願い
第二十一章
道場は、とりあえず一週間の休みを取ってるけど、もう時間がない。
しかし、八木邸の刀傷を触った時、俺の頭の中に映った映像は何だったんだろう。
新さんは隊服を着ていたし、新選組の隊士になったのだろうか。
はっ・・・そういえば、新さんが剣道を習い始めたのも・・あんな短期間に強くなったのも・・全てはこのため・・・??
新選組の隊士として戦うために・・・
だから連れて行かれたのか!
もしそうだとしたら、酷い!酷すぎる!
新さんは、現代の人間だ!
どうして神様は、そんなむごい悪戯をするんだ。
どうか生きていてくれ・・・新さん!!
俺は誰もいない道場へ行った。
中へ入るとシンと静まり返り、冷たい空気が体に痛いほどだった。
俺はここで、土方さんや伊佐美さん、そして門下生の人たちが稽古をしていた日々を思い出していた。
どうしよう・・・これからどうすればいいんだ・・・
ロッカーには土方さんが使用していた胴着が、きちんと畳んで置かれてあった。
いつも綺麗に洗濯していたもんな。几帳面な人だったからな・・・土方さん。
俺はその胴着に触れた。
あっっっっっ!こ・・これはっ!
するとまた、俺の頭の中に映像が映った。
新さん!!これは八木邸じゃないか・・・誰かと話ししているぞ!
誰だ・・・俺にはわからない・・
あっっっ!土方さんだ!伊佐美さんもいるぞ!!
くっ・・・声が聞こえればいいんだが、映像だけだ・・・
「新さん!!新さん!!」
俺が大声で呼びかけたとたん、映像は消えた。
あっっっ!なんで消えたんだ・・・
俺はもう一度、土方さんの胴着を触り直した。
しかし、再び映像が見えることはなかった。
今の映像は過去の「現在」なのだろうか。
だとすると新さんは、まだ生きているということだ。
くそっ・・・どうすれば戻せるんだ・・・
はっっ!そうか。刀傷を触った時もそうだし、この胴着もそうだし、土方さんや新選組の人が残したものに触れば、映像が見られるのかも知れない。
俺はもう一度、胴着に触ってみたが、ダメだった。
そうか・・・チャンスは一回限りなんだ。
俺は他に土方さんが残したものが無いか探し回った。
あっ、竹刀だ。そうだ、竹刀がある!
えっと・・・土方さんが使っていた竹刀・・・竹刀・・・
俺は手あたり次第竹刀を触って回った。
すると一本の竹刀を触った時、映像が見えた。
あっっっ!
映像には、俺の知らない人ばかりが見えた。
誰だ・・・新さんはどこだ!!
俺は黙ったまま暫く映像を見ることにした。
それにしても、みんな若い人ばかりだ・・・
子供と遊んでいる人がいる・・これって沖田さんなのかな。子供が好きだって前に土方さんが言ってたし・・
きっとそうだ・・・この人が沖田さんなんだ・・・
あっっっ!!新さんだ!!
新さん!!俺はここだ!お願い!俺に気がついて!
それにしても新さん・・・着物を着て木刀を持ってる・・・
どこへ行くんだ・・
あっっ、ここは壬生寺だ・・・
誰かと打ち合ってるぞ・・・そうか、稽古してるのか・・
新さん・・・なんでそんなに活き活きとしてるんだ・・
もう「過去」の人間になってしまったのか・・・
ガラッ・・・
あっっっ!
道場の戸が開いたとたん、映像が消えた。
振り返ると京太郎くんが立っていた。
「京太郎くん・・」
「こんばんは・・」
「どうしたの?」
「電気が点いていたので、誰かいるのかなって思って・・」
「そっか」
「星川さんだけですか?」
「あ・・うん・・」
「稽古はいつからですか?」
「それは・・」
「どうかしたんですか・・」
「いや・・稽古の再開はまだ未定なんだ」
「えっ」
「京都に行ってね、沖田くんのご両親を説得できなくて・・両先生は、まだ京都なんだ・・」
「そうなんですか・・」
「先生方が帰ってきたら、連絡するから、それまで待っててくれないかな」
「そうですか。わかりました」
そう言って京太郎くんは帰って行った。
しかし・・映像を見るためには邪魔が入ってもいけないし、声を出してもいけない。
土方さんが使用していた物なんて限りがあるし、一度触れたものには二度目はない。
一回限りなんだ。
そうだ!土方さんの湯呑があったはずだ。
俺は流し台へ行き、土方さんの湯呑に触った。
あれ・・・なにも見えない。。
どうして??
この湯呑は土方さん専用のはずだ。なぜ見えないんだ・・・
そうか!思い入れの強い物しかダメなんだ・・・
刀傷もそうだし、胴着も竹刀も・・・
だとしたら、もう他に残ってないじゃないか!!
しまった・・・どうすればいいんだ・・・
俺は家へ帰り、途方に暮れたまま、眠りについた。
「いらっしゃいませ。こちらは一週間となりますが、それでよろしいですか」
「はい」
次の日、俺は仕事場でお客の相手をしていたその時、隣のカウンターでレジを済ませようとしていた女性客の会話が耳に入って来た。
「あのさ~こないだね、新選組の本を買っちゃって」
「へぇー」
「みんなかっこいいの~」
「そうなんだ」
「で、私のお気に入りは、新ちゃんなの」
し・・・新ちゃん!?
もしかして・・・新さんのことじゃないのか!
俺は体が硬直しそうだった。
「あ・・・あの!」
俺は思わず仕事を忘れて、その女性に声をかけた。
「な・・・なんですか・・?」
「その・・新ちゃんって・・新五郎ですか・・」
「うん、そうだけど」
やっぱり!!
「ちょっと、早くしてくんない?」
「あ・・申し訳ありません」
目の前のお客にそう言われ、俺は慌てて対応した。
新選組の本って言ってたな・・・
俺は帰りに本屋へ寄り、とりあえず新選組に関する本を手あたり次第探した。
どれだ・・・どれだ・・・たくさんあるな・・
小説より、ノンフィクションの方がいいな。
俺は一冊の本を手にした。
『幕末に儚く散った浪士 新選組』
俺は急いでページをめくった。
隊士名・・・隊士名・・・あっ!あった。
えっと・・小二田新五郎・・・新五郎・・・
あっ!伊佐美さんの名前が載ってる!!
そっか。。伊佐美さん新選組に入って活躍したんだな。。
新五郎・・新五郎・・
あ・・・・あった。。
鬼田新五郎・・・苗字が間違ってるじゃないか・・なにやってんだよ。著者は。。
-------鬼田は一番隊の隊士として沖田と並ぶほど、剣術に秀でた人物であった。時々、妙な外来語を話すことでも有名で、一時はスパイではないかと隊士たちから疑われたが、土方や伊佐美がいつもかばっていたという。その後、鬼田は・・・
ダメだ・・これ以上読むと、どこで死んだとかわかってしまう。
それだけは絶対に知りたくない。
いや、まだ死んでない。
映像では生きていた。
早くこっちの時代に戻さないと、ほんとに死んでしまう!!
俺はうな垂れて、駅からトボトボ歩いていた。
公園を通り過ぎようとした時、俺の足は自然と「あの」ベンチに向いていた。
俺はベンチに腰を掛け、しみじみと思った・・・
ここから全てが始まったんだ・・
あの数ヶ月の日々はなんだったんだろう・・・
なんの意味があったんだろう・・
いや・・意味はあった。新選組や幕末の人たちが、どんな想いで命を懸けて国を守ろうとしたか、少なくともその想いだけは知ることができた。
でも、新さんが過去へ行って新選組に入る意味はどこにあるんだ・・・
そんなのどこにもない!!
お願いだから帰って来て!!新さん!!
その数日後、公園が取り壊されることになった。
子供たちが遊ぶことはないし、防犯上危険だからという理由だった。
取り壊されるのか・・・もうここは無くなってしまうのか・・・
俺は、最後の手がかりとなる場所と考えていたので、腕をもぎ取られる心境だった。
工事関係者が来て、作業の手順などの打ち合わせをしていた。
「きみ、よくここで遊んだの?」
工事関係の男性が話しかけて来た。
「あ・・いえ・・」
「違うのか」
「・・・」
「なんか淋しそうな顔してたからね」
「そうですか・・」
「子供も減る一方で、こんな小さな公園で遊ぶ子もいなくなったね。今はテーマパークとかいってさ」
「はい・・」
「俺、個人的にはこういうの残したいんだけどさ」
「はい・・俺も残してほしいです」
「そうだよね」
「工事はいつからですか」
「えっと、明後日からかな」
「そうですか・・」
俺は公園が無くなる前に、もう一度なにか手掛かりはないかと、次の日、公園を探して歩いた。
確か・・・羽織はあの植え込みの場所にあったんだよな。
俺はその場所を丹念に探した。
なにも無いな・・・やっぱり無理か・・
俺が他の場所を探そうとした時、一本の紐のようなものが見えた。
なんだ・・・これ・・・
俺はその紐を引っ張った。
その時、映像が見えた。
あっっっ!これはっっ!また八木邸だ・・・
すると・・・この紐は・・
土の中から出てきたのは袴だった。
あああ!!これはもしかして、土方さんの袴じゃないのか!
そうだ!あの日、土方さんは着物しか着てなかった。
袴は穿いてなかった!!
新さん!!新さん!!聞こえるか!!
俺だ、太陽だよ!!お願いだ、気がついてくれ!!
俺は心の中で絶叫していた。
「新さん!!!」
俺は思わず口に出して言ってしまった。
すると映像は消えた。
し・・・しまった・・・なにやってんだ!俺は!!
ううう・・・俺は袴を抱えて号泣した。
土方さん・・・お願いだ・・・新さんを帰してください・・・
お願い・・・帰して!!
「太陽」
えっ・・・
振り向くと、そこには新さんが立っていた。
「し・・・・新さん!!」
新さんは新選組の隊服を着て、呆然と立っていた。
「新さん!!ほんとに新さんですか!!」
「うん・・」
「帰ってこれたんですね!!よかった!!」
俺は新さんに抱きつき、また号泣した。
「俺は・・・なんでここにいるんだ・・」
「えっ・・・」
「今から池田屋へ行くところなのに・・・」
「ええっっ!」
「俺は池田屋へ行かなくちゃならないんだ!」
「何を言ってるんですか!もう池田屋に行く必要はありません!」
「太陽!お前こそ何を言ってるんだ!」
「新さん!!しっかりしてください!」
「だって、京の町が火の海に・・・それで天子様が誘拐される・・・」
「もう、幕末じゃないんです!終わったことなんです!」
「そ・・・そんな・・・」
第二十一章END




