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平成剣士  作者: たらふく
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消えた?

第二十章



俺たちは三条の池田屋跡に着いた。

居酒屋になってるのか・・・それにしても派手だな。新選組一色だ。


土方さんは呆然と立ちつくしていた。


「これが・・・これが池田屋なのか・・」


土方さんは「池田屋騒動」と掘られた碑をじっと見つめて、その石を撫でていた。


「ここだ・・俺はここに来る途中・・・この時代に迷い込んだんだ・・近藤さん・・・近藤さん!」


土方さんはその石を抱きしめて、大きな声で泣いていた。

道行く人たちは、その姿を見て、驚きながら通り過ぎて行った。

伊佐美さんは、その後姿に優しく手を添えていた。


「伊佐美・・・俺は戻りてぇ・・・戻りてぇよ・・」

「はい・・・」

「どうすれば戻れるんだ!」

「歳さん・・わかります・・わかりますよ・・」


伊佐美さんも泣いていた。

そして俺たちは、三条大橋の上へ立った。


「鴨川か・・・」

「はい」

「この水の流れは変わらねぇな」

「はい、そうですね」


土方さんと伊佐美さんは、橋の上から遠くを眺めて静かに呟いていた。

俺と新さんは、既に言葉を失っていた。


「なあ、伊佐美、俺は土方歳三なんだよな」

「はい」

「新選組副長の土方歳三だよな」

「はい」

「じゃあ、そんな俺がなんでここに居るんだ」

「・・・・」

「教えてくれ!なぜ俺はここにいる!」

「歳さん・・・」

「俺がここにいる意味はなんだ!俺はこんなところでなにをしている!」

「・・・」

「こんな西洋かぶれの妙な格好をして、何をしているんだ!」


伊佐美さんはずっと下を向いたまま、泣いていた。


「すまん、伊佐美・・お前を責めるつもりはねぇんだ」

「わかっています。私はいくらでもお聞きします」

「すまねぇ・・」


「近藤さーーん!総司ーーー!平助ーーー!新八ーーーー!俺を置いて行かないでくれええええーーー!」


土方さんは、元の時代にも聞こえるほどの大声をあげて叫んだ。

周りの人は驚いて、中には走って逃げる人もいた。

でも俺は、それを止めることはできなかった。

新さんも泣いていた。


どうしてこんなことになったんだ・・・

帰してあげたい・・・帰してあげたい・・・


そして俺たちは、もう一度八木邸へ戻った。


「新さん、俺、さっきの男性に説明はいらないって言いましたから」

「そうなんだ」


俺たちは四千円を払って中へ入れてもらった。

座敷へ上がった土方さんは、言葉を失っていた。


「ここは・・・」

「歳さん、どうかされましたか」


伊佐美さんがそっと声をかけた。


「ここは・・ここには・・近藤さんがいるんじゃないのか!」


そう言って土方さんは、屋敷を「探して」回った。


「近藤さん!総司!いるんだろ。出て来てくれ!」


スタッフの人が止めに入ろうとした。


「あの、すみません、何もしませんので、お願いですからこのままにしていただけませんか」

「でも・・・」

「お願いします!」


俺は土下座をしてお願いした。


「俺もお願いします!」


新さんも土下座した。


「ちょ・・・ちょっと、困ります、止めてください」

「お願いです、少しの時間でいいんです!お願いします。このままにしてください!」


俺は泣きながら訴えた。


「わ・・わかりました・・」


スタッフの人は、ようやく許してくれた。

伊佐美さんはずっと土方さんの後ろを着いて歩いていた。


「なんでどこにもいねぇんだ・・」

「歳さん、きっとあの方たちの魂はここにありますよ」

「・・・・」

「池田屋から全員無事に戻って、祝杯をあげていますよ」

「・・・・」

「歳さんの想いは、きっと届いています」

「伊佐美・・・ここは俺がいたころと同じなんだ・・」

「はい・・」

「なぜ、俺だけが・・・」


土方さんは、その場に伏し泣き続けた。

伊佐美さんは、その肩を優しく抱いていた。

新さんは思わず駆け寄り「土方さん!」と言い、同じように肩に手を置いた。


振り返るとスタッフの人は、外に出ていた。

よかった・・・わかってくれたんだ。。

俺は溢れる涙を止めることも出来ず、立ちつくしたままだった。


あ・・・えっ?あれっ?


振り返ると三人の姿が消えていた。

えええ、どこへ行ったんだ。

隣の部屋かな・・・新さん!歳さん!伊佐美さん!

俺は名前を呼びながら、探し回った。


いない・・・どこにもいない・・

外にも出て探したけど、見つからない。


消えた・・・???

だって一瞬のことだぞ。俺がスタッフの方を見たのは。

ほんの一瞬だぞ。

その間に、どこへ行くっていうんだ。


探し回ったが、結局見つからなかった。

八木邸を出る時には、うまく誤魔化して出た。


おかしい・・・なにがあったんだ。。

俺は前川邸に行き、壬生寺にも行った。

しかし、見つからなかった。。

一体どういうことだ・・・・


日も暮れて、俺は宿泊先のホテルに向かった。


部屋で俺は考えに考え抜いた。

でもどうしてもわからなかった。

ひょっとして・・・ひょっとして・・・元の時代へ・・・

ま・・・まさか・・・まさかだよな・・・


いや、もしそうだとしたら・・・新さん!!

新さんまで連れて行かれたのか!そっんな!!!

はっ・・・そういえばあの時・・・新さんは土方さんの肩に触れていた・・・

そんなことって・・・あり得ない!!


俺は次の日も八木邸へ行った。

また来たかと思われると厄介なので、サングラスを買ってかけた。


俺は千円払って中へ入った。

すると何人かの観光客と一緒に、ガイドの説明を聞いた。


昨日・・・この場所で消えたんだ。。

でも三人の姿はない。

俺は説明を聞くどころじゃなかった。


「それではこちらの部屋へどうぞ」


ガイドがそう言って、隣の部屋を案内した。


「ここは、芹沢鴨が暗殺された部屋です。刀傷も残っています」


そう言って、刀傷の跡を指してくれた。

そうなんだ・・誰のものだろう。

俺はそこに触れた。

すると頭の中に、土方さんと伊佐美さんと新さんが隊服を着て、颯爽と走る姿が見えた。

えっっっっ!俺は思わずその手を離した。


なんだ・・・今のは・・・

俺はもう一度触れてみた。

しかし今度は何も見えなかった。

新さんが新選組の隊服を着て・・・走っていた??


もしや、池田屋へ向かっている途中なのか!

新さん!ダメだ!殺されちゃうよ!

戻って来て!お願い!戻って来て!


しかし何も起こらず、俺は八木邸を後にした。

新さん!!

俺の心は空っぽになったまま、東京へ戻った。


それから二日が経った。

仕事場には、新さんは入院したと嘘をつき、休暇届を代わりに出した。

道場は、どうすればいいんだ・・・

俺一人ではどうすることもできない・・・


そうだ・・葛下さんに相談しよう。

俺は早速、葛下さんの家へ向かった。


「おやおや、お珍しい。どうぞ」


俺は中へ入れてもらって、座敷に通された。


「どうしたんですか、急に」

「あの・・・あの・・・」

「まあまあ、落ち着いてください。なにかあったのですか」

「あの・・・土方さんと伊佐美さんと新さん、いえ、新五郎さんがいなくなってしまったんです・・・」

「どういうことですか?」


俺は京都でのことを、全て話した。


「なるほど・・・それは困りましたね・・」

「はい・・」

「おそらく、君の言う通り、彼らは過去に戻ったのだと思います」

「僕もそう思います」

「でも厄介なのが、新五郎くんまで連れて行かれたということですね」

「はい・・・」

「さて、どうしたものか・・・」

「僕も、どうしていいのか・・・ううう・・・」

「泣かなくてもいいですよ。あまり思い詰めないように」

「・・・・」

「こればっかりは、偶然に任せるというか、それを願うしかありませんね」

「そ・・そうですね・・」

「それより・・・と言ってはなんですが・・・」

「はい・・」

「これも偶然かもしれませんが、土方くんは京都へ出掛ける際に、着物一式と、愛刀を持って行きましたので、それに限っては幸いでした」

「そうなんですか・・」


あの荷物は、それだったのか。

ほんとだ。葛下さんの言う通りだ。

持って行ってなかったら、着物はいいとしても、刀が残ったままでは土方さんも心残りだろうし。

でも、それを持って行ったってことは、何か感じるものっていうか、予感があったのかも知れないな。


「でも葛下さん、淋しくなりますね・・・」

「私ですか?なんの。たくさん楽しい思い出ができました。それで充分です」

「・・・・」

「君こそ、淋しいんじゃありませんか」

「それは・・・そうじゃないと言えば嘘になりますが、僕もいい経験をさせてもらいました」

「そうですか」

「あの人たちに出会って、生き方っていうか、適当に生きてちゃダメなんだってことを学びました」

「そうですね」

「同じ日本人の血が流れているんです。過去に若くして亡くなった人たちの想いは、今の僕たちが引き継がなきゃいけないんですね」

「はい、そうですね」

「すみません、長居をしてしまって・・・」

「いいんですよ」

「僕、新五郎さんのこと諦めずに、なんとか手がかりを探します」

「私も協力しますので、どうぞ遠慮なく言ってくださいね」

「はい、ありがとうございます」


そして俺は、葛下さんの家を後にした。


第二十章END

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