶ月間だった。
それからほどなくして、道場が再開した。
門下生には、土方さんや伊佐美さんのことは、暫く京都に住まいを移したと説明した。
でも俺は、そのうち本当のことを話すつもりだ。
信じてくれないかも知れないけど、二人を頼って、二人にあこがれて入って来た人たちに対しての、せめてもの誠意だと思っていた。
「えー、今日から私がこの道場の先生としてみんなを鍛えます。星川先生や伊佐美先生には及ばないまでも、一生懸命頑張りますのでよろしくお願いします」
新さんの堂々とした挨拶に、門下生から拍手が起こった。
「それと、京太郎くんも今日から正式に先生としてやってもらいます」
「よろしくお願いします。一生懸命やります」
京太郎くんは、少し照れながら挨拶をした。
よし・・これでいいんだ。
きっと土方さんも伊佐美さんも喜んでくれてるだろうな。
「こ・・こんばんはぁ~」
そこに沖田くんが入って来た。
「沖田くん!いつ来たの?」
「はいぃ~、さっき着きましたぁ~」
「そうかー!こっちおいでよ」
沖田くんは俺の横に座って、周りを見渡していた。
「あれ、先生は?」
「ああ・・えっと、急に京都に用事ができて、暫く帰ってこないんだよ」
「そうなんですかぁ~、淋しいなぁ~」
「それより、よく来たね。家はもう決まったの?」
「はいぃ~、引っ越しも済みましたぁ~」
「そっかー、よかったね」
そして稽古が始まった。
うん、これこれ、この雰囲気だよ。
土方さんたちはいないけど、新さんと京太郎くんが引っ張っていってくれる。
そして俺は、マネージャーとしてこの道場を支えるんだ。
あっ、沖田くん、また三段突きの構えやってるぞ。もっと基本っていうか、そっちをやった方がいいのにな。
「沖田!本物の三段突きはこうだ!」
そう言って新さんが見本を見せた。
うわっ・・・・すごいぞ。沖田くんと格が違う。。
そうか。本物の沖田さんに教えてもらったんだな。
「はいぃ~~・・・」
「それよりお前は、基礎からやり直し!まず素振り300回だ!」
「ひぃ~~、わかりましたぁ~~」
あはは。沖田くん、おもしろいな~
そして稽古後の打ち合いを、新さんと京太郎くんもやることになった。
いいな~~これって懐かしい光景だな。
それにしても新さん、どんだけ強くなったんだよ。
土方さんや伊佐美さんと同レベルだな、これは。
そっかぁ・・・よっぽどあの時代で稽古したんだな。
言ってみれば、これは「本物」だな。
京太郎くんも、かなり戸惑っているな。
そして俺は次の日、葛下さんの家へ行った。
「星川くん、よく来てくれましたね。その後が気になってたんですよ」
「はい、そのご報告にまいりました」
俺はいつもの和室に通された。
「なにやらすっきりした表情に見えますが、良い結果になったのですか」
「はい。新五郎さんが帰ってきました」
「おおお、それはなんと嬉しいことでしょう」
俺は新さんが帰って来た状況を全て話した。
「それはなによりです、本当によかったですね」
「はい、色々とご心配をおかけしました。それで道場なんですが、再開しまして、新五郎さんと京太郎くんという中学生の子なんですが、この二人に先生をやってもらうことにしました」
「そうですか」
「京太郎くんは、まだ若いですが腕は確かです」
「そうですか、はい」
「それで、今後も建物や土地をお借りしたままでよろしいのでしょうか・・」
「なんの。心配ご無用です。むしろ使ってください」
「そうですか、ありがとうございます」
俺は深く頭を下げた。
「若い人たちが良い先生に習って、身も心も真っすぐに育ってくれることは、なによりの願いですからね」
「はい」
「そのためなら、私は何でも協力しますから、遠慮しないでくださいね」
「はい、ありがとうございます」
「あ、それと。私はまた一人になってしまいましたから、ちょっと淋しくなりましてね。よければ時々、道場の皆さんで遊びに来てくれると嬉しいのですが」
「あ・・はい。わかりました。そうさせていただきます」
「よかった。これで楽しみが増えました」
それから俺や新さんは門下生を連れて、葛下さんの家へ通うようになり、簡単な家事や庭の手入れもさせてもらった。
土方さんたちとの暮らしを思い出しているのかな、葛下さんはとても嬉しそうだった。
ある日の帰り道、俺は元公園があった場所を通り過ぎようとしていたら、石に躓いてこけてしまった。
痛てっ・・・まいったな・・どろだらけになっちゃった。
ひぃ~~手も擦り剥いちゃったよ。
俺は起き上がって愕然とした。
なんだ・・・ここは・・・
見覚えのない風景だぞ・・・
えっ・・・・どういうこと・・・??
それになんだ・・・この木造家屋は・・・
ビルはどうした??電柱はどうした??
コンビニは・・・銀行は・・・えええええ!!!
落ち着け・・・落ち着け・・・俺っっ!!!
俺は元公園の前でこけたんだよな・・・公園・・・・ま・・・まさかっっ!
ここはどこだああああーーー!!!
「新選組だーー!新選組がまた来やがったぞーー!」
一人の侍?らしき人がそう言って走って行った。
し・・・新選組・・・ま・・・まさか・・・
俺はとりあえず、身を隠した。
どうしよう・・・どうしよう・・・
パタパタパタ・・・
あっっっ!新選組だ。。誰だあれは・・・知らないぞ。
ガタンッ・・・
ひっ・・・しまった。。桶を倒してしまった。。
「誰だ、そこにいるのは」
うわ・・・・見つかってしまった・・・どうしよう・・・殺されるかもしれない。。
「出てこい」
「あの・・・」
俺は観念して出て行った。
「誰だ、貴様」
「あの・・・私は怪しいものではありません・・・」
「なんだ、その変な格好は」
「どうしたんですか」
一人の男がやってきた。
あ・・・この人も新選組だ・・・確かこの顔は・・・
「おう、総司か」
総司・・・そうか・・沖田総司か・・・この人・・・
「こいつ、隠れてやがったんだよ」
「そうなんですか」
「変な格好しやがって。怪しい奴だ」
「そこで何をしてるんだ?」
沖田さんがそう言った。
「あの・・・私は怪しいものではありません・・・」
「名前は?」
「えっと・・・星川太陽と言います・・・」
「えっ!星川太陽??」
「なんだ、総司。知ってるのか」
「いえ・・別に」
「で、こいつどうする」
「放っといて行きましょう」
「そうか」
そう言って二人はさっきの侍らしき男を追いかけて行った。
ど・・・どうしよう・・・
俺は、幕末の京都に来てしまったんだ・・・
ううう・・・嫌だ・・・嫌だ・・・きっと殺される。。
新さんは剣術習ってたからいいけど、俺は素振りしかしてないもんな・・・
戦うっていったって、無理だあああ!!
この服、どうしよう・・・これだけで怪しまれる。。
着物・・・着物がどこかにないかな・・・
「星川くん・・」
えっ・・・
振り向くと沖田総司が立っていた。
「きみ、星川って言ったな。俺知ってるんだ。きみのこと」
「え・・・」
「みんなには内緒だが、土方さんから聞いてる」
「そ・・・そうなんですか・・・」
「それにその格好。未来から来たんだな」
「はい・・・」
「そんなに怖がる必要はない。着いて来い」
そう言われて俺は沖田さんの後を着いて行った。
「それにしても、この間は新五郎。次はお前か。どうなってるんだ、一体」
「・・・・」
「新五郎は突然いなくなってしまうし」
「新五郎さんは元の時代へ帰ってきました・・・」
「そうなのか」
「はい・・・」
そして着いたところは八木邸だった。
あ・・・ここは、ほんとに変わってないんだ・・・
「総司、誰だそいつ」
「友達です」
「ふーん。また変なの連れてきやがって」
「いいじゃないですか」
座敷を上がったところに、土方さんが座っていた。
「土方さん!!!」
俺は土方さんところに駆け寄って行った。
「お・・・お前!!太陽じゃないか!!」
「よかった・・・知ってる人がいた・・・」
「どうしたんだ!」
「ううう・・・タイムスリップしたみたいです・・・」
第二十二章END




