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平成剣士  作者: たらふく
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見物

第二章




次の日、土方さんはよほど疲れていたのか、朝になっても寝ていた。

起こしたらかわいそうだな。このままにしておこう。

俺はバイトがあるし。


--------土方さんへ。ぐっすり眠っていたので起こさずに出掛けます。おにぎりを作っておきましたので食べてください。昨日、お茶を入れていた箱に色々と入ってますので食べてください。それから俺が帰るまで外には出ないでください。



俺は書置きをして出掛けた。

起きたら俺がいないから驚くかな。

外に出たら大変なことになるから、絶対に出ないでほしいけど、昨日、あれだけ思い詰めていたからな・・・

それにしても、新選組の土方歳三か。。

あれからちょっと調べたけど「鬼の副長」って言われてたんだな、あの人。

確かにそうだ。めちゃくちゃ怖い表情になるんだよな、時々。


「おはようございます」


俺のバイト先は、レンタルCD、DVD店だ。

24にもなって定職がないっていうのも情けないんだが、いまいち就活には踏み出せないでいた。


「おはようー」


彼は1つ上の先輩で、小二田新五郎という武士みたいな名前を持っている。

だからという訳ではないが、彼は歴史好きで知られている。


「新さん」

「なに?」

「新さんって、新選組って知ってます?」

「なんだよ、いきなり」

「いや、特に理由はないですが」

「当然、知ってるよ」

「そうですか。土方歳三って人は?」

「知ってるに決まってるじゃん。新選組を知ってて土方を知らないってあり得ないよ」

「そうなんですか」

「新選組がどうかした?」

「いえ、別に・・」


俺の家に土方歳三がいるって言ったらびっくりするだろうな。

ってか、絶対に信じないよな。


「新選組ってどんな組織なんですか?」

「うーん、そうだなあ。簡単に言えば武士になりたかった人たちの集まりっていうか」

「へぇー」

「局長の近藤と、副長の土方の出自は武家じゃないんだよ」

「へぇー」

「でも剣術は秀でたものがあって、武士になりたかった二人は試衛館という道場の仲間とともに当時の都であった京都へ行って一旗揚げようってことで」

「なるほど」

「なんで?」

「いや、別に」


そうか。武家の出身じゃなかったのか。

でも刀を持ってたし、武士の真似事をしていたのかな。

あの時代じゃ、もう黒船が来たりして、刀とかの問題じゃなかったはずなのに。

でも武士になりたかったんだな。土方さんは。


「太陽って歴史なんて全く興味なかったはずだよな」

「はい」

「それがまた、なんで。しかも新選組ってさ」

「まあ・・」

「あ、あれか!最近、刀剣ブームだからか」

「刀剣ブーム?」

「えっ、知らないのか。刀剣を擬人化したアニメやゲームが流行ってるんだよ」

「へぇー」

「なんだ、違うのか。ここでもよく貸し出しされてるよ」

「そうなんですか」


そんなのが流行ってるんだ。この店で働いていながら、お客が借りる作品なんて興味が無いから気がつかなったな。

刀剣ブームねえ。へぇ。


俺は仕事を終え、帰りにコンビニでお弁当を買った。

土方さん、ちゃんと家に居るかな。


「ただいま」


あれっ、返事が無いぞ。いないのか?

俺の部屋は2DKの小さな住まいだ。

俺の声が聞こえてるはずなのだが・・・

奥へ入ったら土方さんは座っていた。


「あ・・居たんだ。。よかった」

「どこへいってたんだ」

「バイト・・いや、働きに」

「そうか。何の仕事をしてるんだ」


ええーー・・・説明が難しいな。。


「えっと、この「テレビ」っての、昨日教えましたよね。この箱で、記録してある映像を観れるものがあって、それを貸し出している店で働いています」

「ほう。貸本屋みたいなものか」

「あ、そうそう。そうです」

「そうか。ご苦労だった」

「お弁当、買ってきましたので食べましょう」

「そうか」


俺はお湯を沸かし、今度はコップじゃなくて湯呑を用意した。


「土方さん、今日は何をしていたんですか」

「外へ出るなと書いてあったので、ずっと刀を握りしめてたよ」

「そうなんですか・・」


よっぽど大事なんだな・・・


「刀ってそんなに大事なものなんですか」

「当然だ。刀は武士の魂だ」

「魂・・・」

「俺の刀は人の血を吸っている」

「え・・・」

「しかし己のために斬ったんじゃねぇ。全ては隊のためだ」


なんだか、すごくリアルなんだけど・・


「お前は剣術をやったことがあるのか」

「ありません」

「そうか。それなら理解できねぇだろうな」

「はい」


何を話せばいいんだろう。

新さんなら、きっと話が弾むだろうに。


「湯が沸いたようだぞ」

「あっ」


俺はなるべく土方さんが違和感を持たないように、あえてお茶っ葉を使い、お茶をいれた。


「どうぞ」

「すまんな」

「さっ、食べましょう」

「ああ。いただきます」


土方さんは正座をして背筋を伸ばし、ちゃんと手を合わせてそう言った。

すごいな・・・今どき、こんな「いただきます」を、なかなか見ることが無い。


「お口にあいますか?」

「ああ。うまいぞ」

「そうですか、よかった」


唐揚げとか美味しいのかな。脂っこくないのかな。


「この茶はうまいな」

「そうですか。実家から送って来たんです」

「そうか。深みのある味だ」

「あの、土方さん」

「なんだ」

「明日、俺は仕事休みなんで、よかったら出掛けますか」

「どこへ行くんだ」

「今の時代を見物しませんか」

「そうか。それもいいだろう」


そして俺たちは明日、出掛けることにした。

次の日、俺はろくな服など持ってないが、できるだけいいのを選んで土方さんに着せた。

偶然にも背格好は俺と近いので、その点は好都合だった。


でも髪型が・・・ポニーテールって。。ま、いいか。

土方さんの服装は、白のシャツに紺のメンパンだ。

わ・・・俺が着るよりすごく似合ってる。

やっぱり背筋がピンと伸びてるからかな。

しかもすげーイケメンだし。

問題は靴だよな。


「土方さん、これ、履いてみてください」

「これはなんだ」

「スニーカーっていう履物です」

「ほう・・・」


これも偶然か、ピッタリとはいかないまでも、履けた。


「どうですか」

「少し窮屈なんだが・・・」

「すみません、今日はそれで我慢してください」

「わかった」


外は天気も良く、さわやかな風が吹いていた。

これなら土方さんも過ごしやすいだろう。

俺たちはまず、電車に乗った。


「これが150年後の日の本なのか」

「はい。どうですか」

「外国には侵略されてねぇんだよな」

「はい、そうですけど」

「どうしてこんなに知らない言葉が氾濫してるんだ。日の本の言葉じゃねぇぞ」

「えっと・・・それは」


どうしてだ?


「150年の間に外国の文化とか、入って来たんだと思います。今ではどの国とも交流していますし、この電車も外国の文化です」

「そうなのか。これならどこへでも速く行けるというわけか」

「はい」


土方さんは電車の中を見回し、珍しそうにしていた。


「こんな乗り物が150年後になぁ・・・」


そう呟いた土方さんは、俯いてしまった。

東京駅に着いて土方さんは、更に人の多さに驚いていた。


「人酔いしそうだ・・」

「大丈夫ですか」

「ああ」


なんか余計なことしちゃったかな、俺。

しかも足も痛そうだし。

人の多さに加えて、乱立するビル群にも言葉を失っていた。


「なんだ・・あの女どもは」


そこにはミニスカートを穿き、厚化粧、髪は金色、アクセサリーもチャラチャラの女性たちが立っていた。


「あ・・えっと、今の流行っていうか・・」

「あれが日の本の女なのか・・」

「はい」

「恥じらいというものが無いのか」


土方さんにしたらそう思うんだろうな。

江戸時代の女性は着物だもんなあ。肌なんて出さないよな。


「あの人・・かっこいいよね・・」


俺の横で、そう囁く女性二人がいた。

土方さんのこと言ってるんだ。


「あの髪型も似合ってるよね・・素敵だね・・」

「すごくイメケンだし・・声、かけてみようか・・」


えっ・・それはダメだ。

俺は土方さんを引っ張って、急いで歩いた。


「なんだ」

「あっちに靴屋さんがあるので、土方さんに合う靴を買いましょう」

「そうか」


俺たちは靴屋に入り、土方さんに合う靴を探した。

何足か試し履きして、やっと合うのを見つけた。


「星川、俺はこれがいいんだが」

「えっ・・・下駄ですか」

「ああ」


そうか、やっぱり靴は窮屈なんだ。

下駄がいいならそれにするか。


「わかりました。これにしましょう。それとやっぱりこれも買いましょう」


そう言って俺は、スニーカーも併せて買った。


「散財させてしまったな。すまん」

「いいえ、いいんです。気にしないでください」


それから俺たちが呉服屋の前を通ったら、そこで土方さんは立ち止まった。

着物か・・・これは俺には無理だ。お金が無い。。


「土方さん・・・」

「これは試着できるのか」

「どうなんですかね・・・訊いてみます」


「いらっしゃいませ」

「あの、この着物は試着可能ですか」

「はい、どうぞ」


それから土方さんは着物を試着した。


「とてもお似合いですね」


店の人は土方さんを惚れ惚れする目で見つめていた。

これを「着こなしている」って言うんだろうな。

それにしても似合い過ぎだ。


「ほんとにお似合いです。お客様のために仕立てられたようです」

「それは言い過ぎだ」

「いえ・・・本当に。。」


その女性店員は、もはや心を奪われている感じだった。


「まるで・・・新選組の土方さんのようです・・」

「えっ・・・」


ダメダメ、言っちゃダメ!


「ああ、えっと、そろそろ行かないと」

「そうか」


俺は慌ててそう言って、土方さんを引っ張って店を出た。


「さっきの女は俺を土方だと言ったぞ」

「はい。でも「そうだ」と言ってはダメですよ。っていうか、信じてもらえないですし」

「そうか」

「外では土方さんと呼ぶのは控えた方がいいですね」

「そうか」

「えっと、歳さんと呼びます。それでいいですか」

「ああ」


それから土方さんは、あちこち見て歩いたが、なんだか悲しそうな顔をしていた。

そうだよな。やっぱり自分がいた時代に戻りたいよな。

淋しいのかな・・・


第二章END

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